第9話 8.毒瓶を首から提げて道の駅
ワード7.『道の駅』
サイクリングが趣味だ。ならば道の駅にもよく立ち寄るか、といわれれば
「別に……」
と言葉を濁すしかない。
道の駅はたいてい国道沿いにある。サイクリングでは極力、国道を使わないようにする。交通量が多い道は危険だし、風情もないからだ。
それでも近所にはいくつか、交通の要衝として、そちらの方面へいくなら必ず立ち寄る『道の駅』が三つ、ある。
結局あるんかいっ! と突っ込まれそうだがあるものは仕方がない。
一つは、三河三石。一つはくんま。最後の一つは横川だ。
僕のなかでのサイクリング定番道にある休憩所なので、特産品を購入するということもなく、シューズを緩め、トイレに寄り、水を補給し、アイスや羊羹やパンやおにぎりなどを食べる。上に挙げた三箇所は、観光客がひっきりなし、という感じではない。もっとも、ここ十年は行けていないので、もしかしたら有名観光地となって、終日ごった返しているのかもしれない。それは少し寂しいなと思う心情が、サイクリストにはある。店としては、千客万来でなくては困るのだろうけど。
僕のサイクリングは常に単独なので、道の駅に立ち寄るときは必ず一人である。僕以外のサイクリストと顔を合わせることはほとんどないが、会えば挨拶をして、来し方行く末の話を聞くこともある。路面状況や天候、周辺の自然環境などを情報交換するのである。あとは、サイクリング記録を掲載しているSNSやブログがあればそれをメモして後ほど見る。他の人のサイクリング記録は、ひじょうに有用だからだ。
最後に輪行したのはいつだったか。四国か。それとも佐渡島だったか。
東尋坊への輪行計画のステイタスはずっと「未踏」のままだ。
さて、俳句を作らねば。
自転車はたんぽぽ避けて道の駅
わらび餅どの道の駅にても買ふ
釣堀も按摩もありて道の駅
げんげ田の中に平らに道の駅
道の駅水車の纏う春の水
苗売の集まつてゐる道の駅
末黒野や営業中の道の駅
茶摘唄テープで流す道の駅
道の駅遠足の子ら整列す
道の駅子がぜんまいを一つ食ふ
蕗味噌の苦味の強き道の駅
片隅に草刈籠や道の駅
打水の踏跡忙し道の駅
ずるずると日除け引き出す道の駅
道の駅ダンボール箱ばかりなり
道の駅発つ背を押すは西日かな
道の駅一本道は青田道
道の駅順番待ちのポリグラフ
道の駅小さき団扇配りけり
道の駅これから向かふ滝の音
『道の駅』は場所である。どんな場所か。誰がいるのか。どんな目的で来るのか。立地は。時間は。季節は。などを説明せず、読む人のイメージにある「道の駅」に寄り添いながら、「ああ。そういうこともあったかも」と共感してもらわねばならない。
そして表題句。
毒瓶を首から提げて道の駅
少々、ドギツさを狙いすぎかもしれない。だが「毒」という言葉には中毒性があると思う。なお、毒瓶の俳句で検索をかけたら、夏井いつきさんの句が出てきたので記しておく。
毒瓶をかたりと置いてふり向きぬ 夏井いつき
今回はこれで。
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