第20話 19.車中泊子規忌を過ごすこと二分 

 ワード19.『子規忌』

 忌日を季語とする。思えば奇妙なものである。本人は死期を決められず、生前の佳作や強く印象付けられている季と、忌日の季とは異なる場合が多いと思う。その意味で、忌日そのものが本人とは不即不離の関係にあると思われるが、その季語によってつくる俳句は、故人が偲ばれるものでなければならないと思う。

 ワードとして季語を挙げるのは避けていたが、近代俳句の祖として『子規忌』だけはいれようと決めていた。俳人が子規をどう句にするのかに興味があったからだ。

 僕は忌日の句はどのようにつくればよいのか分からない。検索すれば、『子規忌・糸瓜忌・獺祭忌』の句は数多く見つかる。『子規忌』は人気があるのだと思う。

 『啄木忌』『太宰忌・桜桃忌』なら、僕には幾らか作りやすい。だがその俳句は、故人の人間性に仮託した、季節性ではない心情を示したものになり、ある意味、短歌に近くなる気がする。

 手元にある子規の著作をひもといて、句の材料を求めることはせず、俳句を考えてみる。


 終日雨音遠近す子規忌かな

 低糖ジヤムライ麦麺麭へ塗る子規忌

 猫の腹撫でて昼餉を待つ子規忌

 野球中継途切れ途切れの子規忌かな

 天井の羽目板ばかり見て子規忌

 偏頭痛夕餉のカツを食ふ子規忌

 散歩して帽子を飛ばす子規忌かな

 ユニフォーム白き野球の子も子規忌

 堤防を幾度も滑り終え子規忌

 俳論の類を括り子規忌とす

 金属の棒弄ぶ子規忌かな

 美術書を日がな一日見て子規忌

 花の名を一つ憶えて子規忌とす

 雨降れば雨を眺める子規忌かな

 車中泊今日子規忌かと思ふとき

 車中泊子規忌を過ぎること二分


 『子規忌』は9月19日。「糸瓜」も「鶏頭」も秋の季語だ。

 今回はこれで。

 


 

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