第356話 良き風習は繋がねばの


「助けて頂きありがとうございます!」

「あ、ありがとうございます」

「あざっす!」


 絶体絶命の危機から助けてもらった礼を言うキリト、ボージー、ガンタ。


「困ったときはお互い様だべ」


 ニコニコ笑顔で答えるヨコヅナを見て(この人さっきゴブリンを素手て潰してたのと同じ人?)と思う三人。誰でもそう思うだろうから無理はない。


「怪我は治療できたようで良かったべ。ポーションって凄いだな」


 ボージーとガンタの怪我は命の危険はないにしても重症だったが、今はポーションのお陰でほぼ完治している。


「よくポーションを一人一本備えていましたね、戦いぶりを見るに新人冒険者と思ったのですが」


 ポーションは高価であり新人冒険者ではパーティーで一本備えているかどうかだとラビスは認識していた。


「はい、先日下級に昇格した新人です。ポーションは生活費を切り詰めてでも一人一本は備えておけと常々言われましたので」

「まぁ、俺らは実家暮らしなんで切り詰めるってほどでもないんすけどね」

「…実家暮らしで冒険とは、ぬるい考えをしておるの」

「そ、そうなのかな?」

「周りの冒険者もそんな感じだよな」

「一人暮らしはナインドに行ってからとみんな考えてますので」


 この三人だけでなく王都の冒険者には実家暮らしが多くいる。


「価値観は地域それぞれですからね。今はこのゴブリン討伐についての情報交換を行いましょう」


 両パーティーが森に入ってからの出来事を話す。



「逃げるゴブリンを追いかけたら、罠のあるここに誘い込まれたのですか…」

「…それだとあのゴブリンは使えないだな」


 1匹だけ殺さず捕まえたゴブリン。逃がしてねぐらまで案内させるつもりだったが、他へ誘導される可能性があるなら使えない。


「歩き回ってねぐらを探すしかないかの」

「歩いてるのはオラだべがな」


 二人の言葉に違和感を覚えるキリト。


「森の中心部の遺跡には行かれないのですか?(ずっと肩に乗せて移動してるのかも気になるけど…)」

「ん、この森に遺跡があるのか?」

「ええ、ゴブリンがねぐらにしている可能性が高いのでトワーツ森林に来た冒険者はまず遺跡を目指します」

「ラビスは知ってただか?」

「そういう話は聞いていますので森の中心部には行く予定でした。まぁ、既に調べつくされていて遺跡自体には探索価値はないそうですが」

「なんじゃつまらんの」

「それでもねぐらかもしれないなら行ってみるべ」

「…あの、お三方は王都の冒険者ではないのですか?」


 キリトが覚えた違和感は王都の冒険者では誰でも知っている情報を知らない点だ。


「いや、王都の冒険者だべ。前はナインドで活動してたから王都で依頼を請けるのは初めてだべが」

「ナインドで……なるほど(これだけ実力があり目立つパーティーの噂を聞いたことないのは王都に来たばかりだからか)」


 微妙に的の外れた推測をするキリト。だが、外れているのは些細な部分で、重要なのは実力があるパーティーという部分。


「宜しければ一緒に行動させて頂けませんか?」


 キリトの提案に、


「三人は帰った方がいいと思うだよ、怪我が治っても体力が回復したわけじゃないんだべ」

「メリットがありません、寧ろ足手まといですね」


 即否定の答えを返す。ラビスの言葉は辛辣だが事実しか言っていない。


「そこを何とか、足手まといにならないよう頑張りますので」

「…後ろの二人は帰りたそうに見えるべ」

 

 その言葉にキリトが振り返ると、


「あ~、正直俺これ以上戦うのは…」

「ぼ、僕もつらい…」

「(こいつ等ぁ!)分かってるのか?まだ3匹しか討伐してないんだぞ。絶対にゴブリンから逃げ帰ってきたのだと笑い者にされる、それでいいのか?」


 キリトの言葉に下を向くガンタとボージー。傷は癒えても痛みの記憶は消えない、さらに大事なポーションを使ってしまっては新人が尻ごみするのも無理はない。


「ふむ…。ヨコ、ラビス、提案じゃが雑用として連れて行くのはどうじゃ?数が多いと耳を切り取るのも手間じゃろ」


 意外なことにカルレインが連れて行くことを提案する。


「後処理をさせるということだべか…」

「我としては時間を短縮して、ここのゴブリンの特異性を探求する方を優先したい」

「…確かに小説のネタとしても原因を突き止めたいところですね。ヨコヅナ様はどうですか?」

「二人がそうしたいならオラもそれでいいだよ」

「よし。おぬしら三人、雑用をするなら一緒に来てもよいぞ。討伐は我らでやるので戦う必要はほぼないはずじゃ」

「はい、雑用係で構いません!」


 キリトがここまで一緒に行動したがるのは冒険者にとって人脈は大事だと『冒険訓練』で教わっているから、特に「ベテランの実力者パーティーとの人脈は金を払ってでも繋げ」とまで言われる。


「お前らも戦わなくて済むなら良いよな」

「それなら俺も…」

「う、うん僕も…」

「では決まりじゃな。さっそく耳の切り取りを…、の前に自己紹介かの」

「あ、まだ名乗ってなかっただな」


 一緒に行くことが決まったので改めて自己紹介をする。


「自分はキリトと申します、下級冒険者です」

「俺はガンタっす、同じく下級っす」

「僕はボージー、下級です」

「オラはヨコヅナ、中級冒険者だべ」

「我はカルレイン、カルと呼んで良いぞ」

「私はラビスです、ヨコヅナ様の補佐をしております」




 キリト達が三人がさきの戦闘で倒したゴブリンの耳を切り取っている最中、


「カル様、お気づきだとは思いますが後処理の手数を増やしても、一緒に行動してはそこまで時間短縮にはなりませんよ。他に何か狙いがあるのですか?」

「狙いなどない。ただ新人に経験を積ませてやるのも先輩冒険者の役目じゃろ」

「オラ達もナインドで最初ユユクの世話になったべからな」

「…お話を聞いた限り相手が受けた恩の方が大きいように思えましたがね」

「ザンゲフも先輩としてアルの面倒見ておったしの」

「オラも手合わせに誘ってもらっただな」

「…お話を聞いた限りヨコヅナ様はガラの悪い先輩冒険者に絡まれただけですがね」

「要はこういうのも冒険者っぽいと思っただけじゃ」

「言いたいことは何となく分かりました。ただ…」


 ラビスはキリト達の方へ顔を向け、


「あなた方は冒険者に登録してどれぐらいになるのですか?」

「三人共まだ半年です」


 ヨコヅナとカルレインは登録してからまだ三か月、活動したのは実質一か月以下なので、


「期間だけで見れば向こうの方がお二人より六倍以上先輩のようですよ」

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