第344話 二人は大人じゃからの
「……ちょっと意味が分からないだ」
「王覧試合とは王が見ている前で行われる試合のことよ。近衛騎士は王族の警護を専属とする騎士のこと」
「いや言葉の意味じゃなく、何故そんな案に決まったかが分からないと言う意味だべ」
ヨコヅナとしては【簡素で短い時間に制限した面会】みたいになると思ったのだが、
「どう考えても普通に面会するより手間も時間もかかるだよ」
「重要なのは手間や時間よりも形式なのよ」
「それも王族や貴族のマナーってやつだべか」
「あくまで今回はこの形式が選ばれただけよ、他に様々な案は出ていたいわ。でも相手も望んでいたのでこれに決まったの」
「相手も……近衛騎士がだべか?」
「簡単に言えば近衛騎士達はヨコが気に入らないのよ」
「ん~…?」
ヨコヅナは頭を捻って考えてみるが、覚えている限り近衛騎士と関わったことはない。
「やっぱり意味が分からないだな」
「安心してくださいヨコヅナ様。これに関してはバカだからではなくコフィーリア王女の説明が悪いだけです」
ラビスはある程度推測出来ているが、それは元王女専属だった為内情を少し知っているからであり、その知識無しでは意味が分からないのは当然だった。
「これから順を追って説明するわよ。まずヨコの特技がスモウという格闘技なのは周知されてるの。私が目をかけたきっかけだからね」
「それはその通りだべな」
闘技大会翌日に呼び出されてスモウを教えたのはヨコヅナも覚えておりきっかけと言って間違いない。
「王覧試合で平民が戦った前例はあるし、他に使い手がいないスモウを披露するという名目であれば、最低限の形式は整う」
「王様と面会じゃなく、王様にスモウを見せるに変わるって事だべか」
「その解釈で間違ってないわ」
「…ここまではオラでも理解出来るだな」
「そして王覧試合の案が出た際、「では相手は?」という言葉に真っ先に「任せて欲しい」と言ったのが近衛騎士の隊長なのよ。理由は嫉妬ね」
「嫉妬…?どれだけ思い返しても近衛騎士と関わった覚えないんだべが」
「ヨコになくても向こうはしっかり覚えているの。ヨコが生誕パーティーで私と踊った事を」
最後の言葉を聞いて、
「なるほどの、そこに繋がるのじゃな」
「王覧試合に私情を持ち込むのはどうかと思うな」
カルレインとハイネは話の筋が見えた。ヨコヅナも、
「あの時、決闘を申し込む者が出てくる、みたいに言ってたたが…」
「フフ、メガロほど直情的な者は近衛騎士には居ないみたいね。でもずっと機会を伺ってはいたのだと思うわ」
近衛騎士がヨコヅナとの試合を望んだ理由は感づけた。
「自分達がコフィーリア王女に相手にされていないからといってヨコヅナ様を妬むのはお門違いです」
「近衛騎士は伝統あるだけにプライドが高いのよ。だからこそ王覧試合の相手として賛成されたわけだけどね」
コフィーリアは笑みを浮かべる。
「さて、順を追って説明したけど他に分からない事はあるかしらヨコ?」
「……姫さん何か隠してないだか?」
「何の事かしら?」
「やけに笑顔が多いのが怪しいだ」
「笑顔が多いと怪しまれるなんて悲しいわ」
「問題が発生したって言ってたのにその笑顔、まるで姫さんの想定内に思えるだよ。もしそうなら姫さんの目的があるはずだべ」
ヨコヅナの推測にコフィーリアはより笑みを濃くする。
「フフフ、格闘だけでなく色々と成長してるようで嬉しいわ。そう、お父様とヨコの面会の話を出した時からここまでは私の計画通りよ」
反対意見が多く出ることも、父である国王が妥協案を話し合う事も、王覧試合が提案されれば近衛騎士が立候補することも、コフィーリアの先読みと誘導を駆使した計画通りの結果なのだ。
「目的は近衛騎士隊を潰す事」
目的を聞いてヨコヅナは眉を寄せるが、
「やはりそうですか」
「本気だったのだな」
ラビスとハイネは予想していた言葉だった。
「王族を護る騎士隊を潰したら困るんじゃないだか?」
「一度潰して作り直すと言う意味よ」
「今の近衛騎士は使えんということかの?」
「全員スモウを始める前のメガロとでも言ったところかしら」
「それは確かに使えんの」
近衛騎士はエリート中のエリートと言われているが、それは上位貴族の中の軍学校で成績上位だった者が選ばれるのであって、軍人として優秀な実績が有る者が選ばれるわけではない。
「実力主義の軍でもここだけは家柄重視なの。さらに平和が続いてる今では完全なお飾り部隊、伝統があるから私でも中々口を出せなかったのだけど、上手乗ってきてくれて助かったわ」
そこまで聞いて違和感を覚えたのが一人。
「以前大会の後、王女はヨコに「私直属の近衛騎士にしてあげてもいいわよ」とか言っておらんかったか?今の話じゃと入隊出来んじゃろ」
「フフっ、言ったわね。その場合ヨコを騎士にしてから私の護衛に任命する。重宝することで近衛騎士から今と同じように嫉妬の対象なって、試合させる展開にしたと思うわ」
「ヨコの立場が違うだけでやらせたいことは同じなわけじゃな」
「まぁ、あの時は本気で言ったわけではなかったけどね。ヨコの素質も未知だったし、騎士になるだけでも最短で4年かかるし」
「本気だったとしてもヨコヅナ様は即お断りしましたけどね~」
「あぁ~、断っても良いと言ったのに断ったら蹴られたあれだべか」
「ムカついたから蹴ってやったとかコフィーから聞いたな」
「専属メイドの間でも噂になってましたね。説教したうえ腹パンまでして、誘っても断られて当然ですよ」
「懐かしいわね。とは言え1年半、偶然が重なってではあるけど大幅に前倒しになったのは嬉しい限りだわ」
過去の横暴を懐かしいの一言で終わらし、話を本筋に戻す。
「さっきは「スモウを見せる」で間違っていないと言ったけど、より正しいのは「スモウで圧倒的勝利を見せる」なのよ」
「試合形式はどのようになるのですか?」
「一対一の格闘戦よ」
昔のメガロ程度の実力であれば格闘戦でヨコヅナが負けることはまずない。
だがその場合、
「それで近衛騎士を倒したとしても、「格闘は専属外」「実践形式であれば」などと言い訳され、潰せるとは思えないのですが」
「私もそう思うわ。だからヨコが朝の手合わせでやっている、一人倒したら次、また倒したら次、のようなルールでやれば全員倒せるわ」
「全員って何人倒すことになるだ?」
「王都にいる近衛騎士は50人だったはずだ。見習いを含めたらもっといるがな」
「昔メガロ50人か。ヨコならいける数じゃの」
「そうよ。だからそうしたかったのよ、本当は」
ここでコフィーリアの笑顔は消える。言葉の意味はつまり出来なかったということ。
「こっちがほんとの問題発生。またヒョードルとケオネスが反対してきたのよ」
反対意見とは「そのルールだとヨコヅナが一人目で負けた場合そこで終わりとなってしまう」「そんな醜態が晒されるルールは王覧試合で許されない」というもの。コフィーリアは万が一にもあり得ないとヨコヅナの強さを説明するが「いや、ヨコヅナはプレッシャーに弱い。実際闘技大会の時もそうだった」とケオネスに反論され、さらにヒョードルによってヨコヅナが最近体調を崩して長期休暇をとっていたことまで話された。
「裏闘での話は出来ないから、あっさりヨコ一人には任せられないという雰囲気に持ってかれたの。なんなのあの二人!普段は喧嘩ばかりの癖に私の邪魔するときに結託して」
さすがのコフィーリアもヒョードルとケオネス二人がかりだと計画通りとはいかなかったらしい。なによりヨコヅナの公式記録が去年の闘技大会準優勝しかないのが痛かった。
ただこれもケオネスとヒョードルは、プレッシャーに弱いヨコヅナことを思って反対したのが本心からの理由だ。
「じゃあ王覧試合も無しだべか?」
「いえ、反対されたのはヨコ一人で近衛騎士と試合すること」
つまりヨコヅナ以外にも近衛騎士と試合する者がいれば了承される。
「王覧試合は5対5の団体戦に決まったわ」
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