第3話 2.重力や身をさかさまに半夏生
ワード2.『重力』
唐突だなと思う。けど僕は『重力』が一番重要だと思っている。この世界があること、真如がなぜ無限分割され、それがインフレーション理論的宇宙を生成することになったのか。物にはなぜ形があるのか。それはなぜ不透明で、重さをもつのか。ヒッグス粒子が世間を騒がしていた当時、僕はこのヒッグス粒子が重さ(質量? 科学的正確さに、僕にはあまりにも疎い)を物に付与するものだとざっくりと思い込み、それはつまり、光を遅くするものであるということ、つまり重さとは(そして物とは)光の進みにくさなのだということ、着衣水泳の着衣であり、同時に肉体でもあるということなどを考えて、それを仏教で理解しようと躍起になっていたりもしたせいかもしれない。
といったわけで、『重力』は僕にとっては『渦』や『襞』と同じくらいマストアイテムである、という事情はさておき。
いわし雲子規の仰臥の無重力 そのまんま東(うろ覚え)
という句が、以前プレバトで発表されて、そのまんまさんの句の、どこか不穏でギラリとしたところがたいへん好きだなと思っていながら、この句のあたりから、「これはコンテストで勝つための句だ」という感じがしてきて、ちょっと嫌いになりつつある過渡期にあったものだが、かっこいいことは間違いない、というところでも、『重力』は断然かっこいいのだと思っている。
さて、俳句をつくるにあたって、『重力』という抽象的な…… と思い込んでいたことに気付き、『重力』は全く抽象的ではないのだという事実に思い至ったのがまず収穫だった。我々は重力の底で喘ぎながら、重力によってこの地に留まることができている。それは不自由なことでもあり、だからこそ自由に動く器官や機関によって我々は、重力に魂をひかれて生きていく。
クワトロ・バジーナさんは、「重力に魂をひかれた地球人」というような感じのことをいっていた。思い返せばガンダムはスペースコロニーという地球の重力を離れたスペースノイドによる能力の拡大、解放がテーマであって、それこそがニュータイプだった。一方、魂の故郷「地球」への愛慕もハンパなく、地球人から地球を取り戻すというテロリズムからクーデター風な内戦(それは戦争という形をもたらした)の物語なのだった。
さて、俳句を作らねば。
重力、といえば、季語は『半夏生』しか無いと思った。
両者をつなぐのは「脚」である。重力に抗いつつ、重力にリンクする器官。それが多根となってしっかりと大地に根つくこと、また脚が多いということで「蛸」のイメージも侵入するのであるがこの「蛸」という完全な軟体動物が地上をグネグネとうごく様は、まさに重力の底で重力の枷にあえぐさま、そのものである。火星人も蛸型であったが、あちらは重力が小さいから身体を支える脚が退化してああなったという経緯もある。
『半夏生』においては、脚(根)が退化しては始まらない。あくまでも、がっちりと重力をとらえていなければならないだろう。
半夏生重力弱き火星の地
火星にも重力のあり半夏生
重力の上下を定め半夏生
重力をひっかけていく半夏かな
と、『脚』とつきすぎていたり、『蛸』にたよりすぎていたり、もしくはあまりに抽象的だったりで決まらないなということころで、掃除機をかけたり、写真で文学、みたいなものに取り組んだり、皿を洗っていたりして、たどり着いたのがタイトルの句。
重力や身をさかさまに半夏生
身をさかさまに、といえば獄門島のあの句を思い出す。
本来は重力に触れる器官であるはずの脚が、さかさまになって宙でもがいている様。その多足多根の滑稽とグロテスクが感じられればうれしい。不自由な背中では、手も足も出ない感がある。
今回はこれで。
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