大きな器


ぼくは広い広い砂丘の真ん中を歩いていた

どこまでもどこまでも砂丘が続いていた


空に一瞬影がさした

見上げると丸い影がだんだん大きくなってきた


みるみる大きくなって

ぼくの近くにドシンと落ちた

ぼくはぴょんと飛び上がった

すこし遅れて砂がバサあっとかかった


それはそれは大きなうつわだった


そのとき空から大きな笑い声が聞こえた


 わっはっはっはっはっああああああ!


空は雲ひとつないきれいな空だった


大きなうつわのふちは手をのばしても届かないところにあった


ぼくはその大きなうつわを一周した

一周するのにとてもくたびれた


ぼくは枯れ木を見つけて

その大きなうつわに立てかけて登った

大きなうつわの中はただのうつわだった


枯れ木がポキッと折れて

ぼくはうつわの中に落ちてつるんと滑って

反対側のふちから飛び出した


放物線を描いて空を飛んで

砂丘におしりからドシンと落ちた

すこし遅れて砂がバサあっとかかった


だんだん空が曇ってきて雨が降った

ぼくは大きなうつわの下の屋根に雨宿りした

雨をじっと見つめていた


とても長い雨だった


雨がやんでうつわの周りを歩くと

砂はとても締まっていた


ぼくはその砂を大きなうつわの周りに集めた

ずうっとずうっと砂を集めたら

大きなうつわのふちまで登っていけるようになった


大きなうつわのなかを見ると水がいっぱい入っていた

向こう岸まで泳いでみた


ぼくは大きなうつわの近くに

枯れ木を集めて小さな小屋をつくった

ぼくは大きなうつわのまわりに種をまいて野菜をつくった

色とりどりの野菜たちだった


屋根の隙間からたくさん星が見える夜だった

ドアをたたく音がして、表に出た

そこに女の人がいた


お水と野菜をその女の人に出してあげた

女の人はあっという間にそれを平らげて

すぐにぐっすり眠ってしまった

野菜の茎で編んだ布団をかけてあげて

ぼくも一緒に眠った


その日はたくさんの流れ星が見えた


その女の人はいつまでもここにいた

ふたりで野菜をつくるとたくさんできた


犬や猫、ニワトリや馬や牛

その野菜にたくさんの動物たちが集まってきた


大きなうつわのまわりに林ができて森ができた

その木を使って大きな家を造った


大きな家に家族ができた

小さなこどもは犬や猫や馬といっぱい遊んだ


たくさんの人が来て

大きなうつわのまわりに家がひとつ建ちふたつ建ち

たくさんの家が建った

笑顔が絶えない町になった


でも町に全然雨が降らなくなった


大きなうつわの水が少しなくなると

町の人も少しいなくなった


大きなうつわの水が半分なくなると

町の人も半分いなくなった


大きなうつわの水が少しになると

町の人も少しになった


大きなうつわの水がコップ一杯ほどになると

ぼくと女の人だけになった


大きなうつわの水が一滴になると

町はぼくだけになった


大きなうつわの水が全部なくなると

とても強い風が吹いた


大きなうつわのまわりの砂は吹き飛んで

大きなうつわは風にあおられてひっくり返った

ドシンと大きな音がした

すこし遅れて砂がバサあっとかかった


そのとき空から大きな笑い声が聞こえた


 わっはっはっはっはっああああああ!


空は雲ひとつないきれいな空だった


ぼくは大きなうつわの小山に登り

膝を抱えて空を眺めた


夜遅くまでじっと空を眺めていた

たくさんの流れ星が流れる夜だった


冷気がさして

ぼくは身ぶるいを一回した





















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