第1話 出向

 ピピピと電子音が狭い部屋に響く。

 朝がやってきた。

 いや、地下にいるので朝かはわからないが目が覚めたのできっと朝なのだろう。

「ふぁ…」

 今日から始まる事で頭がいっぱいであまり眠れなかった。

 ライターでランプの明かりをつける。

 高級そうなジッポライター。

 20歳の誕生日にこの地区の部隊長からプレゼントされたものだ。

 人間が平和に地上で暮らせていた頃のものらしい。

 拾ったものみたいだが、それでも貴重なものである。

 大事に使いたい。

 ライターをズボンのポケットにしまう。

「ご飯でも食べるか」

 腹が減っては戦はできぬ。

 しっかりと食べてこれからに備えよう。

 それにこれが、ここでの最後の食事になるかもしれない。

 パンとスープを用意する。

 こういったものも当初は食べられなかったが今では地下での小麦栽培などが成功して食べられるものが増えた。

 農家と技術者に感謝せずにはいられない。

「ごちそうさまでした」

 いつも通り一人での食事を終え、歯を磨いてから顔を洗う。

 そしていつもの迷彩服に着替える。

 タクティカルブーツもちゃんと履いて準備は万端。

「よし!行ってきます!」

 気合を入れて集合場所へと向かった。


「おはよう!伊吹!」

 集合場所に着くとすでに一人来ていた。

「おはよう」

 僕の仲間で今日から一緒に出向する雨宮隆あめみやたかし

 気さくで明るく女性に優しいし彼女もち。

 そんないい奴だ。

「早かったね」

「楽しみで寝れなかったんだよ~!」

「寝てないの!?」

「あまり寝れなかっただけさ。6時間は寝たと思う」

「6時間も寝られれば上々じゃないか」

「6時間でも俺にとっちゃ短いぜ?」

「確かに隆にしては短い方だけど」

 この男はとにかく寝る。

 訓練兵の時もそれで連帯責任を取らされて腕立て伏せや腹筋をかなりの回数した覚えがある。

「地上に出られるんだっけ?」

「地上はまだだよ。今回は地下道を通って目的地に…」

 話していると足音が聞こえた。

 その音が聞こえたと同時に僕らは会話をやめ、背筋を正し敬礼をする。

「「おはようございます!大佐!」」

「おはよう。今日は遅刻せずに済んだみたいだな」

 僕らの住むこの地域の軍人としてはトップの黒田大佐。

 この地域の治安維持は彼が担っている。

「2人が揃っていることだし、ちょっと早いがミーティングを始める」

「「はい!」」

「休め」

 僕らは足を肩幅に広げ、両腕を後ろで組む。

「簡単に今回の任務に就いて説明する。2人には今日から1週間、隣の自治区へ出向してもらう。向こうの軍人と一緒に働いてもらう。詳しい任務内容は向こうで聞いてくれ。そして注意事項だ」

 視線を持っていたタブレット端末から僕らに向ける。

「隣の自治区は…強烈な資本主義だ。政治的思想が強い。だから彼らには敵が多い。社会主義者や共産主義者やファシストなど、とにかく沢山いる。出向期間中に戦闘に巻き込まれるかもしれない。逃げろとは言えないが生きて帰ってこい」

「「はい!」」

「あとは…いや、これは言わなくてもいいか。とにかく気を付けてくれ」

 ふぅと大佐は一息置いてから話を続ける。

「武器屋に行って装備を整えてこい。それが終わったら俺が確認する。出発はそれからだ。よし、解散」

 姿勢を正し敬礼をして大佐が去るのを待った。

 

 2人に武器屋へやってくる。

「よお!二人とも!今日から任務か?」

「そうです」

「なら装備をそろえないとな」

「そのために来ました」

「だよな!うちの装備はいいぞ!リストはあるか?」

「これです」

 事前に大佐からもらっていた装備一覧を渡す。

「なるほどな…五式装備か」

「五式装備?」

 隆が首をかしげる。

「特殊戦闘用の最高装備だよ。大抵の弾は防げるし軽い」

「詳しいな」

「ちょっと調べたからね」

「とりあえず五式のセットだ。ベストとヘルメットは今使われている5.56NATO弾を防げる。それに軽量だから無駄に体力が奪われる心配がいらない。ブーツも軽量で動きやすい優れものだ。それとコレも大切、イヤーマフ。高いから壊したりするなよ?」 

 セットを受け取る。

「そしてコイツ、Haben2。ドイツ製のバックパックだ。大量に入るから色々と持ち帰って来いって事なんだろう」

 ちょっと…すでに持つのが大変なんですが…

「そしてここからが重要だ。対放射線戦闘服。こいつはある程度の放射線なら防いでくれる代物だ!それとガスマスク。地下でも高濃度の場所があるからこの2つが無かったら地下でも移動ができなくなる。そして」

 ひぇ…まだあるのか…

「その前に着替えたほうがよさそうだな。そのコンテナの陰で着替えてこい」

「わ、わかりました」

「了解!」

 ~お着換え中~

「ただいま戻りました」

「よし、あとは小物を渡していく。ガスマスクのフィルタを5つ。救急キット、この中には包帯とペインキラー、モルヒネが入っている。そして腕時計。この腕時計は時間が分かるのはもちろんの事、地図表示やフィルタの残り時間の表示、ガイガーカウンターの役割までしてくれる」

「伊吹、ガイガーカウンターってなんだ?」

「ガイガーカウンターは放射線を検出してくれるやつだよ」

「あぁなるほどね。それで通る場所が安全かどうかを判断しろってわけか」

「そゆこと」

「さて、ここからが一番のお楽しみだ。こっちへ来い」

 武器屋のおやっさんについていく。

「武器は好きなものを選ばせろとあったからこの中から好きなものを選んでいくと良い」

「おぉ~!」

 それはありがたい!

 今までは使いこまれたボロいものしか使えなかったけど新品を使えるとは…!

「説明はいるか?」

「お願いします」

「わかった。まずはアサルトライフルだ」

 1丁、机の上に出す。

「AKシリーズのAK65。ロシアのAK47をベースにしていて、今年から正式導入された新型だ。使用する弾薬はもちろん7.62で装弾数は40発。弾のばらつきは若干あるが威力や堅牢性は申し分ない」

 そういうと今度は別の銃を置く。

「サブマシンガンだ。Mk9という銃でイギリスのスターリングをモデルにしている。弾は9㎜で30発入る。無論、アサルトライフルに比べて威力はない。だが小型ゆえにトンネル内の狭い環境では取り回しがしやすい。まぁ横にマガジンが付いているから何とも言えんがな。こいつは…連射速度がある代わりにジャムを起こしやすい。そこだけ気を付けてくれ。そしてサブアームとして持っておきたいハンドガン」

 いくつか出された。

「9㎜拳銃。かつて自衛隊で使われていた物だ。シングルカラムで装弾数は9発。次がM1911EVOⅢ。いわゆるガバメントの後継機でより軽量に、より剛性を高めた銃だ。弾は.45ACP弾で装弾数は8発。そしてもう一丁、トマホークだ。こいつは中折れ式のリボルバーで使用する弾は.357マグナム弾で6発入る。リボルバーは男のロマンだな!さて、こんな感じだ。好きな銃を選んでくれ」

 机に並べられた銃を見る。

 どれも魅力的だ。

「俺はこれにするぜ~!」

 早くも隆は使う銃を決めたようだ。

「何にするの?」

「AKと9㎜拳銃だ」

 銃を手に取り嬉しそうに眺めている。

「タカシがそれにするならなぁ…」

 僕はメインは取り回し重視にしよう。

「これにするよ」

 Mk9とトマホークを手に取る。

 Mk9は訓練でもお世話になった銃だからつい手に取ってしまった。

 使い慣れた銃は安心する。

「よし、2人とも決まったな。弾薬はこれだ。リロードするときにマガジンは捨てるなよ?」

「わかりました」

「ありがとうございます!」

 お礼を言って大佐の所に向かった。


「2人とも似合ってるじゃないか」

 僕らの姿を見て大佐が言う。

 軍服の迷彩柄とは違う黒い戦闘服。

 地下という空間ならこちらの方が迷彩という意味では強いかもしれない。

「よし、バックパックの中身を確認する。バックパックを下ろせ」

「「はい!」」

 バックパックを下ろしてファスナーを開ける。

「迷彩服はあるか」

「「あります!」」

「ガスマスクのフィルタはあるか」

「「あります!」」

「予備の弾薬はあるか」

「「あります!」」

「食料、水はあるか」

「「あります!」」

「簡易テントはあるか」

「「あります!」」

「タブレット端末はあるか」

「「あります!」」

「フラッシュライトはあるか」

「「あります!」」

「よし!それで十分だ。Harbn2ならまだ余裕で入るだろうが、そこには拾った武器や使えそうなものを入れてこい」

「「了解!」」

「それと餞別…ではないがこれをやろう」

 そう言って大佐は2本のナイフを出す。

「ここの職人が作った最高級品のサバイバルナイフだ。弾が無くなった時はこいつが役に立つはずだ」

「ありがとうございます」

「いただきます!」

 ナイフを受け取ってズボンの左側に装着する。

「それではゲートへ向かおう」 

 大佐についていき、この自治区と外界とをつなぐゲートへ向かった。


 ゲートの前には重装備の兵士たちが何人もいる。

 彼らによってこの地が守られていると言っても過言ではない。

「心の準備はいいか?」

「は、はい」

 緊張してきた…

「問題ありません!」

 タカシはさすが、度胸がある。

「ゲートを開けてくれ」

 重装兵たちが重たい扉を開ける。

 金属の軋む、嫌な音が響き冷たい空気が流れこんでくる。

「雨宮隆准尉!」

「はい!」

「小野伊吹曹長!」

「はい!」

「健闘を祈る。無事に帰ってこい」

「「はい!黒田大佐!」」

 僕らは一寸先の暗闇から流れ込んでくるこの重い空気に負けぬよう、気合を入れて返事をし、一歩踏み出した。

 

                ―手記―

 明かりのないトンネル内の暗さは僕らが住み慣れた故郷の夜に近いものがある。

 だがトンネルの不気味さが、異様な空気が、不安や恐怖を与えてくる。

 しかしその恐怖よりも、狭い世界から外に出られた事の嬉しさもあった。

 だからか、いつものようにくだらない話や歌を歌ったりもしていた。

 これから襲い来るモノの恐怖も知らずに…。

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2065 ~荒廃した世界で~ 織部暁 @akira_oribe

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