高見真治(47) 友人
「あいつは元気なんですかね? 心配と言えばそれが心配です」
「ご心配は不要でしょう。健康状態は良さそうですし、事件直後は興奮している様子でしたが、今は落ち着いています」
「ひとまず安心しました」
「高見さんは高校時代からの友人だと聞いたのですが?」
「はい、幸田とはもう長い付き合いになります。ですが、ここ一年は会ってませんでしたね。最後に会ったのは去年の十月だったと記憶しています」
「その時にはどのような話をされたか覚えていますか?」
「近況報告……みたいなもんですかね。あまり前向きな内容ではなかったです」
「詳しく話していただけませんか?」
先に要約すると、金銭的に苦しい時はどうすればいいかという相談でした。彼の収入は不安定で、何度か派遣切りをされた経験もあるみたいです。ああ、知ってたんですか。そうですね。派遣はそういうリスクから逃れることができない働き方ですから、仕方ないのかもしれません。いや、しかし彼に限って言うとかわいそうだなと僕は思うんです。彼は高校卒業と同時に正社員として就職しましたが、配属されてすぐに交通事故に遭ってしまったんです。職場を辞めて二年間入院する羽目になりましたが、その後も彼の不幸は続きました。退院して間もなく再就職先を探したようですが、二年の空白期間を過ごした新人同然の彼を雇おうとする会社はありませんでした。それでも、生きていくために仕事を探した結果が派遣だったと聞いています。……少し話が逸れましたね。そうやって何とかやってきた彼でしたが、その時の話ばかりは耳を疑いましたね。古河という僕も知っている同級生がいるのですが、幸田は彼から事業を立ち上げる話を持ち掛けられたそうです。当時仕事のなかった幸田は熱意に押されたのか、それとも彼の断れない性格がそうしたのかは知りませんが、それに協力したそうです。結果は――、まあ予想されていらっしゃる通りで、準備金と言われて幸田が渡した金を持って古河は消えたそうです。その一件があって、一気に金銭的に苦しい状況になったわけです。ええ、まあそれが近況報告でしたね。そうは言いつつも金を貸してくれとは一言も言わないのは昔から変わってなくて、結局は、僕が一万円札をいくつか無理やり押し付けて別れました。幸田はそういう人間ですから。
「それが一年前の出来事です。ここ一年をどう暮らしていたのかは僕も知りません」
「『金を燃やせ』……」
「新聞のやつですか?」
「おっと、すみません」
「何を思ってこんなことをしたのか、ですね。幸田のお母様と福本さんにも話を聞いたのでしたら、彼が何を思っていたのかは大体分かったんじゃないですか?」
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