第23話 22.冬の蠅蛍光灯の紐遠し

ワード22『紐』ということで、


花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ 杉田久女

夏痩の肩に喰ひ込む負児紐 竹下しずの女


 があって、この上『紐』でどんな句が世の中に必要なのか、と考える。そして、元来、世の中に必要ではない僕がつくるものなのだから、すべてが無駄に決まっているのだと開き直った。


靴紐、顎紐、ゴム紐、小包の紐、エプロンの紐、長き紐、一本の紐、まだらの紐……


 考えてはみたが、紐にはさほど思い入れもなく、紐にまつわる想い出といっても、母が何度に溜め込んでいた贈答品の紐、結び方の本を愛読していて、結ぶ練習用の紐を用意して持ち歩いている、くらいしか紐と接点がない。俳句にするとなると、紐は地味だと思う。

 では考えよう。


 子に着せる祭装束紐多し

 苗木植ふ太き支柱に紐緩く

 お歳暮の紐解く母は口尖らせ

 夜濯ぎのときエプロンの紐緩む

 遠足の子の連なりし長き紐

 玉の緒を結ぶ長さに紐を切る

 歳暮の箱括りし紐をぶつた切る

 一本の紐流れゆく春の川

 花茣蓙をくるくる紐をこま結び

 砕氷船乗組員が栞紐


そして、表題句


冬の蠅蛍光灯の紐遠し


今回はこれで。


  

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