第48話

「食べないの?」


そうクウカは声をかけてきた。ふと我に戻ると目の前に置いてあるパフェのアイスが溶けかけていた。本来倒すべき円卓と食事をし気を抜くなんて事は無いのだが4日連続食事を取ると多少の気の緩みはでてしまう。


「食べるよ」


そういい溶けて液体と化したアイスを口に運ぶ。

アケディアを倒したあの後クウカは突然姿を現し「今戦うつもりはないよ。本通りまで案内するから着いてきて」そう言うと背を見せて歩き始めた。

その言葉を疑い警戒し距離を取りながらクウカの後を歩いた。アウァリティアは何も言って来ずクウカも攻撃する素振りどころか後ろを振り返ることなく歩いていた。次第に街灯も増えていきクウカと食事をしたファミレスに辿り着いた。


「ここまで来れば道わかる?」

「分かるよ。ありがとう」


どんな魂胆があるか分からないが素直にお礼を言う。敵だろうがなんだろうが礼儀は大切だ。


「ここまで案内したんだから貸しひとつだね」

「え」

「ぼーっとしている時に攻撃しても良かったんだけど見逃してここまで案内したんだよ。なにかやってもらわないと割に合わないじゃない?」

「何をすればいい」


その言葉にニコッと笑みを浮かべ、


「私とあなたどちらかが死ぬまで私とご飯を食べて欲しいの」

「1人でご飯食べられないの?」

「この見た目だと色々と怪しまれるの。ファミレスで言ったでしょ」


少しムスッとした声で答える。そういえばそうだった。何も知らない人からすればクウカは小学生にしか見えない。


「朝ご飯と昼ご飯は一緒に食べるのは難しいかな。朝は家で食べるし昼は学校で食べる。夕食なら多分一緒に食べられる」

「十分だわ。明日学校帰りに今日居た場所で待つからご飯食べましょ」


そう笑顔で答えるクウカはどこにでも居る小学生にしか見えなかった。

それから3日間学校帰りはクウカと合流し何処かのお店で一緒に食事をするという生活になった。

あくまで楽しく食事をすると言うのが目的では無く1人だと見た目で怪しまれるため怪しまれないようにするためのカモフラージュの為だと言う事は理解していた。食事をした後は普通に帰るのみそれを続ければ多少の気の緩みはでてしまうものだ。放課後の時間にお腹いっぱいに食事をするぼーっとしない方が珍しい。


「毎回そのパフェ頼んでるけど飽きないの?」

「んー飽きないよパフェの中に色んな味があるし」

「ふーん」


最初の頃は会話も特に無かったが今では多少のキャチボールをするようになっていた。長く続くキャチボールではなく数回で終わるキャチボールだが日が経つ酷にキャチボールの回数は増えていた。


パフェを食べ終えクウカが食べ終わるまでの間ネットの海を彷徨う。明日の天気やらよく読んでいる作家さんの新刊やらどうでもいいウンチクやらそんなものを見て時間を潰していた。


「追加注文するけど時間は大丈夫?」

「大丈夫だよ」

「年頃の女の子が学校終わりに予定が何も無いってどうなの?」


その言葉が少しイラッとさせる。クウカ達円卓が現れなければ今頃目の前にいるのはクウカではなく紅葉だったはずなのだ。私の平穏な生活を奪った円卓がの1人がそれを言う事に腹が立つ。とはいえそれをクウカに言ったところでなにも解決はしない。


「いつも一緒に居た紅葉は今眠ってるから」

「紅葉以外に友達いないの?」

「居るけど今は遊ぶ余裕が無いから」

「そうなんだ。まぁ私は食事が出来るならなんでも良いんだけど」

「クウカこそ私とばかり食事してるけど他の円卓と食事はしないの?」


店員の呼び出しボタンを押しクウカは追加の注文を行い、コップの水を1口飲んだ。


「本来円卓は一緒に行動しないんだ。レイメイと雪音や私とムラキみたいに一緒に行動する方が珍しいんだ」

「なんで?」


1人で戦うよりも2人以上で戦った方が戦いやすいはず何故それをしないのかシンプルに気になった。


「信用してないからだよ」

「円卓を?」

「うん」

「強欲を倒すのが共通目的なんじゃないの?」

「違うよ?正直な所戦うの面倒臭いし別に私達は強欲を倒さなくても生きていける。強欲に殺されない為に殺してるのが正解。強欲が存在しなければ円卓は自由気ままに生きてるよ」

「それなら尚更共闘した方がいいんじゃないの」

「共闘はしたくないかな。殺されるリスク高まるし」

「強欲に?」

「ううん円卓に」


強欲を殺すために共闘して円卓に殺されるリスクが高まるの意味が分からなかった。強欲に懐柔とかさせられるのだろうか。


「あなたが円卓を殺した時にあなたの中に円卓が入って来るように私達も強欲を殺すと強欲が私達のなかに入ってくるの」

「うん」

「強欲は他の円卓と違って混ざらずに時間が経つと転生するの」

「てことは私の中には強欲、怠惰、憤怒がいるってこと?」

「そう言うこと。正確にはあなたの中の強欲の中にだけど」

「うん」

「本来なら器が壊れるまで他の円卓に引き込まれる形で混ざるのだけれど強欲だけは混ざらないの水と油みたいに分離しちゃうの」

「それがなんで円卓に殺される理由になるの?」

「円卓が強欲を殺した後にべつの円卓に殺されると強欲と共に完璧に死ぬ事になるの器がどうの関係なく完全な死ね」

「完全な死」

「そ、だから強欲を協力して殺したとしてその後に殺されない保証はないから基本ソロで動くの。契約してない強欲なんて雑魚だしね」


クウカの話を聞いて何処か腑に落ちる自分がいた。ミルカやブルーダ、アケディアが協力していたのなら勝ち目は無かっただろう。それが協力しなかったのではなく出来なかったのだと。

そしてまた疑問も産まれる。レイメイと雪音は利害の一致で協力関係にある。それならばクウカとムラキは何故一緒に居るのか。


「ねぇなんでムラキと一緒に居るの?」

「ご飯を食べさせてくれるからかな」

「それだけ?」


単純な理由だった。なにか弱みを握られているのでもなく利害の一致でもなくご飯を食べさせてくれるから。なんともまぁ拍子抜けな答えだ。

そんな湊とは違いクウカは食事の手を止め手に持っていた橋を握り折って居た。


「それだけって湊。あなた何も食べられない苦しみを知ってるの?空腹なのかどうなのかも分からず口に入るものはなんでも口に入れて飲み込むしかならなくなる苦しみを知っているの?」

「ごめん知らない」


いつも食事の手を止めないクウカが食事の手を止めて言葉を発する事に謎の緊張が走る。恐らくクウカにとっての地雷を踏んだのであろう。初めてあった時のような敵意と殺意を目の前のクウカから肌が痛くなる程感じる。


「まぁ知らない物は知らないよね」


そう言うと折れた箸を空いた皿に退け新しい箸で食事を再開していた。敵意や殺意は消えいつも通り食事をするクウカがそこに居た。


その後他愛もない会話をしファミレスを後にした。


「明日も今日と同じ所で待ち合わせでいい?」


ご飯をおなかいっぱい食べ伸びをしているクウカに語りかける。


「そうね明日はアケディアを倒した廃墟に集合しない?」


その言葉で解いていた警戒をオンにする。


「時間は?」

「人目に付かないように夜にしましょ。食事が出来ることを当たり前だと考えているあなたに死を提供するわ」


この数日間目の前に居た小学生にしか見えなかったクウカが今はこれまでの円卓が同様倒すべき敵にしか見えなくなっていた。


「あなたには私の中でのむかの味わった苦しみと同じものを与えてあげますわ」


そう言うとクウカは何処かへ歩き去った。

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つみかん @amauya

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