第375話 我が食べ飽きるほどサンドイッチ作っとったからの


『会場の皆様にご連絡致します。これより休憩時間とさせて頂きます』



 スモウチーム選手席。


 三連勝して勢いに乗ってたスモウチームには嬉しいとは言えない休憩だが、


「「「「おぉ~!」」」」


 歓喜の声があがる。


「ウチの料理人達が作ってくれた弁当だべ」


 ヨルダック達がヨコヅナとオルレオンの応援にと腕によりをかけてお弁当を用意してくれたのだ、


「これは美味そうだ」

「ボリュームもありますね」

「その上で彩りも綺麗だな」


 お弁当の中身は、

 ちゃんこ炊き込みご飯、玉子焼き、アユの塩焼き、ポテトサラダ、牛肉とごぼうのしぐれ煮、豚肉のパン粉焼き、照り焼きチキン、ほうれん草の胡麻和え、飾切りした胡瓜や人参などの野菜、漬物。

 が詰め込まれたボリューム満点の大盛弁当だ。


「ヨルダックさん達が作ったなら美味しいことは確定だな」


 レブロットを雑魚呼ばわりしメガロですら呼び捨てタメ口のオルレオンだが、ちゃんこ鍋屋の料理人達にはさん付けで敬語を使う(シィベルトは除く)。地位は関係なく自分の基準で尊敬できると認めればオルレオンは敬意を払う。


「う~…、今すぐ食べたいが私は試合後にしよう。少し体を動かしてくる」


 そう言って席を外すメガロ。


「モグモグ、ゴクンっ…俺達が遠慮なく食べれる様にメガロ様は気をつかってくれたようだな」

「モグモグ、ゴクンっ…あ、なるほど!流石メガロ様」

「メガロがそんなに深く考えてるべかな…?」

「モグモグ、ゴクンっ…あれでも周りを見ておられるんだ……いや、ヨコヅナと出会ってから見れるようになったと言うべきだな」


 ヨコヅナと出会う前の身の丈を知らないバカ貴族の見本のようなメガロなら、こんな気遣いは絶対にしなかっただろう。


「あの副将を倒すなら万全の状況にすべきではあるな。師匠はメガロが勝てると思いますか?」

「…何とも言えないだな」


 見ただけで実力を測れるほどランスの底は浅くない。

 

「モグモグ、ゴクンっ…、話を戻すがヨコヅナ、この弁当めちゃくちゃ美味いな!」

「モグモグ、ゴクンっ…、ほんと美味しいですヨコヅナ殿!いくらでも食べれそうです!」


 既に半分ほど食べてから弁当の感想を言うレブロットとログルス。個人では勝利の祝杯飯でもあるので格別なのは間違いないだろう。


「ははは、ありがとうだべ、伝えてとくだ。大量にあるからお代わりするだか?」

「「もちろん!」」

「お前等メガロが居ても気にせず食べてたんじゃないか…」




 ハイネと使用人が座る観客席。


「うはひの」

「ああ、本当に美味しいなこの弁当」

「ヨルダックさん達が応援の気持ちを込めて全力で作ってくれたものですからね」


 スモウチームはヨコヅナを始め大食漢ばかりとヨルダック達は聞いおり、何よりカルレインも観戦に行って食べない訳がないので大量にお弁当を作ってくれていた。なのでハイネ達もお弁当を貰っている。

 

「特別な食材や調味料を使っているわけではないのだよな」

「ちゃんこ鍋屋の材料を流用しているので平民が買えるモノばかりです。質の良いモノを仕入れてはいますが、美味しい理由は料理人の腕ですよ」

「そうか…、玉子焼き一つにしてもこんなに美味しいのは腕の差か」


 ちゃんこ鍋を作る特訓をして以降ハイネは時々厨房で料理を作るようになった。玉子焼きは何度も作った事があるのだが、自分が作ったのとは別料理と思えるほど美味しい。


「あの人達が言うには美味しい玉子焼きは難しいそうですよ。『ハイ&ロード』から料理指導を受けに来た人達も腕が上がらなくなるほど玉子焼き作らされていましたから」


 以前ニーコ村メンバーで飲み会をしている時にオリアかサラッと言っていた料理指導、だがその内容はサラッと語れない厳しいモノだった。


「モグモグ、ゴクンっ…、わははっ、あの店は一流の料理バカばかりじゃからの」

「おかげで安い給料で働いてくれるのですからありがたい事です」


 ちゃんこ鍋屋の給料は普通の大衆料理屋に比べれば高いが高級料理店には及ばない。ヨルダックを筆頭に高給料より多くのお客に美味しい料理で喜んでもらう事を選んだ一流料理人達が集まっているのだ。

 だが、そんな料理人は極少数なので、


「それゆえ二号店をだす目途がたたないという問題もありますがね」

「ラビスも二号店を考えてはいるんだな、今でも父上からの催促が時々きているんだ」

「このまま問題なく寒い時期になれば去年同様連日満員、予約殺到は目に見えてますから。ちゃんこ鍋屋創設一周年を目途に二号店開店とかも考えてはいましたが並みの料理人を用意して二号店を出したところでパチモンちゃんこ鍋屋にしかなりません。味は落ちても『ちゃんこ鍋屋』の看板だけで利益は上がると思いますが」

「そんなものヨコヅナが許可するわけないな」

「モグモグ、ゴクンっ…、ヨコはちゃんこ鍋に関しては決して譲らんからの」

「ええ。なので二年目の課題は後継料理人の育成、三年目で二号店を出す事が目標ですね」


 料理バカ達とは違い、二年目の課題と目標、そして三年目の事まで考えているラビス。


「今年は到底無理と言う事か。父上に同じように伝えて良いか?」

「構いませんよ。ただし予約は30日先までしか受け付けていませんとも伝えてください」

「モグモグ、ゴクンっ…、ヒョードルが催促しているのは予約殺到で自分の枠がなくなるのを危惧してじゃろうからな」




 国の上層部が集まる観客席。


「ほぉ、これは美味しいそうな弁当だ。悪いな私の分まで」

「お礼はヨコヅナ君に言うといい」


 ハイネを通してお弁当はヒョードルとケオネスにも届いている。


「おや、ヒョードル様ケオネス様はお弁当を用意されていたのですか?」

「豪勢でとても美味しそうなお弁当ですわね」

「どちらでご購入されたのですか?」


 予定外の休憩にもかかわらず二人がお弁当を用意していたのが目立ったようで、近くの貴族達が話しかけてきた。


「これはちゃんこ鍋屋の料理人達がスモウチームへの差し入れに作ってくれたものでな。大量にあるからと回してもらったんだ」

「スモウチームへのお弁当ですか、ボリューム満点なわけですね」

「あの体格とパワーは有するには相応の食事量が必須でしょうな」

「やはり軍人は逞しくなくていけませんものね」

「中堅選手はスピードタイプのようでしたが、あれだけ速く動くにも相当なエネルギーを必要でしょうからな」

「それに比べ近衛チームは、良いのは見てくれだけですな」

「エリート中のエリートが聞いて呆れますわね」

「所詮は老人達が可愛がっているボンボン貴族部隊ということですよ」


 近衛チームへの厳しい発言が出ているのはこの場にその老人達がいないから。その理由は国王陛下にある進言をする為。


「気持ちは分かる、だが」

「戦った者をただ観ていただけの者が卑下にするのは感心せんな」

「そ、それもそうですな」

「…あ、見られていては折角のお弁当を食べ辛いですね」

「失礼いたしますわ、オホホホ」


 二人が気分を害したのかと思い、周りの者達が席を外す。


「モグ、……王女の思惑通りだな」

「モグ、圧倒的勝利で三タテ、しかも一般兵どころか一般人が混じった上でだ。スモウチームが強い事は確かだが近衛チームが弱いのは否定のしようもない」

「モグ、大丈夫なのか?ハイネ嬢の言う通りヨコヅナ君の負けはないとしたら、副将戦が負けたら終わりだぞ」

「モグ、ランスが勝つさ……八割がたな」

「モグ、…それはつまり五回に一回は負けると言うことか?安心できる確率じゃないぞ、それ」

「モグ、私も驚いている、メガロ・バル・ストロングの体つきが一年前とは別人だ。ヨコヅナ君と知り合ってから変わったとは聞いていたが本当の様だな」

「モグ、若者の成長は喜ばしい事なんだがな……最悪を想定して土下座の練習でもしておくか」

「モグ、ふふ、それは副将戦の後でも良いだろ」

「そうだな……、にしても美味しいな弁当」

「ちゃんこ鍋屋の人気料理を小分けにして詰め込んだ弁当の様だからな。このちゃんこ炊き込みご飯はメニューにないが所謂いわゆる賄い料理らしい」


 ヒョードルはちゃんこ炊き込みご飯の存在は知っていたが食べたことはなかった。さすがに店で賄い料理を作ってほしいとは言えなかったのだ。

 なのでこの弁当を貰えたのは予期せぬ行幸。

 だからこそ、


「王女の思惑など気にせず味わいたかったな」

「本当にな」

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