第359話 正しい選択が誇れる行動とは限らんからの
「おいおい、なんだよあのバケモン!?」
「あれは…噂のホブゴブリンか…?」
「ほ、本当にいたんだ…でも、あんなにデカいなんて!?」
通常のゴブリンは身長100が平均、そして150を超えている個体をホブゴブリと分類している、と『冒険訓練』では習う。
しかし、
「ヨコヅナさんはボージーより明らか身長高いよな」
「うん、僕は180あるからヨコヅナさんは190以上あると思う…だけど」
「あのホブゴブリン、ヨコヅナさんよりデケぇぞ」
遺跡から出てきた魔モノの体格がヨコヅナに優っているとこは遠目でも分かる、ホブゴブリンにしても異常なサイズだ。
「あんなゴブリン…まさか!?ゴブリンキング!」
「ゴブリンキング…?国を落としたっていうあの!?」
「伝説の魔モノじゃねぇか!?そんなバケモンが突然現れるわけ…」
「だがゴブリンキングが率いるならこの森のゴブリンが罠や連携を使うのも納得できる。…そしてラビスさんが不可解と言っていたボスが逃げていない理由」
ラビスは三つの理由を言っていた。この状況で正しいと思えるのは、
「どんな冒険者でも『返り討ちに出来る自信がある』からゴブリンキングは逃げなかったんだ」
「ゴブリンキング討伐の推奨戦力って…」
「討伐データが少なくて明確な基準はないが、ゴブリンキングが出現したら上級を含めて数十人の討伐隊を編成する事になるはずだ。中級冒険者三人で討伐出来る魔モノじゃない」
「そんな……逃げた方がいいじゃねぇか…」
「そ、そうだよ、『冒険訓練』でも危険な魔モノを発見した場合は無理せず情報を持ち帰れって」
今にも後ろに走り出しそうなガンタとボージー。
「それは助けてくれたヨコヅナさん達を見捨ててか?」
「い、いや…」
「そ、そういうわけじゃ…」
「オレはヨコヅナさん達の元へ行く、二人は好きにしろ(ここで逃げるようなら二人とはパーティー解散だな)」
「ま、待てよ!俺も行く」
「ぼ、僕も行くよ」
三人は茂みを出てヨコヅナ達の元へと走る。
「トロールじゃな」
遺跡から出てきた巨大な魔モノはトロール。
「デカいゴブリンじゃないんだべか」
「祖は同じという説もあるから上位種と言えなくはないがの」
トロールはゴブリンと同じ緑色の肌をしており、サイズは桁違いに大きく筋力も比例して強い。ゴブリンが成長してトロールになることは無いが、能力の高い近種族とみれば上位種と言える。
「この森にトロールが生息しているという情報はありませんので、はぐれのトロールでしょう」
ラビスが調べた限りではトワーツ森林にトロールの情報はなかった。もし生息していれば新人冒険者の狩場とはなり得ないので、移住してきたトロールと断定できる。
「グルァァアア!!」
「ゴブリンを投げつけられて怒ってるみたいだべな」
唸り声を上げるトロールの前に出て対峙するヨコヅナ。
「ヨコヅナ様、一人で戦うおつもりですか?」
「オラ一人だと負けると思うだが?」
トロールはヨコヅナよりも大きく、防具は着けていないが刺々しいスパイクメイスを手にしている。
「トロールは手強い魔モノですがヨコヅナ様が負けるとは思いません」
そう言いつつもラビスはヨコヅナの隣に立つ。
「ですがアレが
「…あぁ、ナインドでもそんな事言われただな」
「ここはパーティーらしく連携してを討伐するかの」
カルレインもまた隣に並び立つ。
「ガラァァアア!」
メイスを振りかぶって三人に襲い掛かって来るトロール。
「一番手は私が」
ラビスはナイフをトロールの頭部へ投げる。対して顔を守るように腕に上げるトロール、だがナイフが前腕部に刺さった時には既にラビスは動いていた。トロールが自らの腕で視界を遮った隙をつき疾動で一気に間合を詰めメイスを振り上げた腕の肩を斬り裂く。
「さすがに両断といきませんね。ですが肩の筋肉を深く傷つけられば…」
メイスを手放し腕をダランと下げるトロール。
「次はオラだべ」
既に間合に入り手合の構えを取るヨコヅナ。力、速、距離、最全力のブチかましをトロールの胸部に叩き込む。
トロールは吹き飛び遺跡の壁に叩きつけられ破壊音が轟く。
「ラストは我じゃな。二人は離れるのじゃ」
ラビスとヨコヅナが攻撃をしている間に作り出した空に浮かぶ十本の光の剣が、二人が離れると同時に降り注きトロールを串刺しにする。
「…さすがのトロールでもあれでは終わりですね」
トロールの一番注意しなければいけない点は体格や怪力ではなく再生能力、ラビスが負わした傷程度では数分で治ってしまう。だが光の剣はトロールの頭部も胸部も貫いており絶命しているのは明らかだ。
「我が貫くまでも無く死んでおった気もするがの」
トロールの胸部は大きく陥没しておりそれはヨコヅナのブチかましによるものだ。
「殺す気で放つヨコヅナ様のブチかましは、まさに必殺技ということですか」
「ヴィーヴルを頭突きで倒せるのじゃから今さら驚く事でもないがの」
「それもそうですね」
驚きを通り越して、呆れも通り越して、納得してしまうラビス。
と、そこへ、
「ぜぇ、はぁ…あ、あの」
走って来たキリトが息を切らして声をかける。後ろには同じく息を切らしたガンタとボージーもいる。
「慌ててどうしました?」
「そっちにゴブリンが出たのか?」
「…いえ、あの……、そこに倒れている魔モノは…」
「トロールじゃ、もう倒したがの」
「あ…トロール、ですか」
「…ゴブリンキングじゃねぇのか」
「…ト、トロールなら教わった外見と一致するね」
ゴブリンキングだと勘違いして走って来た三人は、トロールだったうえ既に倒してる状況に安堵と拍子抜けが9:1の心情だった。
「我らが危ないと思って駆け付けたわけかの」
「その場合冷静に戦いを見届けて行動すべきですがね」
キリトの行動は勇敢と言えなくもないが足手まといになる可能性もある。確かな情報を得てからであれば、ヨコヅナ達を見捨てて逃げるのも正しい選択と言える。
「…す、すみません」
「何も問題なかったのじゃから構わん」
「今後に活かしてください」
「それでこのトロールがゴブリン共のボスだったんすか?」
ガンタの問にカルレインとラビスは直ぐに答えることが出来なかった。
トロールがゴブリンを従える事例は存在するが、罠を仕掛けたり連携を仕込むなどと言った話は聞いたことがない。
「知能が高い特殊なトロールという可能性はありますが…」
「そうは思えんかったがの」
三人がかりでほぼ瞬殺だった為断定しづらいが、知能が高いトロールには思えなかった。
「ヨコヅナ様はどう思いますか?」
話合いに加わらずトロールを見ていたヨコヅナ。その様子にまだトロールが生きているのかと皆の視線がトロールに集まるが動く気配はない。
「中に何か居ただ」
ヨコヅナが見ていたのはトロールではなかった、正確な視線の先は吹っ飛ばして出来た遺跡の壁の穴。
ヨコヅナにだけは見えていた、そこに何かがいたことを。
ヨコヅナは遺跡の壁に近づき諸手突きで吹き飛ばし穴を広げ中に入る。
そこは簡素な小部屋、周りを見渡すと、
「ゴブリンだべか…」
怯えたように隅で縮こまる通常と比べても小柄なゴブリン。
だがしかし、
「っ!?」
そのゴブリンは背に隠したボーガンをヨコヅナに向け矢を放ってきた。ギリギリで身を捩り頬を掠りながらも矢をかわすヨコヅナ。
「お前がボスだべな」
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