第14話 13.目盛なき三角定規夏に入る

ワード13.三角定規 である。


 前回の『楕円』は概念だった。だが今回は物品そのものである。ワードを出した際は、この両者はすぐ隣の棚に、というより同じ棚に放り込まれていた。僕にとって、三角定規も、まずは「概念」だったということか、はたまた、楕円を「文具」としてとらえていたということか。そういえば、その棚のラベルはたしか「文具(製図機器)」であったようにも思われる。

 建築設計事務所勤務時代。「三角スケール」と「勾配定規」がなければ夜も日も明けぬ生活をしていた。

 ご存知だろうか? 勾配定規。

 直角二等辺三角形の底辺付近を斜めに切り離して可動式とし、分度器のような目盛部品を解してネジで留めたもので、あたかも鳥の嘴を開くかのように開くことができる。これを、平行定規の上にあてがって、せっせと作図するのである。僕は大中小の三種類の勾配定規を駆使して、始発から終電まで、ひたすら作図する毎日を過ごしていた。というのも、職場が東中野なのに、アパートは青梅だったからで、通勤時間がおよそ2時間という生活だったのである。

 そんな生活も懐かしい。深夜2時にレンタルビデオ屋にビデオを返し、また借りたりもする、タフな日常だった。

 と、そんなことはさておき、三角定規の「詩情」を引きだす俳句を作らねばならない。なにしろ三角定規はたんに三角定規なのである。これに季語+αで俳句にせねば。

 イメージは「夏」だ。絶対に夏だ。三角定規にはやはり「学生」の感じが色濃くあって、その透明で丹精な形はやはり、夏がふさわしいのではないかと思うからである。


 バルコンに三角定規濡れてゐる

 風鈴に三角定規くゝる家

 暑中見舞いアイスと三角定規描く

 雲の峰三角定規によつきりと

 虫籠へ三角定規落としけり

 夏休み三角定規の穴丸し

 夏の夜の三角定規机下深し

 夏至南中三角定規粘土に立て

 夏座敷畳に三角定規立つ

 七月の三角定規水色に

 香水の香る三角定規かな

 団扇とも三角定規ともいはれ(○○とも○○野郎ともいはれ の句があったはず)

 三角定規の直角揃へ滝の前

 梅雨やけふ三角定規もたれあふ

 冷奴三角定規あててみる

 甲虫埋め三角定規刺す

 涼風や三角定規食卓へ

 秋隣る三角定規くつつける

 帰省の部屋三角定規出したまま

 片蔭の三角定規が形して

 溝浚へ三角定規そこここに

 剣山の三角定規と杜若

 つくづくし三角定規の穴通る

 三角定規軽く滑らす夜業かな


どこにどう置くか。そればかりとなって単調だ。しかも「さんかくじょうぎ」は七音。中七にほぼ固定となっている。三角定規はフェティッシュだ。それは、三角を描くに向いていないという点でも。3:4:5の直角三角形と直角二等辺三角形の組み合わせも抜群だ。

 だが、俳句としての「三角定規」はむしろもっと「物品」から離れなければならなかったのかもしれない。


 表題句


目盛なき三角定規夏に入る 


 これが僕の今のギリギリなのだろうか。いささか弱いが、

今回はこれで。 

 

 

 

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