第16話 15.秋冷を舐らせてゐる足の指
ワード15.『足の指』だ。
「裸足・素足」や「足裏・蹠」と明確に区別しなければならない。足の指のことを考えていて、SSGというサイトに『足指の男』という掌編ができたほど、足の指について思いを巡らせていた。SSGは400文字までのSSを投稿する場だが、僕はSSは苦手だ。溜飲の下がるオチをつけることができないためだ。『足指の男』では、「爪側から舐る」場合と「腹側から舐る」場合の感触の違いや、舐られている側の感じ方などを書く文字数がなかったのが心残りである。いちお、リンクを張っておく。
https://short-short.garden/S-uCTken
さて、自分の足の指をまじまじと見るとき、手の指にくらべてなんとなくいじけているのではないかと感じる。手よりも造詣に手を抜かれているの感がある。もっとも、人間は足の指でモノを握る、という動作を、二足歩行によって捨てた結果、このようになったわけだが、これを退化ととるか、適応ととるかで、印象はずいぶんと異なってくる。おまけに人間は靴を履く。足の指は明らかに、靴に適応し切れていない。外反母趾や内反小指。水虫、魚の目。文化とは体を型に嵌めることである、というのが現れている。
本当の文化とは、身体に則した具物の創造にあると思うのだが、文化の先端とは、ことごとく身体拘束、緊縛、無理強い、我慢、を強いる方向にある。人類は肉体が憎いのではないか? 昨今のSNS、ヴァーチャル化の席捲は、肉体を捨象したいという人類の欲望なのだろう。問題は、それを「機械」で実現しようとしている点ではないか? 自然の能力を目覚めさせるのではなく、既存の能力を拡大する方向性。だが、それでは絶対を超えられない。その尖兵たる部分が、『足の指』なのである。
閑話休題
『足の指』の季節は「冬」と念頭に置いてみた。悴んでいじけている足の指である。
節分や豆を挟める足の指
霜月を一本づつに足の指
足の指揃へて出づる蝌蚪の四肢
足の指十本並び冬ざるゝ
霜月を靴下がちの足の指
冬始め短くなりし足の指
足の指舐らせてゐる霜夜かな
足の指深く抉りし春の泥
冬の夜は拳の如く足の指
年用意まづ足の指隠したく
冬田道血の滲みたる足の指
雪原を往く足の指浮かせつゝ
足の指それぞれに指す冬銀河
冬ひなた頭もたげる足の指
竹馬のめりこんでくる足の指
鷹匠が腕に食い込む足の指
足の指きちんと並べ足焙り
足の指おでん屋台に二十本
水仙を切る足の指赤くして
寒木瓜と縁側にある足の指
秋冷を眠らせてゐる足の指
悴みてなくなりさうな足の指
霜焼けに声上げにけり足の指
嚔せしとき縮こまる足の指
足の指隠して座るクリスマス
青芝のはみだしてゐる足の指
極月へ十本揃へ足の指
年の夜を蠢めくものに足の指
足の指は、ずんぐりとして不恰好で、不器用だがそれぞれがそれぞれに蠢く。あたかも、それぞれが未熟な意志をもっているかのように。それは自身における他人のようにも思われ、おそろしくもある。
表題句
秋冷を舐らせてゐる足の指
そして、通奏低音のように、「鈴木いずみ」さんのことが反芻されるのであった。
今回はこれで。
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