第382話 剣名を叫ぶ必要は一切ないぞ
宝剣ゼクスガリバーとは、近衛騎士隊初代隊長が愛用していた剣。
当時はお飾り部隊などではなく、戦場で活躍した騎士の中からさらに高位の者を厳選して編成されていた近衛騎士隊、中でも隊長は軍で一二を争う強者だった。
そして初代が二代目に、隊長の座と共に剣も託したのが切っ掛けとなり、ゼクスガリバーは代々近衛騎士隊隊長に引き継がれるのが伝統となっている。
『どれだけ凄い剣でも、いえ、凄い剣ほどこの試合では使えないと思うのですが』
ステイシーの指摘は当然のものだ。許可されたのは模擬剣、最強の近衛騎士が後継に託した宝剣など使えるわけがない。
しかし闘技台では、
「この剣は使用条件を満たしている」
アークがゼクスガリバーを審判に渡し確認させていた。
そして審判三人は確認した。手の平を刃の部分で叩いたり擦ったり。
しかし手の平には傷一つつかなかった、真剣であればあり得ないこと。
宝剣ゼクスカリバーは模擬剣同様、刃が尖れていないのだ。
審判三人はどうすべきか悩み、実況席へ視線を向けていた。
『…お父様、宝剣というのは斬れもしないお飾りの剣という意味なの?近衛騎士隊にはお似合いだとは思うけど』
『その認識は間違っていない、99%はな』
『99%……それはつまり』
『近衛騎士隊の初代隊長は魔法剣士だったのだ、そしてゼクスカリバーは魔法を強化する剣。刃がなくとも数多の敵を斬り裂いたとされている』
『魔法を使うのに刃のない剣が必要がだったのですか?』
『そうではない。刃がない理由は「近衛騎士は王族を護る者、攻める
『……話を戻しましょう、今重要なのはあの剣の使用を許可するかどうか』
ゼクスカリバーは魔法を強化する剣。99%の人間には高価な模擬剣でしかないが、アークが持ち出して来たからには1%の人間だという証拠。
『刃がないとはいえ、宝剣は模擬剣ではないのですから不可だと思います。模擬剣可ですら近衛チームを有利にするルール変更でしたし』
『ステイシーの意見は
コフィーリアの言葉を聞いて審判がヨコヅナに確認する。
そしてヨコヅナは少し考えて頷く。
審判は許可したの意味で両腕で丸を作る。
『なんとっ!?ヨコヅナ選手、自分は素手でありながら相手が宝剣を使う事を許可しました!!』
『なら私も許可するわ。後はお父様が決めることよ』
『本当に良いのかコフィーリア?何が起こるか分からいぞ』
『私は予想出来るわよ、少し面白くなってきたぐらいだわ』
『…そうか、良いだろう。宝剣ゼクスカリバーの使用を許可する』
シュナイデルが許可したことで会場はさらに騒然となる、批判する者もいるが賛成する者の方が多い。コフィーリアと同じように面白い試合を期待しての反応だろう。
『そう言えばアークの紹介が途中だったわよステイシー』
『あ、そうでした。ゴホンっ、西方よりは格闘試合に恥も外聞も捨てて宝剣を持ち出して来たこの男!近衛チーム大将!ア ー サー・ペ ン・ド ラ ゴ!!』
短いうえにディスっているとしか思えない選手紹介だが会場は沸く。
審判は一応ルール説明を行う。説明というよりもヨコヅナへの忠告。
「魔法が使用されてはもしもの場合でも我々は割って入れない」
模擬剣あれば今の防具で防げるが魔法は専用の防具でなければ防げない。
「分かっただ、始まったら離れてて良いだよ」
「そうだな、離れていろ。ゼクスカリバーの全力を制御できるかは俺にも分からない」
「……両選手は開始線へ!」
二人が開始線に着く。
「両者相手にも敬意を持って戦うように」
無駄と分かりつつも審判は再度忠告し手を上げる。
『審判の手が上げられました!』
「想定外ではあるけど、指示した通りに頼むわよヨコ」
コフィーリアは拡声器を通さず呟く。
「王覧試合大将戦、はじめ!」『ドドンッ!!』
手が振り下ろされ、試合開始の太鼓を叩く音がなる。
「誇るがいい!真なる後継者である俺に宝剣を使わせたことをっ!!」
開始早々剣を振り上げるアーク。
『あれはっ!アーク選手の髪が逆立っています!?』
『アークが使えるのは風魔法のようね』
『やはり初代隊長と同じ系統の風魔法か』
初代隊長は風魔法の使い手、刃のない剣で敵を斬れたのは風の刃を魔法で作り出せたからだ。
「くらえ!ゼクスカリバー!!」
アークは全力魔法を剣を振り下ろすと共に放つ。
と、同時にヨコヅナはサっと横に移動する。
『おぉ!ヨコヅナ選手開始早々のアーク選手の魔法を回避しました……で、あってますよね姫様?』
『そうだと思うわよ。風魔法は見えないからここからではよく分からないけど』
『……闘技台にいるヨコヅナ選手も分かっていないようだが』
ヨコヅナは少し首を傾げていた。
ヨコヅナはカルレインに質問した事があった。「裏闘で魔法を使う対戦相手にあたった場合どうすれば勝てるべかな?」と、
それに対してのカルレインの答えは、「魔法を使われる前に倒すのが最善じゃが、裏闘では開始時の距離的にちと厳しいかの。一度かわしてから距離を詰める方がよいの、魔法は基本放ってから曲げることは出来ん」だった。
魔法は曲がる様に放つ事は出来るが、放ってから曲げることは出来ない。
その助言に従ってヨコヅナは剣が振り下ろされるのと同時に横へ移動し、その後直ぐ間合いを詰めるつもりでいた。
だが距離を詰めず首を傾げている。その理由は何かが飛んできた気配を感じとれなかったからだ。
確かに風魔法は見えないが、見えない攻撃で言えばデルファの衝撃波も同じだ。
デルファの衝撃波をかわした時は確かに何かが飛んできた気配を感じた。
裏闘で何度も喰らった拳弾も同様だ、集中すれば飛んでくる気配を感じ取れる。
だが、今の攻撃では何も感じ取れなかった。
その為ヨコヅナは誘い込む為のフェイントの可能性もあると考え距離を詰めなかった。
だが、
「よくぞかわした。しかし次はない」
アークの言葉に首を傾げる角度を大きくするヨコヅナ。
(誘いじゃなかっただか…?)
言葉もまた誘いという可能性もあるのでヨコヅナは距離を詰めずその場で身構える。
アークは次に横薙ぎに剣を振るう。
それに対してはヨコヅナは両腕をクロスして体に力を込める。気配を感じ取れない攻撃が飛んで来ていたとしても流石に致命傷となる威力ではないだろうと考えたからだ。
そしてヨコヅナは驚く……ほど、何もなかった。正確には風は吹いている、団扇で仰がれた程度の。
『二撃目はかわさず腕をクロスして防御したヨコヅナ選手、ですが一切ダメージを負った様子がありません、首を大きく傾げています!これはどういう事でしょうか?』
『…魔法の効果範囲外だから、か…?初代隊長の逸話では剣の届かない相手も斬り裂いたとあるが、明確な距離までは伝わていない、はず…?』
シュナイデルも疑問系でしか答えれない。
ヨコヅナは構えを解き、ゆっくり歩いてアークに近づく。首を傾げながらも感覚的に、
(大丈夫そうだべな)
大した脅威はないと判断した。
近いてくるヨコヅナに何度も魔法を放つアーク。
ヨコヅナに当たる風が、肌を手で
剣が届く一歩手前だった。
「いや、これなら普通の模擬剣でよくないだか」
思わずツッコむヨコヅナ。
タメが大きいのにダメージがほぼない、しかもアークには疲れが見てとれる。
『あんなに近づいてもヨコヅナ選手にダメージはありません!?あの宝剣は偽物なのでしょうか?』
『流石にそれはないでしょう。アークの魔法技能が低くて風の刃を作り出せないだけだと思うわ』
『しかしアーク選手は自信満々に魔法を放っていましたが…』
『多分だけど、隊長には風魔法を使える者がゼクスガリバーを持てば強力な風の刃を放てる、とか伝わってるのではないかしら』
『…練習とかしたことないんですかね?』
『宝剣だから大事にしまってたんじゃない』
『…バカなのでしょうか?』
『バカなのでしょ。ねぇお父様?』
『……そうだな』
シュナイデルも否定できないバカっぷりを披露してしまっているアーク。
「くっ……、ならば直接叩き込むまでだ」
一歩踏み込み振り下ろされる剣を、
「あんたの剣筋はもう見切っただよ」
ヨコヅナは指でつまんで止める。
「なっ!?」
そして動きが止まったアークに全力の、デコピンを喰らわせた。
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