第355話 さすがにトマトは言い過ぎじゃな
キリトは次々飛びかかってくるゴブリンを凌ぐだけで精一杯になっていた。負傷したボージーもギリギリ凌いでいるが出血が酷く息も荒い、限界なのは明らかだ。そしてガンタ至っては逆さ吊りで石をぶつけられ続け顔がボコボコになっていた。
(ふざけんなよ!初冒険でゴブリンにやられて終わりとか、小説に出て来る雑魚冒険者まんまじゃないか!バカチビが見え見えの罠に引っ掛かりやがって!ビビりノッポも数に動揺して大怪我しやがって!ガキの頃から付き合いだからってこんな奴等とパーティー組むんじゃなかった!!…どうする、このままじゃいずれ三人共
キリトは仲間を切り捨てるかどうか頭を悩ませる。非情に思えるが逃げなくては間違いなく命を落とす。
余程の幸運にでも恵まれない限り、
“パチンっ”
どこからか聞こえたスナップ音が余程の幸運を告げた。
辺り一帯が光に包まれる。
「「「!?」」」
光が三人とゴブリン達の視界を奪った中、重い足音と打撃音が連続するように響く。
視界が回復した時キリトの目の前には、
「危なそうに見えたから助太刀させてもらうだよ」
少女を肩に乗せた大男の背中があった。
「カルは二人を頼むだ」
「うむ」
大男の肩から少女が飛び降りる。
「(助太刀…あ!)ゴブリン討伐にきた冒険者ですか?」
「そうじゃ、そっちもじゃろ」
「はい、ご助力ありがとうございます(助かった~…いや、安心するのは早い…)協力してゴブリンを…」
「動かんでよい、そっちのノッポもこっちへ来い」
「え、あ、はい」
(動かんでよいって、あの大男が一人で戦うって事か?確かに強そうだけど…)
キリトとしては手強いゴブリンがまだ10匹以上、さらに増える可能性もある、一人に任せるのは危険と思えた。しかしそんな考えは大男が近くにいたゴブリンに掌底を振り下ろした瞬間消える。
“グシャっ”
(え!?ゴブリンを潰した?素手の一撃で!?)
他のゴブリンもそれを見て大男を標的と定め襲い掛かる。が、大男の一撃で吹っ飛ぶか潰れるかの二択しか存在しない。
連携を仕掛けられようと変わらない。最初の1匹を掌底で即潰し、次の2匹はそれぞれ腕と足に組み付くことを狙っているのだが、腕に飛びかかって来た1匹の頭を掴み足に組み付こうとする1匹に叩きつけて同時に潰す。最後の1匹の短剣も籠手であっさり受け流しカウンターの掌底で吹っ飛ばす。
(なんでそんなトマトみたいにゴブリン潰せんの!?体格からパワータイプなのは分かるけどパワフル過ぎでは?しかもその体格で多数のゴブリンの連携に余裕で対応って、動きが速すぎなんですけど!?)
「あの人…強すぎない?」
キリトは一瞬自分の口から出たのかと思ったがそれはボージーの呟きだった、全く同じことを思ったのだろう。
「…また来よったの」
少女の視線の先には新たに現れた8匹のゴブリン。その内4匹は大男の方へ、残り4匹はキリト達の方へと向かってきた。
「(くそ、やっぱりまだ来やがった)俺がなんとか…」
「動かんでよいと言ったじゃろ」
少女はキリトの動きを制止し、手をゴブリンに向け光の剣を四本出現させる。“パチンっ”とスナップ音を合図に光の剣はゴブリンに向けて発射され、4匹のゴブリンを貫き絶命させる。
(???…なんだよ今の!?魔法だとは思うけど…あんなの見た事も聞いた事も…)
目の前で起こった現象にキリトの理解は追い付かず、ボージーなど口をポカンと開けて思考が停止してしまっている。
「(あの大男だけじゃなくこっちの少女も只者じゃない)…二人は何者なんですか?」
「冒険者じゃとさっき言ったじゃろ。あと二人ではなく三人じゃ」
「ヨコヅナ様は冒険だと動きのキレが一段と良いように見えますね」
「「っ!?」」
突然隣に現れた(ようには思えた)黒づくめの女性の言葉にビクっとなるキリトとボージー。
「命のやり取りじゃから当然じゃの」
「裏闘は所詮試合という事ですか」
「そっちは済んだのか?」
「石を投げてたゴブリンは始末しました」
その言葉に吊るさられているガンタの方に目を向けるとゴブリンの死体が地面に転がっている。
「ですがあのまま縄を切ると頭から落ちて危険なので、手伝って貰えますか?」
最後の言葉はキリトに向けられていた。
「あ、はい(不気味な女性だけど断るわけにはいかないしな)」
「僕も…」
「あなたは片腕が使えないのですからそこに居てください」
「は、はい」
程どなくして、大男と少女によって現れたゴブリンはほぼ殲滅され、ガンタも黒ずくめの女性とキリトにより地面に降ろされた。
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