第341話 靴屋の倅は転生者!? 27
えぇ~、普通に殺してんじゃん!?やり過ぎて死んだ、じゃなくて殺してんじゃん!!?
あれが裏闘のトップ、将軍級と言われる武九王かよ。
「へぇ~、武九王なんてカッコよく言われてるだけあってなかなかやるわね」
「トップ選手ともなればやっぱ怪物級か」
「注目する点は容赦のなさですね、初撃での首の負傷で相手は戦意を失っていたように見えました。にも関わらず止めの心臓への貫手」
「冷酷無比の暗殺者がガチで比喩じゃなかったのー」
みんなも『蛇牙』って選手の強さに驚いてる。……でも思いの外冷静だな、冒険者だから殺しに耐性あるのかな…?
でも普通の職の人があんなの見たら…、
「さすがブータロン商会最強の選手、社長に勝てると言うだけはあるねェ」
デルファさんは平気そうだな。この人はそんな気してた、堅気に見えないもん…あ、これは差別的考えか。目が四つあって悪役っぽい見た目だけど決めつけたら駄目だよな、反省反省。
「ちっ、負ければ良かったのに」
オリアさんは舌打ちするぐらい不機嫌になってる!?…グロが苦手なのかな?なんか違う気もするけど、
「モグモグ、ゴクンっ。飯が不味くなる試合じゃな」
確かにこの試合観た後だとステーキ食えなかったかも。てか、カルずっと食ってんな。
「ヨコヅナ様のブチかましでも同じ展開になりますか?」
「オラのブチかましはあんなに遅くないだが…、初手で使うのは得策じゃないだな」
ラビスさんとヨコヅナ君は冷静に対戦した場合のこと考えてる。脅威には思ってるようだけど、人が殺されたことについてはなんとも思ってないみたいだ。……ひょっとしてヨコヅナ君も何人か殺してるのかな?バジリスクを素手で殺せるんだから全然あり得そう。でもそんなこと聞けないしな…、
「ヨコヅナ君あんな殺す気満々なヤバイ奴と試合するの?」
「申し込みは何度もきてるだが、条件が合わないだよ」
条件って賭ける金額のことだよな。個人じゃなくて組織同士だから多額って言ってたけど、あの相手だと負け=死なわけで…、
「そりゃ条件合わないわ」
「もし、Cのくじ引きであんなのが相手だったら最悪だべな」
「今現在Cの俺には洒落になんねぇよ!…てかあの選手Cランクでもあんな試合してたのかな?」
「ラビス知ってるだか?」
ヨコヅナ君すぐラビスさんに聞くんだな…。
「私が調べたところC、Bともに5連勝昇格、ですが半数は不戦勝。2、3試合今のような戦いをして金網の中に入る相手がいなくなったのでしょう」
つまりC、Bでも対戦相手殺してたわけだ。でも裏闘で不戦勝ってあるんだ…これはある意味朗報だな、金網の中にあんなのが居た場合入らず降参出来るって分かったんだから。
「アル君はCでまた試合したの?」
お、それを聞いてくれますかオリアさん!
「はい、また勝ちました三勝目です!」
「凄いじゃない、着実に勝ちを重ねてるのね」
「ギリギリの辛勝だったけどね。毎回5連勝昇格するって言って出来てないし」
クレア余計なこと言わなくていいんだよ!
「ギャンブルで焦りは禁物よ。無理せず確実に勝つのが最善」
ですよね~、さすがオリアさん。
「セコンドとして何度も汚いCの会場に行かないといけない私の身にもなってほしいわね。ヨコヅナは一回で済んだんでしょうけど」
何でお前オリアさんにちょっときついんだよ、嫉妬か?
「それは確かに辛いわね。でもそう思いながらも行ってあげてるなんで優しいのね」
「…別に、さっきの試合みたいに死なれたら目覚め悪いだけよ」
今度は照れてんのか?軽くクレアを言いくるめるとかオリアは大人だな~。
「5連勝昇格はヨコを意識してるのでしょうけど、アル君はアル君のペースで良いんじゃない?」
「そうですかね……」
オリアさんの言葉を否定したくはないけど、冒険者としてどうなんだろう…?
「Cランクつっても5連勝昇格は簡単なことじゃねぇよ。私も出来なかったしな。負けもしなかったが」
俺の心の疑問が聞こえたわけじゃないだろうけど、エルリナさんが答えてくれた。
エルリナさんはCは負けなしの10勝で昇格したんだ。
「エルリナさんはBではどんな感じなんですか、その戦績とか?」
「4勝2敗、そのうち1敗は大将だ」
ヨコヅナ君とも試合したんだ……それはつまり、
「ヨコヅナ君試合でエルリナさんを叩きのめしたの?」
「のめしてないだよ」
「大将がちゃんこ作れなくなったら困るから降参してやったんだよ」
「反則攻撃しまくっといてよく言うだな」
反則…金的とかかな?駄目だけとヨコヅナ君を倒すには仕方ない気もする。
「刃が出る細工武器でヨコを怪我させてたわね」
それはさすがに即失格なんじゃねぇの!?降参って言ったけど失格負けだったのかな?
「……ヨコヅナ殿に唯一傷を負わしたとか言っていましたが、反則だったのですかエルリナ」
「それを自慢気に言うとか信じられないのー」
「大将が女は殴らないとか言ってっから本気にさせてやろうと思ったんだよ」
ヨコヅナ君試合でも女性は殴らないんだ、また女性と試合する事になったらどうするんだろ?あ、でもAは相手選べるから大丈夫なのか。
「社長が本気になってたらドラゴンヘッドは選手も冒険者も引退してるよ」
「…かもしれねぇな。話を戻すが4勝2敗はBランクでの中の上ってとこだ。アルも同じ剣士だ、一先ず私の戦績を目標にしな」
と言う事はCは負けなしで10勝、Bでは3試合して2勝を目標ってことか…、これでも難しそうだけどヨコヅナ君の膝も着かずに5連勝昇格よりはずっと現実的だな。クレアはどう思うかは分からないけど…。
俺がクレアに視線を向けると、
「エルリナと同じ戦績なら及第点ってところね」
及第点っなんだよ!
「クレアは試合しないくせに偉っらそうに言うなぁ」
ほんとだよ!もっと言ってやってくださいエルリナさん。
「あら、エルリナの剣士としての実力を認めてるからの言葉よ」
「…私もクレアの弓の腕は認めてるから、誉め言葉と受け取ってやるよ」
なんか二人で認め合ってる…。前に俺を捨ててエルリナさん達と冒険しようと思ったって聞いたけど冗談じゃなかったの?捨てずに俺もパーティーの入れてくれよ!俺は剣士だけど…、
「同じって言ったけどアル君は魔法剣士なんでしょ。水の魔法が使えるってヨコに聞いてるわよ」
そうそう、魔法も使えるんだぜ…て、ヨコヅナ君そんなことまでオリアさんに話してるんだ。もしかしてオリアさんが俺に興味あるから色々ヨコヅナ君に聞いたとか?それだと嬉しいな~。
「いや~、魔法剣士なんて言えるような魔法じゃないんですけどね~」
でもここは謙遜しとくべきだよな、実際ちょっと水を出せるだけだし。
「モグモグっゴクン…、我もヨコから聞いていたが見たことなかったの。ちょっと使ってみせてくれんか」
意外にもカルが興味をしめしてきた、その言葉に皆も俺に注目する。
「ああ、ちょっと待ってくれよ」
俺はグラスに残ったジュースを飲みほし、空になったグラスに魔法で出した水を注ぐ。それを見て「おぉ~」「へぇ~」と感心してくれる。女性陣の俺への好感度アップじゃないか!
「ふむ、ちょっと驚きじゃな…」
「カルから見ても凄い魔法なんだべか?」
「いや、魔法のレベルとしては低い、初歩の魔法じゃ。我が驚いたのはアルに魔法の才能はないのに、初歩でもちゃんと使えておる事にじゃよ」
俺って魔法の才能ないんだ!?
「習得しようと努力しても初め1年ぐらいは何の成果も無かったじゃろ」
「お、おう。でもどうしても魔法を使えるようになりたかったから頑張ったぜ」
成果が無かったのは1年どころじゃなかったけどな。それ考えたら確かに才能無いな俺。
「カルは見ただけで魔法の才能の有無が分かるのか?」
「おおよそじゃがの」
「魔法って才能無くても努力したら使えるようになるのカルちゃん?」
「無いと言ったが凡才という意味じゃ、何年も努力すれば先のように初歩魔法なら使えるようになる。じゃが一年以上目に見える成果が無かったら普通止めるじゃろ。アルは余程魔法を習得したかったのじゃな」
そりゃ~、やっぱ異世界に来たら魔法だからな。
「オラには10年努力しても使えるかどうかって言ってなかっただか?」
「ヨコは凡才どころか劣才じゃからの」
「オラ劣才なんだべか…」
ちょっとショック受けてる。魔法に関してはヨコヅナ君は凡人以下なのか、でもその分格闘技と料理の才能あるから同情は出来ないな。
「ウィピは魔法使えるようになるまでにどれぐらいかかったのですか?」
「初めて火を出せたのは、習い始めて半年ぐらいだったのー」
「ウィピで秀才と言ったところじゃな。クレアも似たようなもんじゃ」
秀才だったら半年で魔法使えるようになるんだ…ん?
「クレアは魔法使えないだろ」
「使えるわよ、風の魔法」
クレアが俺の頭に指を向けると風が舞い髪が逆立つ。おい、止めろ。髪が乱れるだろ!
「それも秘密にしてたのかよ」
「秘密にしてないわよ、何度も見せてるじゃない」
「…見た覚えないんだけど」
「風魔法で射った矢の威力を上げたり、軌道を修正してるのを何度も見たでしょ」
……あぁ!エライ遠くまで飛ばしたりギュンって曲がったり、凄い弓の技術だなって思ってたけど、あれ魔法だったのか。
「でも私はエルフの中じゃ魔法使えない方よ」
「エルフ族は人族より魔法の才能があるからの。エルフの凡才が人族では秀才じゃ」
「へぇ~、……因みにカルの魔法の才は?」
「わははっ、我は天才に決まっておるじゃろ」
さすが八大魔将、言うねぇ~。本物かどうか知らないけど。
「そろそろ帰るべかな」
話に区切りがついたところでのヨコヅナ君の言葉に皆も帰り支度を始める。
今日は楽しかったな~。高価な美味しい料理を食べて凄い試合を見て、何より女性陣と沢山喋れた。バイトして高い入場料払った甲斐あったよ。次もみんなで観に来るのかな、だったらお金貯めとかないと。次は俺もヨコヅナ君に賭けようかな…、
そんなことを考えていると、
「帰るには早いぞヨコヅナ」
この人は、
「ケイオルク…、オラに用だべか?」
そうだ、ヨコヅナ君の会社で会ったケイオルクさんだ。
「何しに来たのよ陰険眼鏡」
「勝利者同士祝杯を挙げようと思ってな。あと眼鏡はかけてないだろ」
前も似たようなやり取りしてたような…、何でオリアさん眼鏡かけてないのに陰険眼鏡呼ばわりしてるんだろ?
「そっちの選手はとてもそんな風に見えないけどねェ」
デルファさんの言う通り、ケイオルクさんの後ろには『蛇牙』選手がいるんだけど……感情が感じられない、何この人?怖い上にめっちゃ不気味。
「蛇牙もこう見えて内心大喜びしているんだよ」
絶対嘘だ、幼稚園児でも嘘だって見抜けるよ。この世界に幼稚園ないだろうけど。
「どっちにしろあんたらと一緒に祝杯を挙げる理由なんてないわよ。今日の試合だって条件を飲まないこっちへの挑発でしょ」
「どう受け取って貰っても構わない。だが、そちらには利しかないはずだ」
「試合を観て手の内を知れたのは確かだねェ。それでも社長に勝てるといった挑発なんだろうけど」
「挑発する相手はもう一人いたようですが」
「それは誤解だな。良い試合を見せしたかっただけさ。実際見事な完勝だっただろ」
あれを見事と言えるこの人も普通の感性をしてないんだな。
「そう言う割に勝ってもヨコヅナみたいに女が寄って来ないのね。人族ではハゲはモテないの?」
おいクレア、エルフとしての純粋な質問なのかもしれないけど失礼だろ!
「オレは剃っているだけで髪は生えてくる」
怒っては無さそうだが、ハゲについては訂正してきた。
「蛇牙はAランク初勝利の時、不用意に近づいた遊女を殴ってな。それ以来1人も寄って来ない」
祝いにきた美女を殴る人いるんだ!?
「酷いことするだな」
「オレの後に立つヤツが悪い」
殺し屋みたいなこと言ってる…みたいじゃなくてそのまんまなのか…。
「話を戻すが祝杯を挙げたいのは俺だけではなくてな。『不倒』のファンが別室に集まっていてる、俺は仲介役を頼まれたんだ」
「なんであんたが仲介なのよ」
「俺はヨコヅナの友達だと言ってあるからな」
「…それは行かないといけないんだべかな?」
「只の選手なら断っても問題ないが、ヨコヅナは社長だからな。行く以外の選択肢はないと思うぞ」
乗り気じゃなさそうなヨコヅナ君。ファンとの交流が嫌なのかな?
「いつも祝い金を包んでくださってる方々も居られるでしょうから、顔を出しておくべきでしょう」
「…そうだべな」
観念してヨコヅナ君は席を立つ。
「エルリナ達は先に帰っててくれだべ。ちょっと仕事してくるだ」
「…おう、頑張んな」
「我も先に帰っておるぞヨコ」
「わかっただ。それじゃみんな、まただべ」
ヨコヅナ君はラビスさん、デルファさん、オリアさんを連れてケイオルクさんの案内で会場を出ていった。…オリアさんも残って欲しかったな~。でも無理か、仕事ってのはセレンディバイト社としてのって意味だろうし…、
「カルも会社の一員なのに行かなくて良かったのか?」
「我が行ってもヨコの妹か、娘扱いされるだけじゃからな」
妹は俺もちょっと考えたことあるけど、娘と思う人いるのか…。まぁ、ヨコヅナ君正装するとより老けて見えるのは確かだな、とても年下には見えない。
「それに同じ料理しか出てこんじゃろうしの、他の料理店に行くなら我も一緒にいったのじゃがな」
そりゃ全メニュー食べたんだから同じもん食べることになるわな。てか、まだ食えんのかよ!?
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