第357話 剣の形にしているのはカッコいいからじゃ。
遺跡を目指して森を進むヨコヅナ達六名。
「また来ます、右から4匹…いえ6匹」
進むにつれゴブリンの遭遇率も一組の数も増え、
「一回りぐらいデカいだな」
「防具着とるのもおるの」
ゴブリン1匹の質も高くなっていた。
「
「可能性は高いですが…」
「…ちょっとあからさまな気もするがの」
とはいえヨコヅナ、ラビス、カルレインに危機感はない。
所詮ゴブリン、
“ドゴンっ、グシャっ、ガツンっ” “パチンっ、グサ” “ザシュっ”
と瞬殺に変わりはない。
「二人は疲れてないだか?」
「疲れてはおらん。少し腹が減ってきたが馬車で食っておいたからまだ大丈夫じゃ」
「私も大丈夫です。ヨコヅナ様の方こそ少し頑張り過ぎでは?」
討伐したゴブリンの数は既に50を超えており、その内7割はヨコヅナが倒した。ゴブリンが弱いとはいえ疲労は積み重なる。
「大丈夫だべ。オラはゴブリンを倒してるだけだべからな」
ラビスは斥候として索敵と罠の警戒をしながら討伐、カルは新人三人を護りながら後衛として討伐。そしてヨコヅナは前衛として一番多くゴブリンを討伐。役割分担としてのバランスは取れている。
「それにオラとしてもちょっとやり甲斐が出てきただよ」
「やり甲斐ですか…?」
ラビスは小説の為でありカルレインは冒険者っぽいことを楽しむ為という目的があるが、ヨコヅナは付き合いで同行しているだけに近かった。
だが、これだけの数となると鍛練的な意味が出来てきた。
「何て言うべか…、普段の稽古と違いって心身が研ぎ澄まされるって感じだべかな」
その言葉を証明するかのように、
「危ない!まだゴブリンが…」“ガシっ”(あ、あれ?)
キリトの声が飛んできたがそんなものは関係なく、隠れて討伐後の油断を狙うように跳びかかってきたゴブリンの頭をヨコヅナは易々と鷲掴みする。そして、
“ブグシャっ!”
そのまま握り潰した。
「今後は試合前に冒険するのも有りかもしれないだな」
「…言いたいことは分からなくもないですが、試合で対戦相手の頭を潰さないでくださいね」
「人間の頭はゴブリンみたいに潰れないだよ」
「まるで人間の頭を潰した事があるような言い方ですね」
「イケメンの顔面なら何度も潰しておるからの」
「そうでしたね。……もう隠れているゴブリンは居いようですから後処理お願いします」
「「「は、はい!」」」
ラビスの指示に急いで耳の切り取り作業に動くキリト、ガンタ、ボージー。だが耳を切る前に示し合わせたわけでもないのに三人共ゴブリンの頭を掴んで力を入れてみる。
「…なぁおい、ゴブリンの頭ってどうやったら握り潰せんだ?」
「それは…握力鍛えるしかないだろ」
「やっぱりあれってゴブリンの頭が軟いんじゃなくて握力が強すぎるってことだよね」
小声で話し合う三人。
ヨコヅナが軽々ゴブリンの頭を潰すものだから「あれ、ゴブリンの頭ってそんなに軟いの?」と錯覚してしまったが、当然全力で握っても潰れたりはしない。
「ヨコヅナさん中級冒険者って言ってたよな。現役の中級ってあんなにスゲェのか?」
「僕何年頑張ってもヨコヅナさんみたいな前衛になれる気しないんだけど…」
「いやヨコヅナさんが中級の前衛職の標準って事は無いと思うぞ(……せっかくだから聞いてみるか)あの~ヨコヅナさん、一つ聞いても良いですか?」
「良いだよ」
「ヨコヅナさんは中級冒険者の前衛としてはどれぐらい強いんですか?」
「前衛としてどれぐらい強いか、だべか……」
ヨコヅナの知る冒険者で前衛と言えばザンゲフだが、ザンゲフが中級としてどれぐらい強いかは知らない。それに格闘戦で勝っても冒険者として上とはならないとも聞いたので、どう答えれば良いか分からないヨコヅナ。
それを察して、
「ヨコヅナ様はバジリスクを単独で討伐しています」
ラビスがフォローする。
「「「バジリスクを単独討伐!?」」」
予想以上の実績にハモって驚く新人三人。
「バジリスクを一人で倒すとか並の中級には無理だよな?」
「『冒険訓練』で習っただろ、バジリスク討伐は中級三人以上が推奨されている」
「それじゃヨコヅナさんは中級三人分強いってこと?」
「単純に考えればな。間違いなく中級の前衛でトップクラスの実力者だろう」
単純に考え過ぎではあるが間違がってもいない。
「あとよ、カルさんが光の剣を飛ばしてるけど…なんだあれ?」
「魔法…以外に考えられないが…」
「光魔法ってこと?でも光魔法はレア属性だけど殺傷力はないって習ったよね」
「戦闘では目眩ましぐらいにしか…」
「「「あっ!」」」
「現れた時の目眩まし使ってたな」
「じゃやっぱり光魔法なんだ」
「形が関係しているのか…?(聞いてみるか、これは秘密にされるかもしれないが)あの~カルさん、一つ聞いても良いですか?」
「何じゃ?」
「カルさんは光魔法が使えるのですか?」
「そうじゃ」
「光魔法は殺傷力がないと聞いたことあるんですが」
「それは使い手の技量次第じゃな」
「技量…光を剣の形にすることがですか?」
「形よりも重要なのは密度じゃ、やって見せた方が分かりやすいの」
カルレインはキリトを指差し光線を放つ。
「え!?…あれ?」
腕に光線を当てられ一瞬ビビったキリトだか、
「どうじゃ?」
「ちょっと温いです」
光線が当たっている箇所が温いだけだ。
「うむ、これでは確かに殺傷力はない。じゃが密度を上げていくと…」
「あ、だんだん熱く…熱っ!」
耐えきれなくなって光線から腕を外すキリト。
「といった感じで密度を上げれは殺傷力を持たせることが出来るのじゃ」
カルレインの説明に「おぉ~」となる三人。三人だけでなく、
「へぇ~、そんな感じなんだべか」
「カル様の魔法にも理屈があったのですね」
ヨコヅナとラビスも知らなかった事実に驚いていた。
「光魔法に殺傷力がないと言われているのは、使い手が密度を上げる努力を怠っていたわけですか」
「努力より才能の差じゃよ」
魔法は才能が99%。光魔法の素質があっても操る技量もまた才能次第。
「我は天才じゃからの」
カルレインの常套句に、
「天才だってよ、凄ぇな」
「うん、凄いね」
「ああ、凄いな。後衛としてカルさんも間違いなく中級トップクラスの実力者だろう」
素直に驚嘆する新人三人、カルレインは下級なので評価は間違っているが。
「…僕思うだけどラビスさんも凄くない?ヨコヅナさんやカルさんみたい派手じゃないけど…」
「分かってる、索敵や罠の看破が的確だ。斥候がラビスさんの職業だろう」
「え、剣士じゃねぇのか、ゴブリンをズバズバ斬ってんじゃん」
「剣士としても通用する実力の斥候ということだ。それだけでなく情報収集も得意としてそうだ(一人遺跡のこと知ってたしな)」
「…でもなんで仲間の二人を様付けで呼んでるんだろ?」
「二人が実は貴族様だったりしてな」
「…それはどうだろうな(カルさんはそんな雰囲気もあるけど、ヨコヅナさんは田舎者感がある……聞いてみるかな)あの~…」
「喋るなとまでは言いませんが、口より手を動かしてください」
ラビスの冷たい言葉に、
「「「は、はい!すみません!」」」
そこからは三人無言で後処理に従事した。
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