第383話 こらこら、本物混じっとるぞ
「ぬおぉぉ~…」
痛みに額を押さえて転げ回るアーク。
『ヨコヅナ選手、斬撃をつまんで止め!強烈なデコピンをアーク選手に喰らわせたぁ!!これはあまりにもバカらしくて、本気で相手出来ないという意思表示でしょうか?』
『ふふふっ、そうかもね』
ヨコヅナもちょっとバカらしく思っているが、デコピンには別の理由がある。
それはミーティング後にコフィーリアに言われたからだ。
「全勝で大将戦に回ってきた場合、スモウを使わず勝って欲しいの。出来れば誰が見ても手加減したと分かるような圧勝で」と、
そうかもね、などと言っているがコフィーリアの指示なのである。
「この程度の相手ならスモウを使わなくてもどうとでもなるだな。「誰が見ても手加減したと分かる」とも言われたからデコピンしてみただがこの後どうするべかな……あ、もしかして…」
『だが振り下ろされる剣を指でつまんで止めるなど、並の芸当ではないぞ』
『確かに誰にでも出来ることではないけど、スモウではないから技と言えるレベルにも達していないわ』
『…褌一丁の格闘技に対武器の技があるわけないか』
『……ですけど、ヨコヅナ選手奪った宝剣を振り回してますよ』
闘技台ではヨコヅナが宝剣ゼクスカリバーで素振りをしていた。アークがいるのとは全然違う方向に向けて。
因みにアークは審判に「まだ戦えるか?」と試合続行の意思を確認されていた。さすがにデコピン一発で大将戦を止めることは出来ないと審判も思っている。
『あれは何をしているのでしょうか?』
『…多分、あの剣があれば自分も魔法が使えるかも、とか考えてるのではないかしら』
コフィーリアの推測通りだった。
「風、出ないだな」
どうすれば風魔法が使えるのか、振る角度や速さを変えたり色々試して見るヨコヅナ。
そこでようやく立ち上がったアーク。
「き、貴様ぁ」
ヨコヅナがゼクスカリバーを振り回しているの見て、
「返せぇ!貴様如きが触れて良いモノではない!」
怒りのまま駆け寄り、ヨコヅナの頬を殴りつける。
「ん……立ち上がったんだべか」
ヨコヅナは殴られたことなど全く意に介さず、
「この剣って魔法使うのに呪文とか必要なんだべか?」
あろうことかアークにゼクスカリバーの使い方を訊きだした。
「返せてと言っているんだぁ!!」
当然答えるわけもなくアークはさらにヨコヅナを殴り続ける。
『一見アーク選手の猛攻、ですがヨコヅナ選手はビクともしていません!!これが不倒と呼ばれる驚異の耐久力!!』
「はぁ、はぁ…何なんだこいつは!?」
「あ、そう言えば最初に剣の名前を叫んでただな、確か…、ゼクスバリカー…ん?何か違うだな。ゼクスキャリバー…いや、エクスカリバー…?」
尚もヨコヅナはアークを無視して剣を振るう。
『ぷっふふふ、あはは……、仕方ないわね、解説者が選手に話しかけるのは良くないのだけど』
あまりにも試合になっていないのでコフィーリアが教える。
『お父様の話を聞いていなかったのヨコヅナ。宝剣ゼクスカリバーは魔法を強化する剣。魔法が使えるようになる剣ではないのよ』
コフィーリアの言葉を聞いてしかめっ面になるヨコヅナ。
「使えない宝剣だべな」
ポイっと宝剣を投げ捨てる。ゼクスカリバーは場外まで飛んで行った。
「貴様ぁ!!」
さらに殴りかかろうとするアークの拳を今度はガッシリ鷲掴みにする。そのまま握りしめる様に力を込めていく。
「痛あぁぁっ!」
「軟い拳だべな」
ミシミシと骨の軋む音が鳴る。
「このまま握り潰しても良いんだべが、どうするだ?」
「は、放せぇ、あアぁぁァァあっ!」
「違うだよ」
「あぁぁ、…お俺の負けだ!こ降参する、痛ぃ…するから早く放してくれ!」
「だそうだべ審判」
あまりにもアークの情けない姿に反応が遅れた審判が、
「勝負あり!勝者ヨコヅナ選手」
ヨコヅナの勝利を告げた。
それを聞いてアークの手も放される。
「さてと、姫さんの指示通りに出来たと思うだがどうなるべかな」
『…勝敗が決しました!最後を締めくくる大将戦、勝利したのはスモウチーム!
ヨコヅナ選手です!!』
勝利者宣言がなされても会場は全然盛り上がらない。
圧勝どころか序盤以降アークは相手にもされていなかった上、最後は命乞いのような降参負け。盛り上がれようもない。
『なんとも微妙な幕引きとなってしまいましたね姫様』
『アークの愚かさは予想以上だったけど、安心していいわ。まだ幕引きではないから』
『どういう意味ですか?』
『今回の王覧試合はヨコヅナのスモウを披露するという目的が根本にあるの。だけどまだ四股踏みしか見せていないわ。私はこうなる事も予想していて王覧試合が決まった際、近衛騎士を相手にヨコヅナ一人での勝ち抜き戦を提案したの』
『騎士隊相手に一人での勝ち抜き戦ですか……、先の大将戦を見るとヨコヅナ選手ならポイポイ倒しちゃいそうですね』
『でしょ。だけど心配性の二人が大反対してね。「ヨコヅナが一人目で負けた場合そこで王覧試合が終わりとなってしまう」「そんな醜態が晒されるルールは王覧試合で許されない」と言われて却下されてしまったの。でも逆も言えるわよね』
コフィーリアがヨコヅナにスモウを使わないよう指示した意味。
『近衛騎士隊隊長が弱すぎて、スモウを披露することも出来ず王覧試合が終わるなど、そんな醜態は晒せない。違うかしらお父様?』
『…だからといってどうすることも出来ないだろう』
『幸いまだ時間はあるわ』
『近衛チームにもう戦える選手がいない。アーク選手にもう一度試合しろと言うつもりか?』
『いいえ。近衛チームに戦える選手はいなくとも、戦える近衛騎士はまだまだ会場にいるじゃない』
物理的に近衛騎士隊を潰す為だ。
『続けましょう、ヨコヅナVS近衛騎士隊の王覧試合を』
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