第380話 諦めなければライバルと言えるかの


『勝敗が決しましたぁ!!大注目の副将戦、勝利したのはスモウチーム、メガロ選手です!!!』


 会場に割れんばかりの歓声が響きわたる。

 そんな中闘技台で、


「肩を貸そうか?」

「ああ、助かる」


 下段蹴りのダメージで立ち倦んでいたランスに肩を貸しすメガロ。

 そのまま近衛チームの選手席へと向かう。


「凄い蹴りだった、収集したスモウの情報にはなかったはずだが」

「スモウではないからな。ヨコヅナを倒す為に鍛え続いている。特に最後の上段蹴りへの変化は、まだチームの誰にも見せたことない奥の手だ」

「私に使ってはもう奥の手ではなくなったぞ」

「まぁ、絶対に負けられない試合で勝てたのだから些細な代償だよ」

「敗けてしまった私は近衛騎士隊をクビかもしれないな」

「お前程の男をクビするような隊なら辞めてしまえ。転職先は心配するな、私が雇ってやる」

「それは有難い話だ」


 

『素晴らしい光景だな。まさに王覧試合に相応しい』


 決死の覚悟で勝負していた者同士が助け合う光景にシュナイデルは称賛と拍手を送り、それに観客も続き万雷の拍手となる。


 

 国の上層部が集まる観客席。

 ここでも皆が拍手を送っていた。ケオネスとヒョードルも、


「二割の方だったな」

「最悪の状況になってしまったが、今のはメガロ・バル・ストロングを誉めるしかない」

「…どこでする?土下座の練習」

「う~ん…大将戦を観てからでも良いのではないか。模擬剣可になったがヨコヅナ君は素手で戦うだろう、もしかしたら引き分けぐらいはあり得るかもしれない」

「本当か~?」





『いや~、観てる側も熱くなるまさに熱戦でした!陛下感想をお願いします!』

『うむ、本当に最初から最後まで目が離せない名勝負だった。そんな中でも余の印象に残ったのは中盤ランス選手が多彩な技で猛攻をしかけている時、劣勢でありながらもメガロ選手は落ち着ているように見えた。今考えればあれは逆転の一撃を狙っていたのだな、あの強烈な下段蹴りを』

『相手の足を折らんとばかりの蹴りでしたね!』

『あれはスモウなのかコフィーリア?』

『違うわお父様、スモウには足払いはあるけど蹴り技は一切ないの。下段蹴りもそして最後の上段蹴りもヨコヅナを倒す為、言うなれば対スモウとしてメガロが身につけた技よ』

『倒す為…スモウチームではあるが二人はライバルということかな?』

『ふふっ、そうね。友でありライバルでもある関係かしら』

『ふむ、身分の垣根を超えた友人か。良いことだな』

『姫様も試合についてお願いします!』

『蹴りについては解説したから一つだけ。実力ではランスが上だった、それでも勝てたのは勝利への執念が上回ったからに他ならない。良くやったわメガロ』



 スモウチーム選手席。

  

 戻ってきたメガロは、

 コフィーリアの大舞台での称賛に、ニヤつきそうになりながらも平静を装い、


「辛勝ではあったが全勝で繋げたぞヨコヅナ」

「良い試合だったべ」

「さすがですメガロ様」

「本当に凄かったですメガロ様」

「正直負けると思ってたんだがな」

「こんな時までひねくれた奴だな。そんなこと思ってたのはお前だけだ、なぁ…?」


 オルレオン以外は自分が勝つと信じていたと思って三人に目を向けるが、つい目を逸らしてしまう三人。いつもヨコヅナに「今日こそ本気で倒させてもらう」などと言ってあっさりやられてるメガロを知っている為、今回も負けやらかしてしまうのではないかと内心思っていたのだ。


「お前等ぁー!」

「まぁまぁ。勝ったべから約束通り姫さんに言われた事を教えるだよ」


 ヨコヅナはメガロに近づき、


「オラが言われたのは「全勝で大将戦に回ってきた場合_____________」だべ」

「…何故そんなことを?」

「姫さんの本来の目的は近衛騎士隊を鍛え直すことなんだべ。だからスモウチームが全勝して近衛騎士が弱さを白日の下で晒す必要があるだよ」

「だから全勝以外認めないと。しかし近衛騎士隊を鍛え直す…?確かに今の近衛騎士隊はお飾り部隊などと言われているが……」


 本来の目的を聞いて違和感を覚えるメガロ。

 だが、


「言った通りメガロが気にするような内容じゃないべ」

「いや、本来の目的を教えてもらえてなかったことがかなりショックだ」


 コフィーリアから目的を教えて貰えてなかったショックで、バカはそんなもの違和感脳裏から消えてしまう。


「その辺の文句は姫さんに言ってくれだべ」

「文句は言わないさ、私の実力は信用するに足らないというだけのことだ」

「姫さんも褒めてたから今日の勝利で少しは信用されたと思うだよ」

「…そうだな、これから信用を勝ち取っていけば良いだけだな」

「そうだべ、重要なのは実績だべ」

「それなら最後をしっかり締めろよ、万が一にもないと思うが負けたら許さんからな」

「大丈夫だべ、近衛騎士最強があの程度なら問題ないだよ」

「ふっ、ヨコヅナも言うようになったな」


 


 スモウチームの4連勝という状況で、


『大将戦の前に皆へ伝えたいことがあるわ』


 コフィーリアはそう切り出した。


『王覧試合が決まった後、正確には今日より10日前。私と近衛チームとの間である契約を交わしたの』

『……あの、姫様。…契約ってなんですか?』

『余も初耳なのだが』


 これは王覧試合の進行で事前に組み込まれてはいない。その為ステイシーもシュナイデルも話について行けない。


『今初めて話すもの。契約内容は私と近衛チームがそれぞれ決めた二つ』


 コフィーリアは二人の言葉に簡単に返しただけで、契約の話を優先する。


『一つは、王覧試合でヨコヅナが敗北した場合、私は今後二度とヨコヅナとは会わない。という契約。そしてもう一つは王覧試合で近衛チームが全敗だった場合、近衛騎士隊を再構成する。という契約よ』


 コフィーリアの話を聞いて会場中がざわつく。

 

『姫様、再構成というのはつまり…』

『今の近衛騎士隊は潰して、作り直すということよ』

『…コフィーリア、そんな契約が有効だと本気で思っているのか?』

『契約書は正式なものよ、サインも本物』

『関係ない。騎士隊は隊長の所有物ではなく、再構成する権利も有していない。つまりその契約書は意味をなさない』


 言ってしまえは近衛チームは他人の所有物を勝手に契約の代償にしたのだ。これ事態も問題行動ではあるが、契約書は何の効力も持たない。


『意味はあるわお父様。近衛騎士隊を再構成する権利、最終的に認可するは誰?』

『それは…余がすることになる』

『それならお父様が認めたらこの契約書は有効ということでしょ』

『いや、だからだな…』

『待ってお父様。答えはヨコヅナの試合を観てからにしましょう?まだ契約は成立していないのだから』

『……ヨコヅナ選手が負けだ場合の契約は余の認可関係なく成立するぞ』

『ええ、分かっているわ。万が一ヨコヅナが負けたら私が間違っていたということだもの』

『…良いだろう、試合を観てから判断しよう』

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