本屋さんの本

あなたよ

苦しみ悩むあなたよ

 

どうかわたしを手に取ってください

 

わたしには分かります  

今この瞬間

あなたがわたしを必要としていることが


わたしは隣の本とは違います

いえ、この本屋さんのどの本とも違います

 

わたしのご主人様は

あなたと同じような

もしかしたら

あなたが直面している苦悩よりも

激しい経験をしてきました

もしかしたら

あなたには耐えきれないほどの

試練を乗り越えてきました


わたしのご主人様は

恥も外聞もかなぐり捨てて

そのことを克明に記しました

 

わたしの体は

こんなに小さいけれど

きっときっと

あなたの胸を締め付けるほどの思いを

少なからず和らげることができます  


だからどうか

この小さなわたしを

手に取ってください 


そして表紙だけでもめくってください

そして少しでも読んでみてください


1章でも

1ページでも

1行でも


店員に気付かれないように

栞をはさんでください


わたしはまさに今のあなたのために存在しています


わたしに足があるなら

あなたの前に走って行きたい

わたしに翼があれば

あなたの前に飛んでいきたい

わたしに念力が使えれば

あなたに送り続けたい


でもわたしにはどうにもできない


だから  

あなたは自力でなんとか

わたしを見つけて下さい


そうしたら

わたしの手足の文字たちを思い切り振動させ

あなたの意識に飛んでいきます


手に取るだけであなたは気づくはずです


あなたがわたしを必要としていることが


どうかわたしを見つけて下さい

 

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