第45話 44.遠足の菓子二百円といふ昔

ワード44『二百円』 なんだこれは。

だが、俳句のお題にしてしまったからには、『二百円』を概念として思い浮かべてはならないのだ。漠然と『二百円』の値段とか、『二百円』の価値にすればギャップでおもしろいだろう、などと安易に取り扱っては絶対に俳句にならないのだということだけは学んだのである。

 それは、マジックに厚紙で書かれた『二百円』という値札で、前には血を滲ませて鰯が笊に山になっている『二百円』かもしれず、仏壇の枯れた菊を取り替えるときに位牌の下敷きになっていた十円玉交じりの合計二百円なのかもしれない。子供が握り締めていた『二百円』の臭いであり、賽銭として頭上を飛び交う『二百円』であるかもしれない。

 徹頭徹尾、唯物的であること。それだけが俳句を俳句たらしめるという立場に僕は立っていたい。

 ということを、『二百円』を観念的に捕らえてしまった駄句を数十作った後に開眼したので、今回ここに挙げる『二百円』の句は、ある意味俳句からもっとも遠い『二百円』であることを、ここに断っておく。申しわけない。

 ということで俳句だ。


 二百枚にて冴え返る二百円

 啓蟄や十円足らず二百円

 二百円下駄箱上に春の宵

 二百円数え上げたる遅日かな

 炎天の手のひら二百円臭ふ

 時雨傘大いなるほう二百円

 神無月二百円にて過ごす今

 春炬燵喧嘩は例の二百円

 屋根替の人に出す茶で二百円

 苗木市小さき今を二百円

 啄木忌あと二百円足らずかな

 二百円十円玉の全て汗

 二百円もらひ風船膨らます

 春の雪へ理屈こねて二百円

 針供養豆腐一丁二百円

 蘖や始めは二百円なりき


そして表題句


遠足の菓子二百円といふ昔


今回はこれで。 

   

   

 

 

  

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