第29話 28.蟇動けば跡の蒸発す
ワード28『蒸発』
僕にとって『蒸発』と『団地妻』とは対句である。いつか、『団地妻よろめき句集』を作りたいと思って、準備はしているのだが、今回は『蒸発』のほうで、こちらは「団地妻」の添景としてしか用意していなかった。
また、『蒸発』というワードで、「失踪」の意味での『蒸発』の句ばかりつくるというのは、あまりに安易すぎる。
『蒸発』をよみこんだ句は結構あり、どれもなかなか佳句なのである。
村中が柿すだれして蒸発す 吐田文夫
『蒸発』したとしても、当の本人はしがらみのない土地で、生身を引きずり生きているのだろう。それで永らえていられるのならば、苦とは人とのしがらみそのものなのだろう。それらを断ち切るために移動し、新たな土地で新たな人間関係の中に身を置くことで、自分もまたリボーンできる。過去からの蒸発は、未来へ降る雨となるのだろう。windowsのように、レガシーを引きずる生き方は、あまりに不自由すぎる。蒸発とは、される側からの感想であり、する側にとってそれは、出家である。つげ義春さんの『無能の人』収蔵の「蒸発」もぜひ一読されたい。
さて、俳句を作ろう。
木犀の香に紛れては蒸発す
蒸発の夜の畳の轡虫
蒸発を疑はれしや実南天
薄氷へ短き空を蒸発す
石鹸玉蒸発せしは割れて後
鞦韆に手の跡残し蒸発す
風鈴や何処かの誰か蒸発す
蒸発や矢車菊も七年目
夏の蝶こぼるゝ蜜の蒸発す
蟻擦り僅かの中身蒸発す
逃げ水のごとく蒸発せしといふ
そして、表題句
蟇動けば跡の蒸発す
今回はこれで。
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