第47話 46.ヒキガエルサランラップのシワがカゲ
ワード46『サランラップ』
タイラップで椅子に手足を固定済みであれば、頭がすっぽり入るくらいのレジ袋があれば事足りる。こういう場合にわざわざコンクリートを使用していた時代は、さぞ牧歌的だったのだろうと談笑しつつ、あえて、ザリザリとセメントをこねたこともあったが、それは心理的な拷問という側面もあり、本当に始末するためだけであれば、絞めても刺してもいいわけである。だが、絞めるのは疲れるし刺すと後始末が厄介だ。そこで、ポケットに入れて持ち運びできるレジ袋が重宝するのである。
ただ、この場合、敵対勢力に対する「警告」という意味合いにおいて、インパクトにかけるきらいがある。なにしろスマートすぎるのである。舌を切るとか、口に死んだ鼠や石を入れるとかいう、身体的刻印によって「警告」とするかつてのやり方にはそれなりの効果もあり、昨今の時短効率化の流れにおいても、このような古い方法に固執する団体もあるときく。
そこでサランラップである。サランラップでぐるぐる巻きの顔というものは、その他に外傷がなく着衣の乱れもないというギャップによって、相応の恐怖と嫌悪を与えることができる。ただ、サランラップはあの箱のままでなければ持ち運びに不便であり、かつ、千切ったあとの取り扱いも繊細なため、急ぎの仕事には不向きであった。
やはり、セメントをこねるようなゆとりをもって、顔にゆっくりと隙間のできないように巻いていくのがベストの使用法であろう。
サランラップのよい点は、丈夫さと機密性と密着性はもちろん、その透明性にある。放置した際に、はっきりと歪んだ顔が見えるというのが、心理的圧力となって、敵対勢力に訴求するからである。
ということで、俳句だ。
支那そばにサランラップのへこむ春
丼のサランラップや糸蜻蛉
夏空をサランラップの幾層も
サングラスサランラップに包まれぬ
薫風やサランラップが端光る
遠足を包みしサランラップかな
花曇サランラップの端消ゆと
春日和サランラップの下は波
発汗にサランラップの曇りけり
羅よほとんどサランラップなり
短夜はサランラップを黙々と
夜の秋サランラップを毟る音
西瓜切りサランラップを圧しつける
金魚売サランラップを買置きす
サランラップ右手に提げて端居かな
柏餅サランラップへ柏の葉
粽蒸すサランラップをねじねじす
夾竹桃サランラップは切るとき立て
さくらんぼサランラップをかけておく
サランラップ切り分けしメロンにそつと
青芒サランラップの足りず尽く
そして表題句
ヒキガエルサランラップのシワがカゲ
今回はこれで。
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