第46話 45.寒暁の断頭台へ研ぎ師くる
ワード45『断頭台』だ。
『断頭台』というと、トム&ジェリーを思い出す。最後、遠くに聳えるシルエットの断頭台から刃が落ちる。ジェリーはちょっと顔を曇らせるが、すぐに凱歌を上げて去っていく。断頭台にはトムがいたのだ。
『断頭台』はとても象徴性が高い処刑器具だと思う。絞首台の縄然り、電気椅子然りである。銃殺、薬殺は、数段落ちる。『断頭台』のすばらしいのは、背の高い塔としての威厳を備えた木造構築物と刃との融合にある。その点、絞首台は、木と縄という、近しいものの組み合わせであるぶん、インパクトに掛ける。電気椅子にいたっては、スチームパンク的装飾があってようやく象徴足りうるといえるかもしれない。電気椅子は、「文字面」の象徴性が高いのだろう。それは、絞首刑を、縛り首、といい変えたときの象徴性に似ている。
『断頭台』から少し離れると、殺害などの際、「首」に狙いを定めるのはひじょうに合理的だ。とにかく人体において「首」は文字通りネックである。手や足は切断されても何とかなるが、斬首は致命的だ。にもかかわらずその唯一のジョイント部である「首」はあまりに脆弱である。
絞めてよし、折ってよし、捻ってよし、殴ってよし、反らしてよし、ありとあらゆる方法で痛めつけるのに、首ほどぴったりの括れはなく、ほどよい長さといい、つかみやすさといい、まったく支配される存在が備えるべきネックなのである。
首根っこを捕まえる、首輪を嵌められる。喉元に手が届く。など、首を掌握されることは、全人格を牛耳られるに等しいといえる。その「首」を、ビルの三階から五階ほどの高さから分厚い刃をその自重による加速度でスパンッと切断される首。先ほどまで生きていた人間が、刃の通過跡にはもう死んでいるというあっけなさ。それでいて、損なわれているのは、切断面のみというシンプルさ。実行の際の簡潔さ。だが、斬首の後の血や糞尿の後始末は面倒であろう。あらかじめ、『断頭台』の下部は、それらを流し、一時貯蔵する機構がついていたはずである。
『断頭台』はいちいち大げさですばらしい。それは死をエンターテイメントにする。『断頭台』万歳である。
では、俳句を作ろう。
雪催断頭台へうつ伏せに
風花も断ち切り断頭台速し
寒雷の断頭台を離れけり
北風に断頭台の軋みかな
虎落笛断頭台の刃の高さ
冬霧や断頭台の首の穴
初時雨断頭台へ駆け寄りぬ
冬の雨断頭台へ傘さして
冬の虹断頭台に見ざりけり
強霜の首に触れをる断頭台
大枯野断頭台の跡探す
そして表題句
寒暁の断頭台へ研ぎ師くる
今回はこれで。
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