きみを生け捕る


きみは知ってるのかなぁ

ぼくは絵描きなんだ

なんだって描くんだぜ


なにかって?

それはなんだって


本物みたいに描くんだ

だから何を描いてもとっても高く売れるんだ


個展を開くと

すぐに全部売り切れちゃう


もっと描いて欲しいって言われるけど

なかなかたくさんは描けない


いつも迷ってるし悩んでる

なにを描いてもなにかが足りない


本物みたいに描いてるんだけど

本物ではないんだよね


そうだよね

当たり前だよね


もっともっと本物みたい描きたし

本物よりも本物みたいに描きたい 



絵の中に生け捕りするみたいに



怖い虎を描きたいんだけど襲ってこないし


気持ちよい朝を描きたいんだけど音楽は流れてこないし


秋の景色を描きたいんだけど落ち葉は音を立てないし


雪の降る平原を描きたいんだけど雪は融けてくれないし

 

広い空を描きたいんだけど風は吹いてこないし


深い湖を描きたいんだけど霧はただよってこないし


あかるいこどもを描きたいんだけど遊んでくれないし


大きな樹を描きたいんだけど話しかけてくれないし


その樹に止まるフクロウを描きたいんだけど目を閉じてくれないし


 

だからぼくの絵はいつも不完全

買ってくれるひとには申し訳ないって思ってる 


そんな感じ


いまぼくが緊張してるの分かる?


あのさ


あのね


一度きみを描かせて欲しいんだ 


とてもきみを描きたい


とてもとても


正直なところ自信はないけど


きみをきみ以上には描けないけど


きみがもっともきみである絵を描きたい


きみはきみ以上ではないし

きみはきみ以下でもないし


一生懸命描くからさ


こころを込めて描くからさ

 

そのままのきみを描からさ


だからきみを描かせて欲しい

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