Desperado
織部暁
第1話 はじまり
4月3日
今日は僕の妹、杉浦陽菜の入学式の日。
「お兄~早く早くー!」
そして入学式なのに2年生の僕も行くことになっているので二人で登校する。
新しい制服に身を包み、嬉しそうに時折くるくる回りながら陽菜は歩いている。
「こけるなよー」
「大丈夫大丈夫ー!」
僕らの通っている(通うことになる)高校は普通科ではなく、イラストレーターや芸術家を育成する学校である。
僕の一番苦手な分野なのだが…。
なぜそんな僕が通っているのかというと陽菜が通いたいといったからその『斥候』としてここに通わされている。
我が家では陽菜が一番発言権がある。(本人は知らないが)そして僕は最下位。
なので鶴の一声ならぬヒナの一声で僕は親の命令によって通っている。
陽菜は現在、フォロワーが3万人越えのイラストレーター。
同人誌即売会には参加していないものの、いろんな会社から依頼を受けて描くこともあるので収入がある。だからこそ親もあまり頭が上がらないのだろう。
もっと技術を付けたい、とのことで通うことに下らしい
「お兄と一緒に登校で来てうれしいな~!」
「僕も陽菜と一緒に行けてうれしいよ」
「ホント!?」
「ホントだよ」
「ん~!!お兄しゅき~!」
ギューッと抱き着いてくる。
「ほら、そろそろ着くから離れて」
「はーい」
すぐに離れてくれた。
学校の近くだからか、同じ制服の人が増えてきた。
それから少し歩き学校に着く。
「それじゃあお兄また後で」
「おう、終わったら連絡頂戴ね」
「はーい!」
妹と別れ、自分の教室へと向かった。
この学校は1クラス20人が3クラスの合計60人が1学年にいる。
それが3学年あるので総数は180人。
僕個人としてはこれくらいの人数がちょうどいい気がする。
教室の前に張り出されている座席表を確認してから自分の席に着いた。
「杉浦君おはよ!」
着席とほぼ同時に隣の女子から声をかけられた。
「あぁおはよ。松村さん」
昨年から同じクラスだった松村ハルナさん。
彼女もイラストレーターを目指している。
陽菜のイラストを綺麗系女性と例えるなら松村さんのイラストはかわいい系のイラストだろう。
「今年もまた一緒なんだね!よろしく!」
「よろしく」
軽く握手をする。
「今年から妹さんも入学するんだよね?」
「そうだよ」
「その妹さんって…」
小声で耳元でささやかれる。
「○○先生だよね…?」
「そうだけど」
「やっぱりー!」
声が大きい…
「ねぇねぇ!会わせて!合わせてぇ!」
「良いけど…声がでかい」
「あっ…」
周りの痛い視線にようやく気が付いたのだろう。
恥ずかしそうにしている。
「今日、この後お昼を一緒に食べる約束をしているんだけどその時来る?」
「いいの?」
「もちろん。ファンなんだよね?」
「うん!私がイラストを投稿するきっかけになった人だからね!!大ファンだよ~!」
「その気持ちはぜひ、本人に会ってから伝えて」
「うん!はぁ~楽しみだな~!!」
まだまだ数時間先の話なのに松村さんはどこか浮足立っていた。
僕らは式には出ず、それぞれが自己紹介等を行って午前中には全ての予定が終了した。
先ほども言った通り、クラスは20人なのだが今日はどうやら1人休んでいたようだ。
詳しい理由は言っていなかったが。
どうせ自己紹介だけなので来なくても問題はない。
そういえばいとこが専門学校での卒業式の日に釣りをしてすっぽかしたとか言っていたな…。
そんな話はさておき、妹に『終わったよ』と連絡を入れる。
一年生も今日は午前で終わる予定なのでもう終わっていてもおかしくはない。
送ってから少しして返事が来た。
『昇降口で待ってるね!』
『いまから向かう』
簡単な返事をして僕の席でスマホをいじっていた松村さんを呼ぶ。
「松村さん、妹の方も終わったみたいだからいこうか」
「はーい!」
周りの男子学生の視線がややきつかったがが教室から出て昇降口へ向かう。
「あ、お兄ちゃん!」
昇降口へ行くとすでに着いていた陽菜がこちらに駆けてくる。
陽菜は人前だと『お兄ちゃん』と呼び。身内の前では『お兄』と呼ぶ。
本題に戻ろう。
こちらに駆けよってきて急に止まった。
「ん?どうした?」
陽菜の目は僕の後ろにいた松村さんに向けられている。
「お、お兄…あの人は誰?」
「あぁ…去年から同じクラスの松村ハルナさん。詳しことはまた後で説明するよ。とりあえず今はお店に行こう」
「う、うん…」
ちょっと不満そうな表情をしているがここで立ち話をするのもアレなのでさっさと移動することにした。
学校の近くにある安くご飯が食べられるチェーン店にやってきた。
僕と陽菜が隣同士、前の席に松村さんが座る。
注文を済ませ、ドリンクバーの飲み物をとってきてからお話タイム。
「えっと…お兄ちゃんこちらの方は…」
陽菜ちゃんお外モード。
「挨拶が遅れてしまって申し訳ないです!杉浦君のクラスメイトの松村ハルナです!よろしくお願いします!!」
「あっ…どうも…妹の杉浦陽菜です。よろしくお願いします」
軽く握手を交わす。
「お兄さんから聞いたんですけど」
「松村さんの兄になったつもりはないけど」
「そんなことは今はいいの!!!」
バシッと叩かれた。痛い。
「杉浦さんって…○○先生なんですよね…?」
小声で周りをうかがいながら聞く。
「はい!知ってくださっていたんですね!」
「やっぱり…!私!ファンです!」
「そうなんですか!?ありがとうございます!」
「私のアカウントがこちらでして…」
松村さんが自分のスマホの画面を見せる。
「えっと榛名さん、榛名さん…あった!ありました!松村さんもイラストを描かれるんですね!」
「はい!お恥ずかしながら…」
松村さんは『榛名』名義でイラストを投稿しているフォロワー数は5000人Overだったはず。すごい。
「お兄ちゃんもフォローしてるんだったら言ってよ!」
「え、いやぁ…顔合わせもしてないのに言ってもねぇ?」
「言ってくれたら時間作って会う事くらいするって」
「そんなそんな…!お忙しいのにそんなそんな…!」
松村さんが恐縮してしまっている。
こんな姿を見るのは初めてだ。
僕に対してはいつも高圧的なのに。
イラストレーター社会は病院みたいに縦社会なのか?
「松村さん、フォローさせていただきますね!」
「ほ、ほんとですか!?ありがとうございますぅ!あぁ…幸せ~~」
クリスマスに欲しかったプレゼントを貰えた子供のように幸せな表情をしている。僕はそんな事なかったからこの表現があっているのかわからないけど。
「松村さんのイラスト、素敵ですね!何て言うんでしょう…こうフワフワしていて柔らかさが伝わってきます!」
「そ、そうですか!」
「だね。確かに松村さんのイラストは柔らかさがある」
「そ、そうかなぁ…!えへへへへ」
すごく嬉しそう。
「松村さんって同人誌即売会にサークルとして参加したことってありますか?」
「はい!去年参加しました!」
「そうなんですね!さすが先輩だぁ!」
「私が先輩だなんて…!杉浦さんがイラストを投稿しているのを見て私も投稿し始めたので杉浦さんが先輩ですよ~!」
「いやいや!即売会のほうに参加されているんですから松村さんの方が―」
「まぁまぁ二人とも。このままだと堂々巡りするだけだから一旦落ち着こうよ」
「そうだね…いったん落ち着こうか」
「お兄ちゃんの言う通りだね…」
ふぅっと一つ息を置く。
「そういえば杉浦君はなんでこの高校に入ったの?」
「え?」
まさかさかさまマッカーサー、急な質問がやってきた。
まあいずれは来るだろうと思っていたけど陽菜がいるこのタイミングで聴いてくるか…
陽菜には本当の事は言えないから上手くごまかそう。
「それ私も気になってた!お兄は勉強ができるから普通科に行くとばかり」
「そうですよね!私、いっつも試験前とかお世話になっていますし」
「私もです!お兄に頼りっぱなしです!」
「理由か…まぁいくつかあるけど1つ目は勉強がしたくなかったからだね」
「「勉強がしたくない?」」
二人とも首をかしげる。
「杉浦君、頭いいのに?勉強したくないのは同感だけど」
「知識ってあると便利なんだよね。色々世の中の現象に対して説明がつくし理解することができる。医療系は特に。でも知識が増えるってことはつまり、どんなことが不可能なのかもわかっちゃうんだよね」
「それって悪い事なの?」
陽菜が聞いてくる。
「悪いかどうかはその人によると思うけど、不可能、つまり失敗することがほぼ確実ってことはその物を挑戦しないって事になるんだよ。知識が増えるってことはそう言うことだから必要以上に増やしたくなかったんだよね」
「へぇ…なんだか難しいな…」
松村さんが頭を抱える。
「それともう一つ、陽菜のこれから生きていく世界を知っておきたかったんだよね」
「私の?」
「そう。陽菜の支えになるためには知っておかなきゃサポートしづらいでしょ?」
「そうなのかな?」
「勉強と同じで教えたりする人間が理解できていないと教えられる方もイライラするでしょ?分かりもしないやつに教えられるのはさ。だからここに入ったんだ」
「なるほど…お兄らしい理由だね」
「兄妹仲がいいとは思っていたけどここまでとはねぇ。妹の為に高校を選ぶってあまり聞いたことが無いよ」
「まぁ僕には夢が無いからね。妹に尽くすことが今の僕にできることだよ」
「お兄…」
恥ずかしそうに身もだえする陽菜、
「そこまでとは…シスコンじゃん」
松村さんは少々呆れ気味。
「そうだ、松村さん」
「ん~なに?」
出された料理を食べながら尋ねる、
「僕のとなりの席の人、今日休んでたでしょ?あの人の事知ってる?」
「知ってるよー」
「教えてもらってもいい?」
「うん。えっとねあの子、女の子なんだけど村田透子ちゃんって名前なの。聞いたことない?」
メモ帳に『村田透子』と書いて渡してくれた。
「見覚えはないなぁ」
「あーそうなんだ…」
「お兄はよっぽどのことが無いと人の名前、覚えないですからね…」
「それで透子ちゃん、耳が聞こえないの」
「耳が…」
「でも絵がすごく上手なんだよ!去年は1年生の中で最優秀賞撮っていたほどだし!」
「へぇそうだったんだ」
「それに美人!」
「ほぉ!美人とな!」
「「なんでそこだけ反応がいいのよ」」
二人からにらまれる。
「絵が上手いとかそんなことは実にどうでもいい話だよ。絵の良し悪しなんてものは所詮、見た人の評価だからね。しかし美人は重要なものだよ。東洋人の思い浮かべる美人というのはいわゆる白銀比、西洋人の基準による美人は黄金比。つまり…」
「はぁ…まぁたお兄の変なスイッチが入っちゃったよ」
「あはは…こうなったら放っておくしかないね…」
誰にも聞かれることもなく、僕の美人雑談は続いた。
ご飯を食べ終え、今日はそのまま解散となった。
陽菜と松村さんは大分打ち解けたようで連絡先まで交換していた。
そして今は家に帰ってきて自室でのんびりしている。
僕らの部屋は陽菜の希望で寝室と勉強部屋?は分けられている。
つまり、僕と陽菜は同じ部屋で勉強をし、同じ部屋で寝ている。
なんでそうしたのかは本人しか知らないが。
そんな感じの部屋で陽菜は趣味絵を描いている。
僕は…やる事が無いのでF1でも見ることにした。
昨シーズンのハイライトをもう一度。
ホンダがF1に復帰してから初めての優勝もあったし!
ちなみにホンダは1964年からF1に参戦している。
ずっと参戦しているわけではなく、たびたび参戦していない時期もあり、現在は2015年から始まっている第4期。
復帰した2015年からはかつて最強パッケージともいわれたマクラーレンホンダとして参戦するもブランクからか、エンジントラブルも多く、2017年に決別。
2018年からはエナジードリンクメーカーとして有名なレッドブルの弟分チームのスクーデリア.・トロロッソ(現アルファタウリ)にPU(Powre Unit)供給を始め、2019年からは親玉であるアストンマーチン・レッドブルレーシングにPUを提供し、同年に復帰後初の優勝をオーストリアGPで獲得している。
このシーズンはレッドブル内でも色々あった。
このシーズンはマックス・フェルスタッペンとピエール・ガスリーの2名で始まったがシーズン中盤になり、成績不振という理由でガスリーはトロロッソに降格。
代わりにトロロッソにいたアレックス・アルボンがレッドブルに入った。
そんなシーズンを見直すことにした。
実況は英語なので何を言っているかわからないが…。
しっかし現在のF1は凄まじい。
ピットストップをしたとしても2秒くらいしか止まらない。
給油無しのタイヤ交換のみ。
ドライバーの気が休まる時が無い。
そんなF1を初戦のオーストラリアGPから見ているとコンコンと肩をたたかれた。
「ん?」
振り返ると陽菜がニコニコしながらこちらを見ている。
動画を一旦止め、ヘッドホンを外す。
「どったの?」
「絵が描けたからお兄に見てもらおうと思って~」
僕が去年の誕生日に買ってあげた液タブを見せてくれる。
「おぉ~いいじゃん!」
本人曰はく、落書き程度のイラストらしいが僕にとってはもう!すごいイラスト。
茶髪で妹系の幼さがある女の子で制服姿。制服の感じから中学生だろうか?
我が妹ながら僕の好きなところをついてくる良い作品。
ちなみにお姉さん系も僕は好きですよ!
「でしょ~!お兄の好みにしてみました!」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
妹に対して土下座をする。
兄の威厳とかそんなものはとうの昔に捨てた。
「そんなに気に入っているんだったらこれの清書版お兄にあげるね」
「さようでございますか!それはありがたき幸せ!」
「じゃあお兄、飲み物持ってきて~」
「かしこまりました!すぐにお持ちいたします!」
急いで部屋を出て飲み物を取りに行った。
―陽菜―
なんというか…お兄は美少女イラストに弱い。
まぁラノベとかゲームとかマンガを買うときの基準がイラストの可愛さなので仕方が無いと思うが。
私の描くイラストを喜んでくれるので文句はないのだが…ないのだがもう少し現実の方にも目を向けてほしい。
そう言うと『モータースポーツが好きだから大丈夫』と返されるのだがそっちではなく、女の子の方に興味を持ってもらいたいのだ。私とかにさ。
しかしお兄に女の人の友達がいた事には驚きだ。
小中学校の頃の人はのちの人生に役立たない、そう言って誰とも連絡を取っていないし、そもそも友達にすらならなかった人なのに。
ハルナさんなら安心できるが、もう一人の人にもなんだか興味津々らしい。
「お兄、美女って聞くとすぐに飛びつくんだから」
少しモヤモヤしながらお兄の椅子を蹴る。
せっかく常に一緒に居られるように部屋の方も考えたと言うのに何とも鈍感な人だ。
「鈍感なのはラノベの主人公だけでいいよ…」
何となくお兄の机を見る。
机上にはF1カーのモデル、車やバイクのプラモデルが置かれている。
それと壁にはサーキットでもらってきたと思われるチェッカーフラッグやチームの旗。
全くをもって色気も何もない。
だからこそ都合がいいのだが。
そしてつけっぱなしの2面あるPC画面の背景の1枚はくきは先生のファンクラブだけで配布されたイラスト。兄妹揃って入っている。
もう一枚は私がお兄に描いてあげたイラスト。すごく気に入っているのかずっとコレ。
「というかお兄、変なサイト見てるんじゃないの~」
どこかへ買いに行ったのかまだ帰ってこないのでブラウザの履歴を見てみる。
「え~っとホンダのホームページにHRCのサイト、レッドブルのサイト、中古車のサイトに中古バイクのサイト、私のホームページってまじめか!」
何とも何ともいい歳なのにこんなサイトの履歴しかなくて色々な意味で心配。
動画サイトの閲覧履歴にも先ほど見ていたレースのハイライトやモトブロガーの動画、マフラー音の動画にSLの汽笛…こちらもこちらで心配。
「はぁ…」
相変わらず変な人。だけど、だけどそんなところもすちぃ!
お兄の椅子に座る。
本人曰く車の椅子らしいが私にはゲーミングチェアにしか思えない。でもすごく快適。
「ふぁ…なんだか眠くなってきちゃった…」
緊張からかあまり昨晩は眠れなかったので気が緩んだ今、すごく眠い。
お兄も遅いしこのまま寝ちゃおう…。
―圭市―
「いや~珍しくコンビニに行ってしまった~」
マウンテンバイクを漕ぎながらつぶやく。
我がかわいい妹、陽菜の為にコンビニまで行って色々買ってきた。
いつも夜遅くまで頑張っているのだからたまにはご褒美があってもいいだろう。いや、たまにじゃなくて毎日でもいい。
すぐに持ってくると言った身としては外まで買いに行くのはどうなのかとも思うが、お茶くらいしか飲むものが無かったので買いに行った。
陽菜の好きなものを買ってきてあげたので怒られることはないだろう、
自室に戻る。
「陽菜ちゃ~んお待たせ」
部屋に入ると陽菜は僕の椅子の上で寝ていた。
この光景もよく見る。
そんなにこの椅子良いのかな?
もしあれだったら陽菜にも買ってあげよう。
「そんなところで寝てたら体痛めるよー」
もっとこのかわいい寝顔を見ていたいけど起こしたほうが体のためなので起こす。
「ん…お兄…」
眠りが浅かったからかすぐに起きた。
「おかえり…」
「ただいま。ほら、色々と買ってきたから食べよ?」
「ふわぁぁぁぁい」
「あくびと一緒に返事しないの」
「お兄~抱っこ~」
「はいはい」
まだおねむな妹を抱きかかえて椅子に座らせてあげる。
そのまま共有している机へ移動させる。
「陽菜にはミルクティーとミルクレープね」
「わーーい!ありがとー!」
いつの間にか眠気も吹っ飛んでいたようだ。
本当に寝ていたのか?
「僕はこれ~」
自分にはカフェオレと陽菜と同じミルクレープを取り出す。
「お兄もミルクレープなんだ」
「僕も好きだからね」
「私も!お兄しゅき!」
「陽菜~!」
ガシッと抱きしめあう。
何だろうコレ?
「さて、食べようか」
「うん!」
おやつタイムに突入した。
「陽菜ちゃん」
「なんだい兄」
「お友達はできそう?」
「おいおい兄と一緒にしてもらっちゃあ困るぜ」
何だよそのキャラ。
「お友達って女の子だよね?そうだよね?男だったら僕の所に一度、顔を出してもらわないと!それから友達になっていいか判断する!僕が!!」
「めんどい父親かよ…」
「陽菜ちゃん!言葉遣い!」
「お兄が急にちゃん付けで呼んでくるから私もそれなりに対応したんだよ?」
「あれ?そうだったの?もしかして僕のせい?」
「うん」
そうか…僕のせいだったか。
「友達はもちろん女の子だよ」
「女の子!よかったぁ!」
「心配しすぎだって」
「自分の妹なんだし変な虫がつかないか心配するのはあたり前でしょ?それに有名なんだから尚更気を付けないと」
「変な虫を追い払うんだったらアレ、追い払ってよ」
陽菜の指差す先にいたのは…ハエトリグモだった。
「ハエトリグモじゃないか…あの子は益虫だから追い払ったら可愛そうだよ」
「えー!やだやだ!虫嫌いーーー!!!ぎゃーーーー!」
「わかったわかった。外に出してくるね」
立ち上がってハエトリグモちゃんを手に乗せる。
「ごめんね~」
一階まで降りて外の木に逃がす。
芥川龍之介の蜘蛛の糸の話を鵜呑みにしているわけではないが、もしもの時の為に無益な殺生は避けるようにしている。
それに蚊くらいなら潰せるけど、この大きさになるとね…
手を洗ってから部屋に戻る。
なぜ手を洗うかって?手を洗わないと陽菜が激怒するから…。
「お兄お帰り~ちゃんと手、洗った?」
「洗ったよ」
「ならよし」
部屋に戻ると陽菜は僕の椅子に座って僕のミルクレープまで食べていた。
「それ、僕のだよね?」
「うん」
「なんで食べてるの?」
「イラスト1枚でどう?」
「その話乗った!」
僕は陽菜の椅子に腰かける。
ちなみにこの椅子は陽菜が自分で買ったもの。
「陽菜ーひとくちちょうだい」
「はいあ~ん」
陽菜にあ~んしてもらって食べる。
「あは!お兄、間接キスしてる~!」
「今更そんなもんじゃ恥ずかしがらないって」
「それって私だからじゃないの~?ハルナさんとだったらどう?」
「松村さんか…無理だな」
「無理って…お兄の場合は他人が口を付けたものが食べられないだけでしょ…」
「その通り!」
「それを治さないと一生彼女は出来なさそうだねー」
「なんだと!?」
「お兄は女心をちゃんと理解しないとダメだよ。女の子はね、自分の食べているものを好きな人と共有したいんだよ」
「だって、だってそんなことをしたら……A型肝炎に感染する可能性があるだろ!!!」
「うるさっ…そんな細かい事を気にしてるからいつまでたっても童貞なんだよ…」
「貴様!言ってはならないことを言ったな!こうなったら殺してやる!」
*兄妹のじゃれあいです。殺したりはしません。
「くっ!処女のまま死んでたまるか!お兄で済ませてやる!」
*実際に行為はしないのでご安心ください。
しばらく取っ組み合いをした。
夕飯を食べ終え、お風呂にも入ったのであとは寝るだけとなった。
自室でのんびりする。
モータースポーツに関する記事だったり新しく登場するマシンの情報を見たりしている。
「バイク欲しいなぁ」
年齢的に車は乗れないので今はバイクが欲しい。
MotoGPも見ているので。
SS(スーパースポーツ)バイクをああやって操っている姿を見ると自分もやってみたくなる。
僕もまだまだ子供なのだろう。
ホンダのバイクのサイトを見る。
「へぇCBR600RRが発売されるのか。あのセンターアップマフラーがかっこいいんだよな」
でも600ccなので僕の取れる中型二輪では乗れない。
おとなしく400ccまでのバイクを見よう。
ホンダの400ccと言うとすぐに思い浮かぶのはCBR400R。
シート高が785mmで僕の身長的には辛うじて足底が踵まで付く感じだった。
だから足つきの面では全く問題ない。
車重は…192kg。まぁ扱えなくはないだろう。
色も3色から選べるし、倒立フォークだし見た目の面では問題ない。
あとは実際に乗って走ってみないとわからないものだ。
大分時間も経ち、寝るのにはいい時間になった。
陽菜は…まだイラストを描いているようだ。
「陽菜~そろそろ寝るよ」
「ちょっと待って。もう少しで一息つけそうだから」
「りょーかい」
それから10分後。
「お兄終わったよ」
「ほーい」
思いのほか早く終わった。
もう少し時間が掛かると思っていたのだが。
僕はPCをシャットダウンして背伸びをする。
「寝るか」
「うん」
二人でシャカシャカ歯磨きをして寝室に行く。
先ほども言った通り陽菜とは同じ寝室。
でもちゃんとベッドは2つある、くっついているけど。
どうしてくっついているかはこの後わかると思う。
「電気消すよー」
「はーい」
それぞれのベッドに入ってから電気を消す。
暗闇でほとんど見えない。
まだまだ目が慣れていないのだろう。
それにしてもこうやって暗い空間と布団をかぶっている状況では感覚的にも狭い、閉鎖空間になるので思考が冴える。
全く定まっていない将来について考えよう。
美術系の学校に通っているが一般的には僕の絵は下手な部類に入る。
なのでその辺の道は僕にはない。
まぁそもそも絵が上手くて、その道で生きていこうとして入った学校ではないから。
他は何だろうか?レーシングドライバー?いや、今からなるには少し遅いかもしれない。
あとは…。
と考えていると横からゴロゴロと何かが転がってきて僕の腕の中に収まった。
陽菜だ。
これが僕らがベッドをくっつけている理由。
陽菜は寝相が悪いからなのか、わざとなのか寝ているとこうやって僕の所にやってくる。
だからベッドが離れていると落ちてしまうのでくっつけてある、
たぶんわざとだろうな…。
可愛い寝顔をしばし見つめ抱きしめる。
しばらくはこのままでいいか…。陽菜が結婚するまで、誰かと同棲するようになるまで僕は彼女のとなりにいよう。
彼女が唯一信頼できる家族なのだから。
Desperado 織部暁 @akira_oribe
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