クヌギのあかとあお (2/3)

 

ぼくはぐんぐん伸びて

あかもぐんぐん伸びた


いっぱい体から芽が出て葉っぱが出て

枝がふたてに分かれるとき

ぼくは必ず右を選んだ


少しずつ遠くに離れて行くあかは

必ず左を選んだ


反対側のあかに向かってぼくは叫んだ


おーーーい、あか! そっちはどうだい!

"・・・・・・"


あかからは返事がなかったけど

葉っぱを揺らしてくれた


でも心の声は聞こえたよ  

"おれも元気だぜ"って

 

ぼくが朝日を眺めるとき

あかも同じ朝日を眺めた

 

ぼくはずっと北を目指して伸びて

あかはずっと南を目指して伸びた

 

ぼくが北極星とおしゃべりしているとき

あかはアンタレスとじゃれあった

 

ぼくには根っこから栄養がどんどん流れて

あかは太陽の光を体いっぱいに浴びた

 

ぼくがスモモと背くらべしているとき

あかはエノキと背くらべした


ぼくの体もだんだん太くなり

あかの体に割れ目ができた


ぼくが夏の木陰で涼んでいるとき

あかは強い日差しを受け止めた

 

ぼくの樹液には、コガネムシやゾウムシやカミキリムシ

あかの樹液には、オオムラサキやカブトムシやクワガタムシ

 

ぼくが風の音に震えているとき

あかは台風の強い風を受け止めた


ぼくの目の前に大きな虹ができて

あかにもこの虹をとってもみせたかった


ぼくんちでキリギリスが歌っているとき

あかんちのコオロギがハーモニーを奏でた


ぼくから産まれたどんぐりをリスたちが土に隠し

あかから産まれたどんぐりをイノシシが食べた


ぼくが北風を受け止めているとき

あかは積もった雪の重さに耐えた

 

ぼくがまだ眠い目をこすっているとき

あかのところはスズメバチが飛びまわった

 

ぼくのぶら下がった雄花が風に揺られているとき

あかの雌花が花粉を受け取った

 

そういえば何回目の春を迎えるんだろう


ふたりはなんども同じ夕焼けを眺めて

なんども同じ夜露に濡れた

 

ぼくの周りはいつのまにかどんぐりが芽を出して

あかはいつのまにか背の高い子供たちに囲まれた

 

あかはとっても遠くにいるんだねえ

ここからあかがまったく見えないよ


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る