パラレル
家の帰り道
最寄りの駅で降りて
地下鉄の階段を上がる
地上にでてそのまま真っ直ぐ歩き
5本目の通りを右に曲がる
住宅街をしばらく歩くと
一人暮らしのアパートにたどりつく
今日は帰りが遅くなってしまった
なぜか注意力が散漫になり
帰りが遅くなってしまった
めずらしくオフィスを出るのが最後だった
いつも開いているお店もしまっていた
帰りの電車は人が
最寄りの駅を降りたのはひとりだった
駅のホームを振り返り
ひとがいるのを確認したが
わたし以外だれもいなかった
こんなことははじめてだった
いつものように地下鉄の階段を上がった
階段にはだれもいなかった
いつものように通りをそのまま真っ直ぐ歩いた
この通りにだれもいなかった
1本手前の4本目の通りまできた
めずらしく
祭りの出店がたくさん並んでいた
お面がたくさん並んでいた
わた菓子
お好み焼き
射的
りんご飴
焼きとうもろこしを買って食べた
バナナチョコレート
ヨーヨーすくい
たこ焼き
フランクフルト
最後が金魚すくい
金魚の水槽を見るとたくさん泳いでいた
赤い金魚のなかに黒い金魚が混じっていた
宝石が泳いでいるようにきれいだった
どうですか
目の前に薄紙を張った道具が差し出された
見上げると店の主人がわたしに差し出していた
ねじり鉢巻きをしたおじいさんだった
お金はいいから
アパートには水槽がないのでやるつもりはなかったが
おじいさんの親切を断れずに道具を手に取った
というよりは反射的に手が出てしまっていた
いつもは教えないんだが
金魚をたくさん取るコツは
まず紙を最初に全部ぬらすこと
それから紙が張ってある方を上にして
水面にたいしてに斜めにいれて斜めにだす
水に逆らわないように
言われたようにやってみると
金魚がたくさんすくえた
永遠に紙が破れないような気がした
どれだけやっていたのだろう
ようやく紙が破れたときには
今まですくえたことがないほどの
金魚が容器のなかで泳いでいた
36匹
すごいねえ
今日の記録を1匹更新したよ
おじいさんは3つの袋に分けて
すくった金魚を渡してくれた
金魚は持ち帰らすに
戻すつもりでいたのに
思わず袋を手に取ってしまった
どうもありがとうございました
わたしは金魚すくいを後に家路についた
しばらく歩き角を曲がるとアパートが見えた
なぜか家の明かりがついていた
朝、消したはずなのに窓が明るかった
前からひとりの男が歩いてきた
オフィスを出てからはじめてすれ違う人だった
右手に金魚を入れた3つの袋と
左手にバックを持っていた
その男はわたしのアパートの前で立ち止まった
あやしい男が家に尋ねてきたと思った
しかしよく見るとどこかで見たことのある男だった
それはいつものように
5本目の通りから帰ってくるわたしであった
いや、わたしらしき人だった
わたしらしき人はアパートのチャイムを鳴らした
家の中から妻らしき女性が笑顔で出てきた
遅れて子どもらしき女の子が出てきた
わたしらしき人が金魚の袋を女の子に渡した
3人は笑顔でアパートの中に入っていった
わたしは、わたしのアパートの前まで歩いた
家の明るい窓の中から楽しそうな話し声が聞こえた
わたしは自分の家に入ることができなかった
わたしが、わたしらしき人なのか
わたしらしき人が、わたしなのか
よく分からなくなった
ひとり世界で孤立している気がした
どうしたらよいのか分からず
今来た道を戻った
角を曲がると出店がなかった
出していた形跡もなかった
住宅街がまっすぐに続いていた
金魚をすくったところまでくると
おじいさんが座っていたところに小さな
小銭を取り出しお
4本目の通りは5本目の通りと変わりがなかった
わたしの手にも金魚はなかった
わたしは家にもどることにした
しばらく歩き角を曲がるとアパートが見えた
つぎは家の明かりはついていなかった
窓は真っ暗だった
家の前まで来て鍵を開けて家のなかに入った
いつものわたしの部屋だった
家のなかに温かさが残っている気がした
こころの中がもやもやした
ふわふわしたわた菓子がこころの中で広がった
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