第11話 10.残菊や祖父が碁盤の刀傷

ワード10.刀傷

 刀剣乱舞や鬼滅の刃は見ていないし、るろうに剣心もよくは知らないし、ゴーストオブツシマも実況を先日少し見たくらいだが、かっこいい殺陣は好きだ。

 ところで、刀傷を僕は実際に目にしたことはない。だがなんとなくイメージはできる。みみずばれのようなケロイドのような状態になっているのではないかと。おそらくは、ドラマやお化け屋敷でのメイクの記憶なのだろう。実際の刀傷は、包丁の傷がやはり近いのかもしれない。切れ味の鋭い日本刀の傷。鋭利なぶんだけ治りにくいものなのだろうと想像する。

 想像。刀傷というワードで俳句をつくるということは、写生句にはならない。なにしろ僕はそれを知らないのだから。刀傷のようだ、と比喩に用いた場合も、それは、想像の想像ということになる。読み手が「刀傷」をどう想像しているのか。もし、読み手が実際の刀傷を目にしたことがあり、もしくは実際に傷を負った経験があったとして、それを想像するしかない作者は、なおそこに俳句を成立させうるのか?

 ともかく作ってみるしかない。


 刀傷やホルマリン漬け壜の冬

 コスモスや斬り結びたる刀傷

 袈裟懸に刀傷ある鰤漁師

 甚平に見え隠れする刀傷

 夜濯やもう糸ほどの刀傷

 刀傷おさへて臨む蜃気楼

 桜魚一匹づつの刀傷

 春の夢一刀両断の刀傷

 二の腕の刀傷にも夏近し

 そこここに刀傷ある暮の春

 春雨に濡るゝ主と刀傷

 春炬燵刀傷まで潜り込む

 口紅で刀傷描く四月馬鹿

 薪能刀傷ある面の下


イメージとしての刀傷。それを「象徴」に昇華することができないまま、だが俳句に象徴はふさわしいのか、という課題を残しつつ、表題句。


残菊や祖父が碁盤の刀傷


残菊は、乱菊、乱鶯、残る菊、で悩んだ。乱か残か。刀傷はかつてつけられ、それがそのまま古びて残っている今、乱の時期は過ぎている。だから残とした。菊には手向けのイメージもある。また、「や」の切れ字の強さで刀傷の強さに拮抗できるかとも思う。

 今回はこれで。

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