第374話 それしか言えぬわな

 中堅戦、オルレオンVSガフェイン。

 会場は静寂に包まれていた、圧倒的展開に観客が言葉がでないからだ。


「おい審判、これが本当に王族を守護する近衛騎士なのか?」


 顔面が凸凹に腫れたガフェインの胸ぐらを掴んで立たせているオルレオン。

 試合が始まってからまだ30秒と経っていない。

 開始時、四股を踏んで手合いの構えをとるオルレオン、それを見て少し下がったガフェイン。二人の距離はブチかましには遠い…オルレオンでなければ。

 オルレオンはブチかましの最高速を維持したまま距離を潰し、勢いを乗せた張り手をガフェインの顔面に叩き込んだ。

 さらに連続の張り手を何度も喰らわせ、ガフェインが崩れ落ちそうになったところで、冒頭の光景に至る。


『ふふっ、体重が軽い分ブチかましの間合いの広さはヨコヅナ以上、速さみも劣らない。でもその分威力が低いわね』


 笑みを浮かべながら解説するコフィーリアだが、ステイシーとシュナイデルはあまりにもオルレオンの動きが速すぎ且つ一方的な展開に観客同様言葉が出ない。


「…そ、その手を放せ、挑発行為ととるぞ!」


 驚きから立ち直った主審はオルレオンの質問には答えず、胸ぐらを掴むのは挑発行為になると警告する。


「挑発行為?支えてやっているだけだというのに」


 オルレオンが手を放すとガフェインはバタリと仰向けに倒れる。

 最早確認の必要もない。

 

「勝負あり!勝者オルレオン選手!」


『はっ!…折角のイケメン対決なのに、ろくに実況できずに勝負が決まってしまいました!!』


 開始前は『クール系イケメンオルレオンVSワイルド系イケメンガフェインの注目の試合です!!』と張り切っていたステイシー。


『中堅戦勝者はスモウチーム、オルレオン選手です!!』

『…あの選手はちゃんこ鍋屋に勤める前、何をしていたのだ?』

『以前も一応格闘家になるかしら、ヨコヅナに試合で負けて弟子入りするまではほとんど我流だったそうだけど』

『試合に負けて…なるほど』


 ヨコヅナが裏闘で活躍していることぐらいは知っているシュナイデル、王覧試合の実況席で口に出せずともコフィーリアの言葉から真意は伝わる。


『これでスモウチームが三勝……あれ、三勝ということは…』

『通常の団体戦であればスモウチームの勝利が確定してしまったな』

『私は五戦全勝以外スモウチームの勝ちとは認めない心意気よ』




 スモウチーム選手席


「よくやっただオルレオン」

「褒められるに値しない相手でしたよ」


 勝利したのに何でもないような顔で席に座るオルレオン。


「だがこれでチームとしても俺達の勝ちだ」

「重要な試合に勝ったんだ素直に喜べよ」


 レブロットとログルスがそう言うと、


「お前等雑魚と一緒にするな、あんな連中勝って当然なんだよ」

「あぁん!誰が雑魚だこら!」

「朝の手合わせは自分達の方が勝ち越してるだろうが」


 朝のスモウ稽古はヨコヅナとの手合わせが終わったら皆解散というわけではない。ヨコヅナは帰るが時間がある者同士で手合わせする事は少なくない。

 だからオルレオンもレブロットやログルスと何度も手合わせしているのだが、今のところ勝率はレブロットとログルスの方が高い。

 足の裏以外が地に着いたら負けというルール上、身体が大きいパワー系の者の方が有利なのだ。

 だが逆に裏闘で試合をすればオルレオンの勝率は8割以上となるだろう。だからオルレオンは二人を下に見ている。


「王女様は全勝以外認めないと言っている。チームとしての勝利を喜ぶのは五戦全部終わってからだな」

「その通りだメガロ。そして残る問題はお前が副将戦に勝てるかどうかだけだ」

「まるでヨコヅナの勝ちは決まっているかのような言い方だな」

「師匠があんな連中に負けるようなら俺達はスモウチームにいないだろ」

「フっ、そうだな。まぁ、他の勝敗関係なく私は勝利しか考えないがな」


 メガロが戦う理由はコフィーリアに良いところを見せたいから、その為には必ず勝つしかないのだ。



 近衛チーム選手席。


「バカな!?…こんなことが…」

「何を伝えても意味がないほど格が違ったな」


 試合前にランスは収集したオルレオンの情報、

・裏格闘試合の選手

・魔力強化を使える

・スピード特化した戦闘スタイル

・ヨコヅナに試合で負けてに弟子入りした

 などなど全てガフェインに教えていた。

 最後に「一般人とは思わず格闘戦を得意とする上位軍人との試合だと考えて臨め」と助言して送り出したが結果は惨敗。


「…スモウチームは最強を中堅においたのか」

「向こうの最強は間違いなくあの平民ヨコヅナ

「ガフェインに圧勝したのを観て言っているわけじゃない、闘技台で並んで向かい合った時あの男から一番強者の気配がした。だからランスも詳しく情報をガフェインに教えたのだろ」

「ええ、その通りです。あのオルレオンという男は天賦の才を持つ格闘家」

「そうだ、あれは天才のそれだ!だから…」

「負け無しだった天才もどきが、あの平民ヨコヅナに圧倒的な力を見せつけられたから弟子入りしたのですよ」

「……副将戦必ず勝てよランス」

「言われるまでも無く、それしかありませんから」


 中堅戦までの三試合が惨敗、大将戦も勝てるとは思えない。引き分けでもコフィーリアとの契約を無効に出来るが、近衛騎士隊の名誉の為にもランスは必ず勝つしかないのだ。



『圧倒的な強さで三タテしたスモウチーム!ですがご安心ください、ちゃんと残りの副将戦と大将戦も行いますよ!その前に中堅戦の感想をお願いします陛下』

『うむ。オルレオン選手については驚きの一言だな。体つきからして一般人とは思えなかったが、あれほどの速さは魔力強化を使える上位軍人の中でも数える程しかいないだろう。ガフェイン選手については……この敗北を糧に次を頑張りたまえ』


 さすがのシュナイデルも今回は両者に花を持たせるコメントは出来なかった。


『姫様はいかがでしたか?』

『感想はお父様の言う通りね、加えるならガフェインだけでなくトリスもシヴァルも今後より精進しなさい。細かい解説をしておくと開始直後オルレオンが手合いの構えをとるのを見て少し下がったガフェイン、先鋒のレブロットのブチかましを見ての対策でしょうけど、使い手が違えば技の質も変わる。距離をとれば破れると安易に考えたのが敗因の一つと言えるわ。まぁ、そんな敗因がなくても地力の差からしてオルレオンの勝ちは変わらないでしょ……』


 解説を最後まで言い終わらずにコフィーリアは言葉を止める。

 ある人物が実況席に近づいてくるのに気づいたからだ。

 

「少し宜しいですかな?シュナイデル陛下、コフィーリア殿下」

「…どうされましたかなドラゴ卿、わざわさ実況席まで来るとは何か重大は要件がおありで?」


 その人物の名はルーサー・ペン・ドラゴ。近衛騎士隊隊長アーサーの祖父だ。


「いえいえ、ここまでの試合どれも驚きの展開ばかり、年寄りには堪えるものでして。それに格闘観戦に慣れていない女性にも刺激が強いでしょう、ここで一つ休憩を挟んではと進言に来たしだいですよ」

「…ふむ、確かに刺激的な試合ばかりだからな、それにここまで予定の3倍は早い進行ぐあいだ。一息いれるのも良いだろう、コフィーリアはどうだ?」

「私も賛成よ」


 笑顔で答えるコフィーリア。

 だが、決して目は笑っていない。


(やはり動いてきたわね、老害が)

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