第3.5話

 同刻・東の大陸・某所


『■■』は目を覚ました。

 

——暗い。

 明かりはなく、ただ闇が広がっている。

『■■』は暗闇の中、周囲を見渡す。


 ——ふと、青白く弱い光が辺りを照らした。

月明かりだった。ガラスのように透明な天井から差し込む弱い光。

 それにより、周囲の輪郭がぼんやりと明らかになる。

 眼前には、中世の宮殿を彷彿とさせるような空間が広がっていた。

 目の前に出現した大広間。広間は、様々な彫刻が施された十本の柱に囲まれ、その間には、明かりが灯っていない蝋燭が並んでいる。

——ここはどこだろうか

何も思い出せない。

自分は何者なのか。名前すら分からない。

……しかし、自分の中で燃え上がる感情があることに気づく。

この感情は知っている。

——怒りだ。


その認識が引き金となり『■■』は自覚する。

自分は憤怒の渦中にいることを。自分は怒りそのものだということを。

名前などあるはずがない。元より、自分に過去などない。

自分は、たった今この世界に誕生したのだから。

 ——ならば、動かなければならない。

この怒りを収めるために。この怒りの監獄から抜け出すために。

これは本能だ。怒りの体現者として生まれた者の根源的な行動基準。

『■■』は立ち上がり、動き出す。

ふと、剣の彫刻が施された柱の前で足を止め、手をかざす。すると、柱から彫刻と同じ形をした一本の剣が出現した。

剣を取り、『■■』は再び動き出す。

その眼に迷いはない。

一歩一歩、確実に歩き出す。

——そして闇の中、『■■』は消えていった。


 残されたのは、『■■』の座っていた椅子のみ。大広間を見渡せるように置いてあった椅子が、天井から差し込む月光に寂しく照らされている。

——ここは、王室。

東の大陸内に建てられた城。その王室の玉座にて『■■』は目を覚ました。


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GRAND FANTASY しんしん @Kishin1233

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