第354話 ナインドでは半年以内に冒険者でなくなることも多いがの


「やっぱゴブリンなんて大したことねぇな」


 先頭を歩く平均より背の低い…ぶっちゃけチビ、だけど強気な下級冒険者ガンタ。職業:剣士。


「僕もちゃんと1匹倒せて良かったよ」


 その後ろを歩く逆にノッポだけど気弱な下級冒険者ボージー。職業:戦士。


「ゴブリン一匹ずつだけだが、勝つイメージは大事だ(あれで苦戦するようなら今すぐ冒険者を辞めべきだがな)」


 最後尾に中肉中背で外見には特徴がなく、比較的冷静で腹黒な下級冒険者キリト。職業:剣士。


 三人は王都の一般的な平民家庭に生まれ、家が近く歳も近い幼なじみ。半年前に冒険者に登録し、つい最近下級に昇級した王都の新人冒険者。

 ナインドであれば半年経つ冒険者を新人と呼ぶことはない、ナインドなら実力者がパーティーを組みポイント稼ぎに尽力すれば半年で中級に昇級することも不可能ではないからだ。※推薦がなかったとしても可能。

 だが王都では半年で中級はまずあり得ない、目指そうとすらしない。まず初級冒険者の段階で認識が大きく違う。

 王都でも初級冒険者は雑用系依頼しか請ける事が出来ず、討伐依頼などを請けるには下級以上の冒険者と組む必要がある、これらはナインドと同じ。

 違うのは王都冒険者組合では『冒険訓練』を受講できるシステムがあること。内容は引退した冒険者に訓練をつけて貰うという文字通りのもので、必須ではないが三人のような王都育ちで冒険者になった大半が受講する。そのため王都の冒険者にとって初級は新人以下の訓練生という認識なのだ。

 『冒険訓練』は受講料がかかりポイントは増えない。なので雑用依頼を請け『冒険訓練』を受講、適度に休日をとると半年で下級に昇級するのが平均といえる。

 つまり三人は王都では平均的な下級の新人冒険者なのである。


「つっても、ゴブリンなんて何匹倒したところで誰も認めてくれねんだよな」

「何事にも順序ってものがある、まずはトワーツ森林でのゴブリン討伐だと訓練でも言われただろ(それはゴブリンを何十匹も倒してから言え)」


 半年間雑用依頼と『冒険訓練』だけだった三人にとって、ゴブリンとは言え王都を出て魔モノの討伐依頼は初めての冒険と言えた。そして王都の新人冒険者は大半が同じ順序を辿る。


「それに受付さんが最近被害が増えてるから気を付けるように言ってたよ」

「そんなもんヤられた冒険者が弱かっただけだろ。俺らなら余裕だったじゃねぇか」

「油断は禁物だ(チビのクセにほんと口だけはデカいな)。1匹逃がしたしな」


 三人は森に入ってから一度4匹のゴブリンと遭遇し、内3匹は倒したが残り1匹には逃げられた。

 

「別に一匹ぐらい良いだろ、今は増殖期で森にはわんさかゴブリンいるって話だしよ」

「……そう聞いたが、あれ以降ゴブリン出てこないな」

「うん、森に入って結構立つのにね」

ねぐらにこもってんじゃねぇか、遺跡に行けばもっといるだろ」

 

 トワーツ森林の中心部分には遺跡がある。既に調べつくされていて宝が眠っているなどという事はないが、ゴブリンが塒にしていることが多く運が良ければゴブリンが奪った金目の物を発見できる場合もあるので王都の新人冒険者はまず遺跡を目指す。


「噂のホブゴブリンを討伐出来たら、自慢出来るんだけどなー」

「弱いゴブリンだけでいいよ~、僕達は初冒険なんだし」

「(子供の頃から何百回と思ったが、二人を足して二で割れたらいいのに)今日はとにかく数を…、いたぞ」


 キリトが斜め前を指さす、その先には一匹のゴブリン。


「さっき逃げたゴブリンかな?」

「ゴブリンの見分けなんかつかねぇよ。とりあえず狩っとくか」


 ガンタが走りだすと、ゴブリンも背を向けて走り出す。 


「逃げんじゃね!」

「おい!突っ走るな(チビ!)」

「一人になったら危ないよ」


 ガンタを先頭に三人でゴブリンを負う。


「あのゴブリンもしかしてねぐらに向かってるのか…?」

「でも、遺跡とは方向が違うよ」

「遺跡は冒険者が目安にしてるだけだからな(見つかっていないねぐらならゴブリンが盗ったモノを貯めこんでる可能性もある)」

「だったらこのまま倒さず後を追うか」


 三人がゴブリンを追っていると、少し木々がはけた広場に出た。


「あれ、ゴブリン何処いった?」

「隠れたか(見失うなよ、使えない)」

「ここはねぐらって感じじゃないね」


 三人がゴブリンを探していると、


「お、あれって…」


 ガンタが別の物を見つける。それはキラキラと光を反射するネックレス。


「ラッキー!お宝発見!」

「え?ちょ、待て!」


 キリトの声を聞かずネックレスを拾おうとしたガンダは、


「ぎょわぁぁー!?」

「ガンタくん!」

(バカチビが!)


 片足を縄で引っ張られ逆さ吊り状態になる。同時に鳴子の音が響きわたる。


「これってゴブリンの罠!?」

「(誘い込まれたのか?)不味い!早くガンタを降ろさ…」


 キリトが言い終わるよりも早くゴブリンが現れる、その数は12匹。


「一度にこんな沢山!?」

「落ち着けボージー、背を合わせろ!」


 背中合わせになり武器を構える二人、しかしそれでは吊るされているガンタを助けることは出来ない。


「ガンタ!何とか自分で降りれないか?(てか降りろ!)」

「へっ、これぐらい余裕で、痛っ!?」


 ゴブリンの投げた石がガンタに命中する。


「痛てっ!下のゴブリンを何とかしてくれ!」

「くっ、先にゴブリンを倒すぞ!」

「う、うん!」


 キリトは一番近いゴブリンに斬りかかる。剣はゴブリン肩口に食い込み深手を負わせる。


「よし!いける」


 と、思ったのもその一瞬だけ攻撃の隙を狙って2匹のゴブリンが飛びかかってくる、高く飛んできた1匹は剣で弾いたが1匹が左足に組つく。

 そして動けないところを短剣を持ったゴブリンが襲う。

 

「くそがっ!」


 キリトは体を捻るようにして短剣をかわす。しかし、組みついてたゴブリンが爪を太ももに食い込ませる。


「痛っ…この!」


 キリトは足を掴むゴブリンを斬りつけ蹴るようにして剥がす。


「うあぁーっ!」


 後からの悲鳴に振り替えると、右腕に短剣を突き刺されたボージー、足にはゴブリンが組ついている。


(俺と同じ!?ゴブリンが狙って連携攻撃しているのか?)


 予想以上のゴブリンの実力、仲間の負傷、さらに、


「くそっ、まだ来るのかよ!」


 8匹のゴブリンが現れ状況は悪化する。

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