第22話 21.春塵を吐くオルガンのチューリップ
ワード21『オルガン』だ。
オルガンというと、すぐ「内臓」と思ってしまう。実際、楽器のオルガンの内部構造は人体に似ている。だが、提示した『オルガン』は楽器の意味合いである。
『オルガン』をよみこんだ句は案外多い。オルガンはノスタルジックで、なによりも複雑すぎないオブジェであるところがいい。
足踏みオルガンは幼稚園にあった。幼稚園の先生はオルガンを弾くイメージがある。中学校の同級生も幼稚園の先生になるにあたっては、オルガンの練習をしたという。弾き語りである。彼女とは妙な縁があり、高校は別々であったが、やはり別の高校へ進んだ同級生がベースを弾いているレベッカのコピーバンドがライブハウスに出演するというので出かけた折、偶然に顔を合わせ、ライブ後みんなで合流して飲んだことがある。中学校の頃はあまり話もしなかったが、それ以来若干距離が縮まり、そんな関係で彼女が幼稚園の先生になることも聞いたのである。
また、ベースを弾いていた同級生は、当時最先端のシンセサイザーや、DATなど備えた自宅スタジオを、中学生の頃から着実に構築しており、ピアノ、ギター、ドラム、ベース、コーラス、尺八、8ミリビデオ撮影編集、アマチュア無線、動画編集、中判スチールカメラ、などをセミプロのスキルをもって楽しめる才人であった。今も時折、音楽の話を聞かせてもらうのが楽しい。自宅にはデモCDを作成できるプライベートスタジオを完備し、友人知人その他の結婚式や運動会などに呼ばれては写真は動画撮影をしたりしている。
彼については、まだまだ語りたいことはあるが、本題とは無関係なのでこのへんにしておく。ちなみに、彼の家にはオルガンはなかった。
オルガンの句を作ろうとして、オルガンの思い出を探ったところ、僕は妙に、オルガンを頻繁に運んでいたようなのである。足を挟みそうになりながら、その恐怖と戦い、腰を痛めながら、蟹になったひよこのようにヨチヨチと、二人がかりで、何度も何度も、オルガンを運んでいるのだ。しかも、三種類から五種類の別々のオルガンを運んでいる記憶が、確かにある。
これはなんなのだろう。
さて、俳句を作ろう。
おらが春オルガスムスはオルガンに
おらが春オルガンにくるオルガズム
オルガンの捨て置かれしは天の川
うららかやオルガン運ぶ二人組
名月やオルガンの踏板が馬鹿
銀漢は消えオルガンの残さるゝ
オルガンも我が家も同じ隙間風
踏めども踏めども進まぬオルガン
運動会オルガンの位置定まらず
幼稚園教師オルガンを弾く春夜
オルガンのビブラートにて卒業す
オルガンの上にラムネの壜残る
オルガンのしばしば産むは鎌鼬
破れ蓮寺にオルガンぽつねんと
そして、表題句
春塵を吐くオルガンのチューリップ
オルガン。それはポンコツなほどすばらしい。
今回はこれで。
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