第358話 本音は先に言った方じゃぞ
森の中心部に着いたヨコヅナ達六名。
「あれが遺跡だべか……オラには古びた屋敷にしか見えないだな」
「我にも古びた屋敷にしか見えん、あれは遺跡ではなく廃屋じゃろ」
「遺跡の方が響きが良いからそう呼んでいるのでしょうね」
少し離れた茂みから見る目的地の遺跡は期待ハズレ感が凄かった。
「…ですが、ゴブリンの
キリトの言う通り遺跡の周りには警護する為に配置されてると思しきゴブリン。
「視認できるゴブリンは建物の前に8匹、バルコニーに2匹…バルコニーに居るゴブリンは弓矢を持ってますね。あと狼が1匹…番犬代わりでしょうか」
遺跡の前には一匹の狼の姿があった。
「不可解ですね」
「…狼がいることがそんなに変なのですか?」
さっきラビスに無駄口を叩くな的な事を言われたが、今は後処理中ではないので勇気を出して質問したキリト。
「狼は関係ありません、ゴブリンが逃げてないことがです。ゴブリンにとってあの遺跡は雨風を凌げる寝床に過ぎないはずですから」
遺跡に近づくほどゴブリンの襲撃が増えた理由の一つとして、逃げる為に時間稼ぎだと思っていたラビス。
「こっちに気づいてないだけじゃないっすか?所詮ゴブリンなんですし」
「所詮ゴブリンの罠にハマってボコボコになっていたのは誰ですか」
「あ、はい、俺っス」
キリトの質問に普通に返したのを見て自分もと口を出したガンタだが、またもラビスから冷たい言葉を受けてボージーの後ろに引っ込む。
「この森のゴブリン…少なくとも率いているボスが私達に気づいていないということはまずないでしょう。その上で逃げない理由は『逃げれない理由がある』『返り討ちに出来る自信がある』『遺跡に侵入することが罠』の3つですかね」
3つと言っているが細分化すると数多くの理由がラビスの頭にはある。
「おい、ボージーもなんか聞けよ」
「え、僕も!?…えと…その、『逃げれない理由』というのはボスが怪我してるとかですか?」
ガンタにせかされ、そうであったら良いなという臆病だからこその質問をするボージー。
「その可能性もあります。が、可能性として一番高いのは『遺跡に侵入することが罠』ですね」
「罠の可能性が高いんですか!?だったら行かない方が…」
「そのような意見をあなた方には求めてはいません」
「ひっ!すすみません」
ボージーもまた冷たい言葉を受けキリトの後ろに引っ込む。
質問には答えたが新人三人にどう思われようと、ラビスはどうでも良い。
「どうしますか?ヨコヅナ様、カル様」
「オラ達はゴブリン討伐に来たんだべ。ゴブリンの
「危険と謎が増えたなら、楽しみが増えたと思うのが冒険者じゃろ」
考え方は違うが遺跡に攻め込むという二人の意見は一致しておりラビスの予想通りであった。
「今までと違い相手の砦に攻め込む形になります、作戦を考えますか」
「オラが一番前に出るのは同じとして、矢が飛んでくるのは困るだな」
「弓兵は我が仕留めるとしよう、ゴブリンが弓を使いこなせるかは疑問じゃがな」
「私は増援を警戒しつつ討伐…ただの正面突破ですね」
作戦は改めて役割分担を決めての正面突破。
「三人はこのまま隠れててくれだべ」
「待ってください、自分も戦わせてください。二人と違って自分はまだ戦えます!(このまま雑用だけで終わるわけにはいかない)」
自分も参戦したいと訴えるキリトに、
「ならパーティーの二人を守ってやってくれだべ」
「我らが来た背後からゴブリンが現れる可能性も零ではないからの」
「足手まといは固まっていてください」
「……はい、わかりまりた(くそぉー!、足手まといはトリオじゃなくコンビだと訂正したいのに!)」
「もしそっちからゴブリンが現れたらこっちに逃げて来てくれだべ」
ヨコヅナはカルレインを肩に乗せたまま走り出しラビスも後に続く。
茂みから出た瞬間狼が吠え、ゴブリン達がヨコヅナ達に気づいて身構える。
バルコニーにいるゴブリンも弓矢を射ってくる。
「…やはり弓兵と呼べるレベルではないの」
ゴブリンが放った矢は山なりの軌道で飛距離も足りていない。
「…新人が見ておるし趣向を凝らしてみるかの」
カルレインはヨコヅナの肩に乗ったまま光の弓と光の矢を二本作り出す。そして弦を引き二本同時に射る。放たれた光の矢はバルコニーのゴブリン2匹を貫く。
後方から新人三人の「おぉ~凄い!」と驚嘆の声が聞こえる。
「わはは、我は天才じゃからの」
「今の弓矢は剣を飛ばすのと違いあるんだべか?」
「弓の分無駄なエネルギーを使うのと動作の分無駄な時間を使うという違いがあるの」
「…つまり無駄ってことだべか」
敵を倒す目的としては光魔法で矢を弓で射るのは無駄しかない。
「ヨコが裏闘で盛り上げる戦い方をするとの同じじゃよ。それに我に対して『無限胃袋』などという不名誉な異名が囁かれておるらしいから払拭せねばならぬしの」
「あ、新人の世話云々言ってただがそっちが本音だべな」
「異名は自分では決めれんそうじゃからな」
冒険者の異名は基本周りが勝手に呼ぶようになって定着する。なので悪口ともとれる異名が広まる場合もある。自分で考えた異名を名乗ってはいけないという決まりはないがカッコつけのバカと思われることが多い。
「そんなことよりあの狼…ひと吠えして何処かへ行きよったの」
「何かの合図だべかな」
「かもしれん、気を付けるのじゃぞ」
カルレインは肩から飛び降り、
「分かってるだよ」
ヨコヅナは向かってくるゴブリン達を蹴散らしていく。
「……何かいるだな」
ゴブリンを蹴散らしながらヨコヅナは遺跡から異質な気配を感じ取る。初めから感じなかったのは狼の遠吠えが合図だったからと考えれるが、
「出てこないのは何でだべかな?」
今ヨコヅナはゴブリンを叩き潰している状況にも関わらず遺跡からは何も出てこない。
「ラビスの言う通り遺跡に入る事自体は罠ってことだべかな、入り口を開けた瞬間襲ってくるとか……試してみるべ」
ヨコヅナは襲い掛かって来る最後のゴブリンの腕を両手で掴み、回転して遠心力を付けて遺跡正面入口の扉に向けて全力でゴブリンを放り投げた。
豪速球ならぬ豪速ゴブリンは破壊音と共に遺跡の扉を突き破り、
「ちょっと強く投げ過ぎたべかな…」
さらに奥まで飛んでいった。
入口前に罠があったとしてもこれでは分からない。だがヨコヅナの考えとは少し違うがゴブリンを投げ込んだ意味はあった。
「ガルルゥゥァァアアっ!!!」
遺跡の中から響き渡る咆哮。
そして投げ込んだゴブリンが戻って来た、豪速ゴブリンとして。
「っ!?」
ヨコヅナは手甲で打ち払う、バラバラに弾け飛ぶ豪速ゴブリン。
「ガァァアア!!」
「あれがゴブリン達のボスだべか…?」
遺跡から巨大な魔モノが姿を現した。
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