第15話 14.異母の血の羨ましさよマンゴスチン

ワード14『異母』だという。

母、家族そして、父。故郷。このあたりのキーワードは必然的に「寺山修司」さんや、「太宰治」さんを思い起こさせる。なるほど二人とも「青森」である。この「血」の臭い。「土」の臭い。まず、そんなところから、キーワードにつかまってみるか。だが、どうやってつかまればいいのか?

 異母をよんだ俳句は? 検索をかけてみる。


蝙蝠傘は異母兄弟である ひらく 味元昭次


があった。


『(ハ)蝙蝠傘への異説試考?

 傘を広げた形が蝙蝠の飛ぶ姿に似ていたからという説はもっともながら、牽強付会

して私的試考をしてみると---------。

蝙蝠は、その昔、「かわほり」と呼ばれた。川守(かわもり)の転化で、河岸の石垣

の間や橋下などに多く棲んでいたから命名されたようで、それが「こうぶり」「こう

もり」等等の変化を経て「こうもり」になったとされる。

 一方、折りたたみのできる扇のことを「かわほり扇」あるいは単に「かわほり」と

呼んでいた。

これは「開いた形や、開閉することが蝙蝠に似る」ことから由来しているという。

 奇しくも、日本(大陸伝来?)古来の扇と西洋渡来の傘が共に「蝙蝠」に見立てら

れることで、あたかも、異母兄弟のような関係になる。 (『洋傘タイムズ  ◆◆◆傘と扇は兄弟の間柄?◆◆◆  https://www.kasaya.com/times/007.htm より)』

なるほど。なるほど。


因みにこの方の他の句として


ひぐらしの骸衝撃的に軽し

前世の音のかすかに芹の水

国家より冬木一本たしかなる

如月のフランスパンを振ってみん

弟切草あたりが俺の本籍地

御近所と野分のあとの虹仰ぐ

手花火の周り昭和の闇ならむ

母方やまず鶏舎より灯のともり

潤目買うて昭和の夜へ帰りけり

父は土葬母は火葬の山眠る

男来て冬瀧の一句を言いぬ

眼鏡掛け直して眺む羽抜鶏

立ち止まり妻を待つ間の田村草

苗札の金釘流と日暮れけり

荒星の強き一つを六林男とす

薄氷に憲法九条乗っていし

薄氷に石置く遊びして老いて

螢袋に一族の恥容れておく


現代俳句協会高知の事務局長をなさっているようだ。


辺土通信47   味元昭次 より


落し文父の知らざる母の過去

骨壷を置くに音して夏深し

結果論の好きな男とところてん

兄が来て鰻の穴を囁きぬ

歯を抜いて敗者想えり半夏生

夏深し抜歯の闇へ舌がゆき

叩き上げの男と鯰を見ておりぬ

蟻地獄に蟻落し込むのは教師

ゲバ棒の昔を殺し晩夏の喪主

沈下橋は蜩を聴くためにある

作者紹介

味元昭次(みもと・しょうじ)

1947年土佐の国は佐川郷生。現在もそこに棲息。23歳で俳句と出会いずるずると今日に至る。都市より地方、利口より馬鹿、勝者より敗者、を好む。

とある。


 閑話休題。


 俳句 異母 で検索をかけたが、冒頭の句しか出てこない。あとは、「いぼむしり」ばかりだ。さらに、「兄」「弟」「姉」「妹」それぞれ独立で検索し、そのリストから「異」でさらに検索してみた。するとようやく、


読初はアジア異母兄物語/宇多喜代子


異母妹の大阪跳びを盗みけり/仁平勝


が見つかった。

 兄弟姉妹のアンビバレンツな感情に、もう一段、「連れ子」「実母」と「養母」という部分が交錯することになるのであろう。


 ところで「母」で引いた俳句で「異」で検索したがヒットしなかった。ちなみに「父」の場合もヒットしない。そしてどうやら「寺山修司」さんも、異母の句は作っていないようだ。その母への恋慕の情は、泉鏡花さんの草迷宮にも似た「御伽」を思わせる。「嘘もまたありえた現実の過去である」的な寺山さんにとって、「母」だけは「実母」でなくてはならなかったのかもしれない。

 それにしても、とっかかりがない。

 異母、ということは兄弟姉妹、家族がテーマとなるだろう。俳句は、こうした血族、家族を不得手としているのか?

 ふと、石田純一さんファミリーの子供たちは全員母親が違う、というエピソードを思い出す。石田さんファミリーに俳句はあるか?

 ともかく、ひねりだすしかない。


鎌鼬異母弟の脛に骨

春塵に右手を翳し異母姉妹

草餅を争ふ異母と未だ知らず

異母の姉カーネーションは二本買ふ

遠雷や異母弟の乳臭さ

夏の宵異母弟の光る靴

雪ふりつむ異母兄弟のアパートへ

異母姉へ香水贈る母の香の


「異母」という状況を頼りに、それをただ、日常の様々な景においただけのものが多く単調になった。僕にはこのワードを咀嚼する頤がまだ備わっていないのかもしれない。

 表題句


異母の血の羨ましさよマンゴスチン


今回はこれで。




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