第28話 27.強面の指に触るゝは秋扇
ワード27.『強面』
これも、第27話の『土下座』と同じ範疇であって、かつ『土下座』よりも使い難いワードだと思う。要諦はギャップであり、コミカルな句が作りやすい=駄句、凡句のオンパレードとなりやすいのである。しかも『強面』は一見、明確なイメージをもっていそうで、実は、じつに曖昧であり、しかも『強面』を出オチとするのでない場合は、必ず「挙動」を補間しなければならない。強面が○○した。○○な強面。という文字数に対する詩の薄さたるや、渋面にもなろうというもの。
僕は職業柄、強面であればそれに越したことはないのであるが、残念ながら童顔で、対人関係は、まず「なめられる」ところから始まる。そんな扱いにも慣れているのでいまさらそれだけで腹を立てたりはしないし、なめられているくらいが、楽な場面も多々あるので、どうということはないのだが、それでも、わかりやすい強面が出てくると、「ああ、うらやましいな」と思ってしまう。おまけに僕は声も小さく、なぜか震えてしまうので、完全にビビッていると思われる。はじめからヤッてしまえばいい場面であればどういうことはないのだが、交渉ごとが必要な現場となると、マイナスからのスタートである。一度、「なめた」相手に「おみそれしました」と頭を下げるのは、まともな人間であれば耐え難い屈辱でもあるだろう。こちらにしてみれば、所見で勝手にそちらがなめたのではないかと思うばかりなのだが。それに、交渉ごとに関しては、こちらが「oui」といわない限り、成立しないのだから、いくらなめられても問題はないし、御し易しと見くびってきて、恫喝などに及んでくれれば、そのほうが返って話しが早かったりもするので、強面であるかどうかと成果とは必ずしも比例しないのだ。
わかいころは僕もこんな風ではなかったが、次第に自分というものになじんで来たのだろうと思うばかりである。
さて、俳句か。また、凡作を並べるには忍びないが、ワードが悪いのだということにしたい。そもそも僕は強面が好きではないのだから。
強面の雁首揃ふ炬燵かな
強面の髭に納豆糸引く秋
強面の空を見上ぐる残暑かな
秋暑し強面ひとりマリーナに
新涼に強面ボタン一つ閉づ
強面の駆けづり回る夜長かな
強面に言ひ含めらるいわし雲
強面の回収したるへちま水
強面のグラサン外す雨の月
強面の貌暗かりし秋の宵
強面や未だ序の口の秋の夜
流星のごと強面の往き過ぎぬ
強面や逗子マリーナに冬来り
強面の苦手なものに菊膾
強面の障子洗ふもシノギかな
秋雨の墓所に強面ひとり立つ
不知火のこと強面の語り出す
強面のゆつくり歩く花祭
強面と会釈して過ぐ濃霧かな
かくの如しである。そして表題句、
強面の指に触るゝは秋扇
今回はこれで。
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