第376話 勝っても権利はないと思うがの


「待たせて悪いわねステイシー、はいこれお弁当」

「ありがとうごさいます姫様。闘技大会同様お弁当を用意していたのですね」

「違うわ。これはちゃんこ鍋屋が用意したスモウチームへの差し入れよ。大量にあるっていうから貰ったの」

「スモウチーム用弁当ですか、大きいわけですね」

「彼らならこれ一つぐらいペロリでしょうね。お父様の分もあるのだけどまだかかりそうだから先に食べましょう」


 ステイシーとしては国王陛下をおいて先に食べるのは気が引けるが、試合再開ギリギリまで戻らない可能性もあるのでお弁当をあける。


「おぉ~、美味しそうですね!」

「気合い入ってるわね」

「ひょっとしてちゃんこ鍋屋の新商品ですか?」

「何も聞いてないけど、好評だったら売り出すのかもしれないわね」


 二人はお弁当を食べ、


「美味しいです!発売すればみんな買ってくれますよ!」

「確かに悪くないわ……でも、やっぱり出来たてには一歩劣るわね」


 少し前にアユの塩焼きの出来たてを食べただけについ口に出してしまったコフィーリア。


「いや、出来たてそれと比べては駄目でしょう」

「…そうね、お弁当は全部まとめて一品と見るべきでしょうし」


 お弁当で和んだところてステイシーは肝心の質問をする。


「それで老人達は何の話だったのですか?」


 老人達とは休憩を進言に来たルーサー・ペン・ドラゴ、その他近衛騎士隊と関りがある、違う言い方をすれば後ろ盾のような者達。


「いつも通りよ「わし等の時代は」から始まって、スモウチームの勝利にケチつけられたわ」

「あの圧勝三タテにケチをつけれるですが!?」

「ほんと驚きよ、長い年月人を貶すのに費やしたんでしょうね。老害はその積み重ねで出来るのかしら」


 言い訳でもないがコフィーリアは全ての老人を嫌っているのではない。一部凝り固まった考えをする老人を嫌っているのだ。例えば「国王は男であるべき」とか…。


「百歩ゆずって負け惜しみを言いたくなるのは分かるとしても、ルール変更を要求してきたのは耳を疑ったわ」

「ルール変更?団体戦の途中で!?」

「ええ。ボケがはじまってるのではないかしら」

「はは…、それでどういった変更を?」


 コフィーリアは表情を消して答える。


「模擬剣の使用可よ」





『さぁ!試合再開ケプ…失礼しました。試合再開のお時間となりました!まだ席にお戻りでない方はいませんか?(ふぅ~、ちょっと苦しい)』


 見た瞬間自分には多すぎる弁当と思ったが、美味しくて全部食べてしまったことを後悔するステイシー。


『試合の前にルール変更のご連絡があります。以降の試合は模擬剣の使用が許可されました』


 突然のルール変更に会場がざわつく。

 それも当選だ。王覧試合で団体戦の途中にルール変更などあり得ない。しかもスモウは褌一丁で戦う格闘技なのだから、この変更が近衛チームを有利にするためなのが誰にでも分かる。


『こんなルール変更をお認めになったのはどういった理由なのでしょう陛下?』


 観客全員が聞きたい質問だが、直で聞けるステイシーはかなり肝が据わっている。


『……ゴクン、うむ、余も選手が了承しなければこんな変更は認めていない』


 このルール変更は両チームの了承を得ている。とはいえ近衛チームが拒否するわけないのでスモウチームが応じるかどうか、そしてヨコヅナもメガロも了承したのである。


『メガロ選手は軍属なので分かりますが、ヨコヅナ選手は明らか不利になるのでは?実は剣を使えたりするのですか姫様?』

『剣を使えるかは私も知らないわ、包丁の扱いは上手いけど』

『あぁ、それなら…いや、関係ないのでは…』

『そうね、関係ないわ。大将戦の話は置いといて、今話題にすべきは副将戦でしょ。私も注目の試合よ』

『そうでした!中堅戦に負けず劣らず副将戦も注目のイケメン対決です!』

『注目の意味が違うわよ』


 ステイシーにツッコミながらもコフィーリアの目は鋭い。


(ここが正念場ね)


「コフィーリア……」

「何?お父様」

 

 そんなコフィーリアを気にしながらも、


「モグ……この弁当美味いな」


 シュナイデルはお弁当の感想を伝える。


「そうでしょ、終わったらヨコヅナに伝えてあげて」




 スモウチーム選手席。


「良かったのかヨコヅナ、あのルール変更?」

「朝の手合わせと同じだべ。メガロのほうこそ大丈夫だべか?」

「そもそも私は格闘よりも剣術が得意だ、軍では主にそっちを鍛練している」

「そうだべか」

「…こんなときに聞くのもあれだが、朝のミーティング後、コフィーリア王女と何を話したんだ?」

「メガロが気にするようなことじゃないべ」

「その言われ方は余計気になるんだ。スモウチームであることに不満はないが、近衛騎士隊がヨコヅナを妬み勝負を挑んできた気持ちは私にはよく分かる」

「実際メガロも決闘を申し込んできたべからな。……何を言われたかは試合に勝ったら教えてやるだよ」

「…いいだろう。ここで負けるようなら私にコフィーリア王女の事を知る権利はないからな」




 近衛チーム選手席。


「恥も外聞も捨ててというやつですか」

「近衛騎士隊は訓練の多くを剣術に費やす、三試合は向こうが有利だったんだ。恥に思うことなどない」

「初めからルールに組み込んで入ればそうでしょうね」

「スモウチームが了承し陛下も王女も認めたんだ。誰にも文句は言わせない」

「隊長があの平民ヨコヅナに勝てれば正面切って非難はされないしょう、ですが」

「俺があのブタに勝てないと言いたいのか?」

「私でもあの平民ヨコヅナに勝つのは無理でしょう。正直大将戦では勝ちを捨て時間切れでの引き分けを狙うよう助言するつもりでした、素手で体格差がある格闘家相手ならそれでも許される。ですが模擬剣使用可というこちらに有利なルールになっては引き分けも許されない」

「何を言っている、引き分けのルールに変更はないぞ」

「コフィーリア王女の心証の話ですよ」

「くっ……、余計なこと言ってないでお前はメガロに勝つことだけを考えろ!それで最悪の事態は避けられるんだ!」

「…騎士として、せめてこの試合だけは恥ないものにしますよ」

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