解題

 ねぇ、御存知でいらっしゃいますか。人間の魂の重さは、21グラムなんだそうですよ。21グラム。五匁六分ごもんめろくぶでございますね。


 無知だったわたくしも、あの裁判に関わって少しは詳しくなりました。不同意堕胎罪により懲役六カ月という判決が出たのは二審、高裁での判決のことで、御存知の通り、一審での判決は同意堕胎罪により懲役一カ月、というものでした。

 あまりと言えばあまりに無体な、軽すぎる判決であると、検察の方は申されました。わたくし自身は、手術台の前で確かに手術を受ける旨承諾していましたから、同意があったと見做されても仕方はないのではないかと思っていたのですが、そうとは限らない、と検察の方はおっしゃいました。

 つまり、堕胎をすれば結婚をするというのは嘘の約束だったということをわたくしは知らなかった、というのが重要な点だったというのです。あの人はわたくしが妊娠した当初から実際には結婚するつもりなどなく、わたくしを別れるつもりでおりまして、そしてわたくしを堕胎させるつもりで例の医師と共謀などもしていたわけですが、その事実をわたくしがもし知っていれば堕胎に同意したはずはなく、従って、法律上、堕胎手術の行われたその場にわたくしの同意は存在していなかった、だからこれは不同意の堕胎なのだ、というわけです。

 そうしたわけで、一審よりは少しは重い懲役六カ月という判決が下ったわけです。でもわたくしはそれでも不審でした。わたくしが同意して手術に及んだということではないのなら、これは産まれてくるはずだった赤ちゃんに対する殺人ではないのかと、わたくしは検察の方に問いました。

 そう言うと検察の方は難しい顔をなさいました。そして、もし殺人であると認められるならばそれは当然もっと重い罪に問うことができることになるけれども、しかしわが国の法律上、「胎児が母体から露出するまで」は殺人の罪は成立しないのだと、仰いました。

 ねぇ、可笑しいですよね。赤ちゃんの身体の一部がわたくしの股座またぐらから顔を出したとして、にんげんの魂はそのときに始めて赤ちゃんに宿るのでしょうか。五匁六分の魂が、何処かから飛んでくるとでも言うのでしょうか。

 わたくしは今でも夢を見ます。わたくしの赤ちゃんが、痛い、痛い、やめて、やめてと言って泣く、そんな夢です。ねぇ、あなた御存知なら教えてくださいませんか。


 この世でもっとも罪のないものを殺す罪が、なぜこの世でもっとも軽いとされるのですか。わたくしには、どうしてもそれが分からないのです。

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五匁六分とあと少し 偽教授 @Fake_Proffesor

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