なんでオラ、こんなとこにいるだ？

第379話 バカは予想出来んの

　試合は依然もメガロ劣勢の展開。

　だが、　

（確かに技能は高い、私よりも。しかし戦場で叩き上げられた軍人でも身体能力は常識の範囲内なのだな）

　ランスの身体能力がハイネやヨコヅナのように人族の常識を超えていないことに、僅かながら冷静さを保てているメガロ。

　対してランスは、

（…まだ何か奥の手を持っているな）

　経験から目聡くメガロの落ち着きを読み取っていた。

（考えられるのは…強烈な体当たりか、掴んでの投げ技）

　今までで得られたスモウの情報からランスがそう推測するのは当然のことだった。

　しかしランスは些細ながらも大きな勘違いをしている。

　それはメガロが、ヨコヅナからスモウを習う為に稽古に参加しているのではなく、

ヨコヅナを倒す為にスモウ稽古に参加しているという事だ。

　バシィっ！！

「何っ！？」

『メガロ選手の強烈な下段蹴りがランス選手の右足に決まったぁ！！』

『格闘家顔負けの見事な下段蹴りね』

　スモウ稽古では四股踏み、すり足は皆同様にヨコヅナを真似るが、木打ち柱への張り手、ブチかましは皆が真似るわけではない。レブロットとオルレオンぐらいだ。

　その時メガロはひたすらに下段蹴りを木打ち柱に叩き込んでいる。

　ガクっと膝が落ちたランスに横薙ぎの斬撃を繰り出すメガロ。

　間一髪斬撃を防ぐも大きく体勢を崩すランスに再度下段蹴りを叩き込む。

「ぐぁっ…」

　喰らったランスはまるで酔っているかのようにたどたどしい足取りで後ろに下がり、模擬剣を杖の様にしてなんとか倒れず持ちこたえる。

（何だこの硬い蹴りは！？）

　ランスが硬いと感じるはメガロの鍛錬の成果。

　スモウチームの選手席。

「たった二撃であのざまだべか…技術は高いだが身体は軟いんだべな」

「メガロ様の下段蹴りを喰らって平気なのはヨコヅナぐらいだよ」

「ほんと痛いですよねメガロ様の蹴り」

「師匠を倒す為に鍛え続けた下段蹴り、他の者なら動きを止めるのに二発で十分」

　ヨコヅナの足が硬くて下段蹴りが効かないのであれば、自分の足も鍛えて硬くすればいい。何度ヨコヅナに負けても下段蹴りを鍛え続けたバカの成果だ。

　剣を杖にしなければ立つのもやっとといったランスを見て、

「止めるなら早めに頼むぞ審判」

　仕返しの忠告をするメガロ。

「ぐっ…舐めるなよガキがぁ！」

「決着をつけてやる！」

　両者の仕留める気で剣を振るう。

　会場に序盤の攻防に勝る、剣と剣がぶつかり合う音が響き渡る。

『すごい！スゴイ！凄い！！両者負傷しながらも開始時に勝る剣戟！！姫様が注目の試合と言った意味が分かりましたぁ！！』

『私の予想以上よ』

『誰も予想していなかった熱戦だろう』

　シュナイデルの言葉通り、

　ランスが八割勝つと思ってたヒョードルも、

　模擬剣の許可を申し出た老人達も、

　メガロに期待していなかったのハイネ達も、

　誰にも予想出来ていなかった試合展開。

　それを制したのは、

　激しい剣戟の中、メガロは蹴りを繰り出そうと足を上げる。

（来た！）

　三度も同じ攻撃を喰らう程ランスは愚かではない、寧ろ剣で強く打ち返して足を使えなくする為にあえて隙を見せていた。

　しかし、迎撃しようとしたその蹴りは、跳ね上がる様に軌道を変え、

　ランスの側頭部に叩き込まれる。

　「がはぁっ！……」

　脳へのダメージで視界が揺れるランス。

　それでも叩き上げ軍人の気合で何とが踏み止まろうとするが、下段蹴りを喰らったダメージから尻もちを着いてしまう。

　そこへメガロが剣を上段からの振り下ろす。

　腕を上げることも出来ず覚悟を決めるランス。

「……っ？」

　痛みは無い、

「寸止めでの判定はないというルールだが、まだ続けるか？」

　メガロが剣を顔前で止めたからだ。

「……いや、これ以上騎士として恥の上塗りは出来ない」　

　ランスは肩を落としながらも笑みになり、

「私の負けだ」

　敗北を認めた。

「勝負あり！勝者メガロ選手！！」