第55話 54.しめぢ茸丁寧な暗黒舞踏
ワード54『丁寧』とある。丁寧な、か、丁寧に、か。
イライラしていたり、切迫していたり、ケツを捲くられていたりするときは、意識的に「丁寧」を心がけるようにしている。その場を雑に凌ごうとして、非効率的になったり、二度手間になったして、結局、後処理が余計にややこしくなる、という経験を積み重ねた結果えた教訓だ。とはいえ、カリカリした状況であえて、思考と身体の速度を落とすのは、逆噴射と同様なので案外パワー案件なのだ。地に足をつけ、指先のひとつひとつの動かし方にまで気を配り、フルセンスを駆使して、「今」に取り組むことで、最良最短の効率のよい働かせかたができる。
常にそれが成功するわけではなく、なりふり構わずどの場を離脱すべき時や、傷害致死と業務上過失致死とのギリギリの、それは手首のちょっとした返し方といった繊細さが必要な匙加減であったりするのだが、そういう気配りをするゆとりが、本当になくなって、運を天に任せて手を突き出すこともある。
それで、「丁寧」がもっとも迅速な任務遂行の姿勢であるとの信念は揺るがない。そのためには、入念な下調べと、運が重要だ。
さて、俳句だ。
丁寧に丁寧に這う蛞蝓
丁寧に関節を折り畳むべし
冬座敷掃き丁寧に閉ざしけり
丁寧に消せばストーブの匂ひ
丁寧に海鼠腸つかむ客一人
丁寧に仕事納は未だと言ふ
蛇穴を出づ丁寧に穴残し
丁寧に記しゝ遺書水温む
丁寧に骨壺包み青き踏む
大試験迄丁寧に暮らすてふ
丁寧に敷き詰めて来し花筏
丁寧にせせる歯間の桜漬
炬燵中丁寧に皮剥ひて見る
なにもかも嘘ていねいな遠花火
丁寧に罷り出でたる羆なり
霜ばしら丁寧に踏み鳴らす音
そして表題句
しめぢ茸丁寧な暗黒舞踏
今回はこれで。
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