第342話 ほんとに内緒じゃ


(どうすべきですかね…)


 裏闘会場からの帰り馬車の中。シアンはヨコヅナについて考えていた、正確にはどう接していくかを。


(これまで通り冒険者の友達のままでいるか、それとももう少し親密に…)


 このような事を考えているのはコトローズ家にヨコヅナを招待する件の返答が、つい先日に届いたからだ。


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 コトローズ家にヘルシング家からの返答の手紙が届いた際、シアンの家族、ブラク、マゼンダ、イエロも揃ってプチ家族会議があった。


 まず手紙には遅くなった謝罪と理由が書かれていた。

 理由は遠まわしではあるがコフィーリアに許可を求めていたからと読み取れる。どれだけヨコヅナとコフィーリアが親しいかも書かれていた。親しいことは知っていたが、生誕パーティーでダンスを踊ったことも書かれていてシアンだけでなく他の三人も驚ろいていた。


 手紙には次にヨコヅナが招待を了承したことが書かれていた。ただし忙しい為日時をすぐに決めることが出来ないことと、カルレインとラビスが同行する事が追記されている。

 本来貴族の招待を平民が先延ばしにするなどまずあり得ないことだが、忙しい理由がコフィーリア王女関係と書かれている以上コトローズ家は何も言えない。

 同行する二人。カルレインはシアンが助けてもらった時に一緒にいた当事者であり、ラビスはヨコヅナの侍女と説明があるのでコトローズ家として反対する理由はない。


 手紙の最後にヨコヅナについて詳しく書かれていた、当たり前だが良い部分を強調して。

 

 手紙を読んだブラクは、


「ヨコヅナ君とは親しくしておく価値はありそうだな。だが王都に来て一年で急速に台頭していることが、逆に危なっかしくも思える。シアンに相応しいかはまずビジネス面で繋がりを持ち、一年ほど様子を見てから決めるべきか」


 と、無難な答えを出した。

 それを聞いてマゼンダは、


「一年ですか……。私も将来的に準男爵になれる相手なら認めなくはないですが」


 条件つきではあるが肯定的な答えを出す。

 シアンはこれで結婚の催促はしばらくないだろうと計画通りの展開に笑みを浮かべた…のだがイエロの、


「てか姉さん、相手にされてなくないか?」


 という言葉に表情を凍らせる。


「何も知らないくせに適当なことを言わないでくださいイエロ」

「いや、このヨコヅナって奴の返答に対してそう思うんだよ」

「忙しいと言っていることですか?それとも他に同行者がいることですか?」

「それについても思うとこはあるけど、それ以前に…」

 

 イエロはヘルシング家からの手紙を取り、


「手紙ってこれだけだろ。好意ある相手から家に招待されたら直筆の手紙も送るのが普通じゃね」

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(あの愚弟はほんと私をイラつかせますね)


 そう思いながらもイエロの言ってることは的を射ていると分かっている。シアンも最初コトローズ家宛て以外にヨコヅナからシアン宛ての手紙が同封されてないか確認したのだから。その場では「貴族と平民とでは常識やマナーに少なからずズレがあるのですよ。イエロの普通とヨコヅナ殿の普通は違います」と自分も含めて強引に納得させた。

 シアンとて現状でヨコヅナに特別好意を抱かれているとは思うほど自惚れてはいない。だが、相手にされてないとも思わない、プライドが許さない。


 だから今日、シアンは服も髪のセットもかなり気合いを入れていた。

 みんなも着飾っていたが、

 エルリナはモヒカンロングが奇抜すぎる。

 ウィピは子供体型。

 クレアはエルフだけにかなりの美人に見えるが、やはり胸が…。

 シアンは自分が一番魅力的だと思っていた。

 しかし、今日合流したヨコヅナの言葉は、


「みんな今日綺麗だべな。ドレスよく似合ってるだよ」


 と、みんなまとめてのモノだった。

 だか、シアンがショックを受けたのは別にあった。


(まさかヨコヅナ殿の姉があれ程の美女だったとは…)

 

 オリアと比べたらその他でまとめられても仕方ないと思ってしまうほどだ。

 

(しかもヨコヅナ殿ととても仲が良い、平民の姉弟とは皆ああなのでしょうか?そもそもあの二人は血の繋がりは無いのですよね…実は恋人なのでは?いや、それを言うならラビス殿…)


 今日メイド服ではなく黒いドレスを着たラビスを見て、シアンはちゃんこ鍋屋の開店祝いパーティーでヨコヅナとダンスを踊っていたのを思い出した。その時にラビスは王女専属使用人だと言う事を聞いており、今日そのことを質問したのだ。

 ヨコヅナの補佐を続ける為に王女様の専属を辞めたという言葉は、誰が聞いても特別な感情があるとしか思えない。


(生涯補佐するって…それはもう伴侶なのでは?ヨコヅナ殿も信頼しきっていましたし…)

「何やら色々考えておるようじゃの?」


 難しい顔をしているシアンに馬車にいるもう一人、カルレインが声をかける。会場を出た際はエルリナ達含め6人で乗っていたのだが、帰る場所が近い順のルートを通りシアンの実家とハイネの屋敷遠かったので2人になったのだ。


「ヨコについてかの?コトローズ家に招待する件で話がしたかったのではないか?」

「…ええ、まぁ。カルも一緒にこられるのですよね」

「うむ。聞きたい事があるなら我が代わりに答えてやるぞ」


 シアンとしても聞きたいことは沢山あるが、


「もちろんここでの話は内緒じゃ」

(全てお見通しですか……カルは一体何者なのでしょうか?)


 見た目は10歳程度の少女、だが10万人に一人と言われる光魔法の使い手。幅広い知識にどう考えも小さい体に収まらない食事量。

 ウィピと同じで見た目と年齢に差があるだけだと思っていたが、付き合いが増えカルレインがそれだけの存在ではない事にシアンも気づいていた。


(ですが悪意は感じられませんし、本当に内緒にしてくれるでしょう)


 シアンはカルレインの正面に座り姿勢を正す。


「気遣い感謝します。では、いくつか質問させてください。ヨコヅナ殿は招待されたことについてどうお思いなのでしょう?忙しく予定を決めれないとの返答だったので実はご迷惑だったのかと…」

「迷惑とは思っておらんよ、先約があるのじゃ。忙しいと言うより余裕がないと言った方が正しいじゃろうがな」

「余裕がない…王女様関係と手紙には書かれていましたが具体的なことは聞けますか?」


 内緒と言っていたのでちょっと踏み込んだことを聞くシアン。


「近々国王との面会があるらしくての」

「国王との面会……え?平民であるヨコヅナ殿が国王様と!?本当ですか?」

「王女から直接言われたことじゃから嘘ではあるまい。ただ明確な日時は決まっておらぬので予定が組づらいのじゃ。それにヨコは王に面会するにあたっての礼儀作法など知らんので最近は暇があれば練習しておる」

「そういった理由が…」


 王女様関係ということでどんな理由でも納得せざるをないのだが、これは納得とかそういうレベルの理由でない…。


「我が家への招待の件は後回しで構いません、いえ、絶対に後でお願いします」


 日時が決まってないとはいえ国王との先約。万が一コトローズ家が後から約束して割り込んだなどと噂が流れては目も当てられない。


「何か協力出来ることがあれば言ってください(お父様でも同じことを言ったでしょう)」

「申し出は有難いが、その辺はラビスが上手くやるじゃろ」


 さらっと出てきたラビスの名前に、


「…やはりヨコヅナ殿とラビス殿は恋仲なのでしょうか?」


 先ほどまで考えていた疑問が口に出てしまう。


「あ、これはさすがに踏み込み過ぎた質問ですかね?」

「あの二人の関係は特殊での、親密ではあるが主従であって恋仲ではない。現時点ではの」


 特殊という部分が気になるがそれこそ踏み込み過ぎだとシアンも分かっている。

 代わりでもないが、


「では、オリア殿とは?」

「オリアとヨコは姉弟じゃ、血が繋がっておらずともの。こっちは今後も変わることはないと思うぞ」

「では現時点でヨコヅナ殿に決まった女性はいないと?」 

「そうじゃな。…その辺を聞くということは、やはりコトローズ家の招待はお見合いの意もあるのかの?」

 

 聞かれて当然のカルレインの質問に、


「…そうですね。色々教えてもらいましたのでカルには初めからお話しします」


 シアンは経緯から話すことにする。


「これも内緒でお願いしますね」

「うむ、もちろん。内緒のコイバナじゃ」


(カルはコイバナがしたかったのですか)

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