第17話 16.エクレアに跡を残さぬ夜の蜘蛛

 ワード16『エクレア』なのだ。

 ひじょうに作りにくかった。二時間程歳時片手にエクレアを思い描いて、ただただ、エクレアが食べたくなるばかりだった。

 『エクレア』はフランス語で「雷」の意味だという。したがって「雷」や「稲妻」系はつきすぎという気がする。

 『エクレア』の気分とは? 『エクレア』の季とは? 家族、友人、恋人、自分にとって『エクレア』とはどのような菓子なのか? この感覚を共有しない相手に、俳句は『エクレア』でなければならない、いわゆる「動かない」という説得力をもたせることができるのか?

 僕はシュークリームもエクレアも好きだが、どちらを選ぶかはその日、その時の気分によるような気がするし、ある時は、どちらもスルーして、草餅やロールちゃんを買ったりもする。

 エクレアはケーキを買うほどではないのご褒美。シュークリーム専門店では、エクレアは選ばない。

 そのとき『エクレア』を選ぶ気分を、俳句に反映させることができればよいのだが。

 ともかく、季は「春」で考えてみた。考えついた順番に書いてみる。


 エクレアの載る皿丸し春の風

 卓上にエクレア一つ冴返る

 春分やエクレア分かつ兄妹

 エクレアのチョコひび割るゝ二月かな

 春の昼エクレアのことなど話す

 まだ一つエクレア残る遅日かな

 花冷えのエクレアのチョコ曇りける

 花時やエクレアひとつ足すトレイ

 暮の春エクレアのチョコ零れけり

 春光をエクレアとして頬張りぬ

 春日傘さしエクレアの箱提げる

 蜆汁飲みエクレアを食ふ夕餉

 子の数のエクレア並ぶ春ともし

 エクレアの皿一枚を春炬燵

 山焼のあとエクレアをつまむ指

 エクレアを黙つて食す啄木忌

 亀鳴くやエクレア兆す昼下がり

 エクレアのチョコ輝けり春告鳥

 藤棚の下にエクレア食べ終えぬ

 チューリップ庭にエクレア縁側に

 花薊エクレアの指チョコにまみれ

 父の日はエクレアを買ふ家族かな


こんなものだ。連日反省しているように、『エクレア』の写生ができていないため、イメージを置いただけになっている。やはりエクレアを買ってくるべきだったのだ。そして、表題句。


エクレアに跡を残さぬ夜の蜘蛛


今回はこれで。

  

 

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