最終話

隆二はアイスコーヒーを飲んでいる。

ブラックのスッキリとした苦みとほのかな酸味が口の中に広がる。

いつもよりも格別に美味しい。


おそらく達成感に浸っているのが理由だ。

人生の中で一番の達成感。

とても清々しい気分なので味覚も冴えわたっているのだろう。


コーヒーを飲むペースはいつもよりゆっくり。

隆二は思い残す事が無いようにしっかりと一口一口味わう。


やがてグラスは空になる。


燃え尽き症候群のような虚無感に襲われる。

「ごちそうさまでした」

そうつぶやいた隆二はリビングに目を向ける。


血まみれの元人間が二つ横たわっている。

さきほどの光景がフラッシュバックする。



『私たちが悪かったわ。ごめんなさい。真奈美』

隆二を見る彼女達の目は明らかに怯えていた。

包丁を突きつけられれば当然だが、

彼女達の視線は包丁には見向きもしていなかった。


隆二、いや真奈美の顔にクギ付けだったのだ。



美貴と真衣は薄っぺらい改心宣言をしてアタシに命乞いをする。

いまさら懺悔の念に駆られたの?

今さら気づくなんて、あなた達の頭どうなっているのかしら?

許すわけ無いでしょ?ようやくこれで復讐が終わるわ。

あなた達で最後。やっと終わる。


頭の中で隆二と真奈美が混ざり合った。



激昂して我を忘れた隆二は気が付いたらババアとゴミを滅多刺しにしていた。

バラバラには出来なかったが、

捜査一課の刑事たちでさえも目を逸らしたくなるほどの「凄惨な現場」にはできたと思う。


満足した隆二は、穢れた血に塗れた身体をきれいにするため風呂場に向かった。






そして今隆二は【呪いのベンチ】に座っている。

シャワーを浴び終えると隆二はそのまま「〇✕駅」に向かったのだ。


隆二は心の中で「木村真奈美」に謝罪の言葉を述べる。

(穢れた血を持つのは残り俺一人です。そんな自分が気持ち悪くて、許せない。

償いにはならないと思いますが俺の命を差し出します。本当に申し訳ありませんでした)



懺悔を終えた隆二は何度か深呼吸をしてベンチを後にする。



シャンプーの甘い香りを漂わせて向かうのはホームの先頭付近。


もちろん隆二の意志で。






どこかの駅のホーム。


男子高校生二人組が話している。

『そういえば、○○いんじゃん?アイツ最近生意気じゃね?』

『あぁ俺もそれ思ってた』

『だよな!無視しようぜ』

『賛成~』



ホームを吹き抜ける風。


その音はまるで誰かのため息のようだった。



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『呪いのベンチ~新~』 U・B~ユービィ~ @Five-Seven-Five-UB

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