第381話 図星にしか思えん
ハイネと使用人が座る観客席。
「わははっ!おもろいの」
「やはり鍛え直すなんて甘い考えをするわけないですね。王女様は潰すと言ったからには潰します」
「だが潰すには陛下を認めさせなければならない。仮にブチかましで瞬殺したとしても認可はされないと思うぞ。勝ったとは言え副将戦の見栄えが良すぎた、それまでの三試合を払拭できるほど」
「あの方は移転ですので純粋な近衛騎士隊とは別と考えて良いと思うのですが」
「それでも正式な近衛騎士だ、陛下なら妥協案として鍛え直す程度にまとめるだろう」
ハイネはシュナイデルの性格から近衛騎士の再構成は認められないと考えていた。
「我はそうは思わん、
「だが大将戦をどう戦ったところで…」
「違うじゃろ、「ヨコヅナの試合を観てから」と言ったのじゃ」
スモウチーム選手席。
「契約のこと、ヨコヅナは聞いていたか?」
「初耳だべ、オラも信用されてないんだべかな」
これについては逆である、ヨコヅナが負けないと信じているから教える必要もないとコフィーリアは考えている。
「ヨコヅナが負けたらコフィーリア王女はもうお会いにならないのか…」
「メガロ様、「それもいいかも」とか考えてませんか」
「メガロ様、さすがにそれは…」
「最低の考えだぞ」
「ぃいやっ、違う!そんなことは考えて、いない、ぞ」
「姫さんにはこれからも後ろ楯でいてもらわないといけないから、絶対に負けられないだよ」
ヨコヅナが闘技台へと向かう。
『おっと、まだ呼ばれてませんよヨコヅナ選手…』
『ふふっ、構わないわ。選手紹介してあげて』
『分かりました!』
少し先走った行動ではあるが、コフィーリアの契約の話が衝撃的でざわつく会場では誰も気にはしない。
『東方よりは今回の主役!この国でスモウの使い手は唯一この男のみ!突如王都に現れた不到の怪物!!スモウチーム大将!ヨ コ ヅ ナ!!!』
ヨコヅナは闘技台で四股を踏む。
大地が揺れたかと思う程の轟音に、会場のざわつきが全て消える。
二回目の四股を皆が黙って注目する。
片足を高々と上げ、強く地面を踏む。
それだけの動作に皆が目を奪われる。
『…なるほど、あれが本物か』
弟子がいるのに唯一のスモウ使い手という紹介に疑問を覚えていたシュナイデルだが、ヨコヅナの四股を見て納得がいった。
『ええお父様、あれが本物のスモウの四股よ』
国の上層部が集まる観客席。
「あー…駄目だな。近衛チームの全敗だ、引き分けすらありえない」
ヨコヅナの四股を見て、ヒョードルもまた別格であることを理解してしまった。
「諦めるの早いなおい!まだ始まってすらいないぞ」
「むしろ遅かったぐらいだ。日常時と戦闘時で雰囲気が変わる者は軍では少なくないが、ここまで極端な例は稀だな」
ハイネや爺やからヨコヅナが強い事は何度も聞いているが、ヒョードルにとってヨコヅナは料理人という印象が強く、また普段のニコニコ笑顔の温和な雰囲気も相まってピンときてなかった。それが闘技台で気を引き締める為四股を踏むヨコヅナを見て合点がいったのだ。
「まぁ、全敗になろうと陛下が契約を認めるとは思えないから、もう大した問題ではないがな」
「王女様は陛下に契約のことを話していなかったのだな、その可能性もあるとは思っていたが…」
ヒョードルとケオネスは近衛チーム再構成の契約の話がシュナイデルに通っている前提でことを進めていた。
何故シュナイデルに確認しなかったかというと、「王女を密かに調査しました」と国王に報告することになるからだ。
ヒョードルならまだ、近衛騎士隊からの情報、ということで確認出来るがその場合違う問題が出て来る。
もしシュナイデルに「近衛チームが全敗する可能性はあるのか?」と聞かれた場合、元帥という立場上「可能性あります」とは言えないのだ。そこは「可能性はありません!」と断言しなければならない。
そうすると「なら良いのではないか」と逆に認可が下りかねない。だから確認をせず契約が無効になる様に
「あとは陛下が妥協案を考えてくれるだろう」
「……そうだと良いがな」
近衛チーム選手席。
「…あれが相手ではルール変更関係なく、引き分け狙いすら無理だな」
ヨコヅナの四股を見てランスもまた別格であることを再認識した。
対戦するアークはまだ席に座ったままだ。ヨコヅナを見ず俯いている。
ランスは一瞬戦うのが怖くなったのかと思ったがそれは違った。
「隊長、持ってきました!」
「来たか!よく間に合わせた!」
隊員がアークに渡した物を見てランスは目を見開く。
「隊長…一体何を…」
「よく見ておけランス、大将戦は俺が勝つ」
アークはそれを持って闘技台へと向かう。
『西方より近衛騎士を率いし……あれ…?』
ステイシーは選手紹介を止めてしまう、審判三人がアークの方へ集まったからだ。
その理由も一目瞭然、
『アーク選手が手にしているのは…』
『どう見ても模擬剣には見えないわね』
副将戦で使われていた模擬剣とはまるで違う、きらびやかな装飾が施された剣をアークが持って闘技台に上がってきたからた。
『あれはっ!宝剣ゼクスガリバー…』
シュナイデルの言葉に会場はまたも騒然となる。
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