第24話 23.ピルケース秋の燈に透かせども空

ワード23は『ピルケース』だ。

 実用本位であれば、透明なプラスチックで曜日毎などに小分けができるものなどが便利だ。ホームセンターの工具箱や、手芸店の小物入れのような、100均などでもおなじみの製品だ。

 一方、万が一の場合に常に肌身離さずにおく、ロケットペンダントや、ロココ調の金細工に磁器製のカバーなどをあしらった、ジュエリーボックスのようなピルケースなどには、やはり惹かれるものだ。

 日常に飲む薬は前者に、命の掛かった緊急時の薬は後者に入っていてほしい。スパイ小説なら、奥歯に青酸化合物のカプセルを仕込んであって、それもまた、ピルケースと呼べるだろう。

 僕はあえて、写真機用35ミリフィルムが入っている円筒形のプラスチックのものに脱脂綿をつめて音がしないようにしたものをポケットに入れているが、これが案外嵩張るようで嵩張らない。最近のガチャガチャのカプセルでは大きすぎる。

 ピルケースはオブジェとなるが、薬はなかなかオブジェとしては捕らえられない。毒薬ならばオブジェとなりうるのだが。それでいて、ピルケースに毒薬が入っている状況となると、それは少々クドい。ただ、『犬神家の一族』で最後に青酸をしみこませた紙巻タバコが入っていたシガレットケース、あれは趣があったと思うが、いかがだろうか。

 さて、俳句。ピルケースのある日常を切り取ろうと思う。


 ピルケースことりと雪の結晶来

 ロケットへニトロといへどピルケース

 富籤も小さく畳みピルケース

 ピルケース擲つマフラー長き妻

 ピルケース落穂拾ひの子の拾ふ

 香水の香の途絶えしはピルケース

 寒林へ擲つものにピルケース

 税務署に都忘れとピルケース

 ピルケース手にとるための秋ともし

 クローバの四葉の似たるピルケース

 ピルケース振れば鳴きやむ冬の虫

 侘助にのぞかれてゐるピルケース

 秋の日に透かせども空ピルケース


そして、表題句


ピルケース秋の燈に透かせども空


季語を立たせるのなら、秋の日に― のような語順がよいのだろうが、ピルケースに惹かれすぎたため、このようになった。

今回はこれで。



 

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