第378話 個人の価値観によると思うがの


 ガキンっ!と一際大きい剣撃が響き、鍔競り合いとなる。


「ははははっ!大したものだ、メガロ・バル・ストロング」

「この状況で賛辞を素直に受けるほど、私は愚かではない」

「本音さ、近衛うちのバカガキ共では相手にならないだろう。同じだと言った奴は余程見る目がなかったようだな」

「…ふっ、変わらないさ」


 メガロも身勝手に嫉妬してヨコヅナに勝負を挑んだバカガキ。


「ただ一年早く気づかされただけだ、家の地位がなければ自分は弱い存分だと。そして強くなるには毎日努力する以外にないとな」

「…近衛うちのバカガキ共も早く気づいてほしいものだ」

「心配せずもと今日気づくことになる!」


 メガロは一気に力をいれてランスを押し飛ばす。


「スモウチームが全勝することによってな」


『ランス選手大きく後に押し飛ばされたぁ!若く体格の勝るメガロ選手の方がパワーは上ということでしょうか』


 メガロを応援する観客達も優勢だと思い盛り上がっている。


『違うとは言わないけど、今のはランスが逆らわす後に飛んだのよ』



 一旦距離を取ったランスは、


「確かにバカガキ共でも思い知るだろう。だが1勝4敗でも十分だ」


 今までとはまるで違う構えをとる。


「私は仕事なのでな、この試合はもらうぞ」



『ランス選手の構えが変わりました!』

『軽剣術の構えね』


 体は右前半身、剣を片手で持って胸の高さで先を相手に向けた構え。


『ですがあの模擬剣は軽剣というにはゴツイような…」

『余の知る限り、先ほどの両手持ちでの打ち合いは軍がメインで習う剣術。そして両選手が手にする模擬剣もそれに適したものだ』


  

 適していない剣での剣術、だがそんなものは戦場では関係ない。ランスは予備動作のない動きで間合を詰めメガロの首筋に鋭いの斬撃。

 

「速いっ!?」


 初撃は剣で受け止めるもさらに連続で繰り出されるランスの斬撃をメガロは防ぎきれずその身に受けてしまう。

 だが軽剣術は鋭利な真剣であってこそ殺傷力を持つ、模擬剣では文字通りダメージが軽い。

 メガロは相打ち覚悟で力を込めた斬撃を振り下ろす。

 ランスはその斬撃を完璧に受け流し、大振りで出来た脇腹の隙に鋭い斬撃を叩き込む。


「くっ…」


 顔をゆがませるメガロにランスは容赦なく連続の斬撃を繰り出す。


 

『ランス選手が押しています!手にする模擬剣では不向きな軽剣術でありながらこれはどういう事でしょう姫様?』

『軽剣術が特化している点は速く鋭い斬撃と相手の力を受け流す防御。模擬剣では斬撃の威力は半分以下だけど防御に支障ない。でもそれは軽剣術が優れているという意味ではないわ、優れているのランスの技量』

『ランス選手の軽剣術は付け焼刃などでなくメガロ選手を凌駕する技量だということか』


 観客席では打って変わってランスを応援する近衛騎士達が盛り上がる。

 


(動きに惑わされるな、威力を犠牲にして技に集中しているに過ぎない)


 劣勢になったメガロは落ち着く為に距離を取ろうと大きく後ろに下がる。


 その時、ランスの構えがまた変わっていた。そして姿がぶれたかのような速さでメガロの斜め後ろに移動する。


「少し着地がずれたな」


『あれは瞬歩!?』

『それも斜め移動のね』


「なっ!?がぁっ…」


 驚いて振り返るメガロの頬に肘打ちが直撃、さらにランスは後ろ回し蹴りでメガロ腹を蹴り飛ばす。メガロは後ろによろけながらも何とか踏み止まる。

 しかしまた、ランスの構えが変わっていた。

 左前半身で剣を地面と水平に中段に構えている。異様なのが右手は柄を持っているが左手は刃の部分を持っていた。

 剣術ではなく槍術の構え。強力な突きがメガロの腹部に目掛けて繰り出される。


「ぐぁっ…」


 身を捩り直撃は避けるも脇腹の肉が抉れ血を流すメガロ。

 

『流血です!模擬剣でありながらもメガロ選手の腹を裂くほどの強烈な突き!!ランス選手の戦い方が次々と変わっています!これが叩き上げ軍人の真の実力かぁ!!』

『さすがに手札が豊富ね』

『前線で生き残るには形に拘ってなどいられないということだろうな』




 国の上層部が集まる観客席。


「あれがあの男の本来の戦い方か」

「ランスは言わば万能型軍人でな。複数の剣術に体術や槍術、ここでは使えないが弓術や馬術も並み以上に使いこなせる。さらに圧倒的に勝っている豊富な経験からの先読み」


 序盤の鍔競り合いであっさり後ろに飛べたのも、軽剣術で完璧に受け流せるのも、瞬歩で虚をつけたのも、叩き上げ軍人ゆえの経験からメガロの行動を先読み出来るからだ。


「それらを駆使すれば如何に優秀な若者と言えど勝率は二割程度という事だ」

「なるほどな、文官でも納得の理屈だ」



 メガロが流血したことでランスは審判に忠告する。


「試合を止めるなら早めに頼むぞ、将来有望な軍人を失いたくないだろう」


 審判も分かっている、ランスの技量はメガロより明らかに上。脇腹の傷も浅いとは言えない。次にメガロが大きなダメージを負えばすぐに止めに割り込もうと考えていた。

 

「叩き上げ軍人は口も達者になるのか?」


 ランスの言葉が聞こえていたメガロは、


「今までの攻撃など私には効いていないぞ」


 手の平で力強く腹を叩く。


『おぉっ!メガロ選手「お前の攻撃など効かない」と言わんばかりに自分のお腹を叩いてみせた!』

『ふふっ、痩せてるからいまいちさまにならないわね』




 スモウチーム選手席。


「メガロはまだまだ自慢出来るような腹じゃないべからな」


 腹を叩いての効いてないアピールはメガロのような薄っすら腹筋が浮き上がる腹よりもヨコヅナのような張りのあるポッコリ腹の方がさまになる。

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