第4話 3.本官は勤務中也花の昼
ワード3.『勤務中』
これは単純に、これらのワード提出中が『勤務中』だったから、という理由で挙げた。僕の仕事にはひじょうに隙間時間が多い。無論、その隙間時間も「業務」で埋めれば、埋めたなりの成果(整理整頓清潔)が残せるものなのだが、そこをがんばったところで評価が上がるわけでもなく、「地獄は片付いているか?」と問われれば、おそらく地獄を清掃片付けする者もいるのだろうが、それはきっと罪人ではなく、鬼が当番制で掃除や片付けをしているのだろうと思う。なにしろそこは、鬼たちの職場なのだから。
『勤務中』に『勤務中』というお題を出したのだから作る俳句も当然「即詠」が筋だろう。となれば季語は『夜業』『夜食』『うそ寒し』などだろうか。つまり、僕の仕事は夜勤が多い。しかも基本的には一人で、ほぼ待機業務である。だからこそ、ワード提出などを比較的自由に行うことができたのだった。
小学校には用務員さんがいた。
今も用務員さんという職業は存続しているのだろうか? 子供がいないので近年の学校事情に疎く、そのあたりはよく分からない。教師はまだ「宿直」があったりするものなのだろうか?
なぜ、唐突に用務員さんやら、宿直やらを持ち出したのかというと、僕の職業はおおよそ、そういった類の業務みたいなもの、といえばご理解いただけるかと思ったためである。
支度する。片付ける。鍵を開ける。鍵を閉める。
ただ、きまった場所があるわけではなく、その都度さまざまな場所に派遣され、そのコミュニティーの裏方として働くことを生業としている。
さて、俳句を作らなければ。
コッヘルに夜食の煮ゆる勤務中
勤務中ランタン点す夜寒かな
勤務中コーヒーメーカーと話す
勤務中振り向くことももがり笛
とやってみて、『勤務中』という言葉そのものが、ひじょうに説明的で使いづらいと気付いた。自分の勤務中の出来事で句を作るのもいいが、これなら他人の勤務中の写生や、伝聞でいいだろうと思った。
おそらく俳句に『勤務中』というワードはそぐわないのだ。『勤務中である』ということを『勤務中』という語を用いずに知らせることが「俳句」なのではないかと思う。
と、ふいに
「本官は勤務中」という声が聞こえた。本当に聞こえたわけではなく、それは頭の中に想起された声ならぬ声として、その声の持ち主の声で再現された声なのだった。そこで、
本官は勤務中也花の昼
を得た。ちょっと中原中也みたいな字面も面白いが、あまりそちらに寄せるのも品がないだろうと、このままにする。しかし、あれは見事な薄墨桜のある庭園でのことだったと思い出す。だが、昼だったろうか? そこは定かではない。
今回はこれで。
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