第339話 靴屋の倅は転生者? 26


「つまんない試合ね」


 金網の中では二試合目が行われているのだが、ヨコヅナ君の試合と比べて会場は全然盛り上がってない。一試合目が盛り上がり過ぎた反動もあるだろうけど、


「Aの選手はバケモンばかりかと思ってたがそうでもねぇんだな」

「この二人と比べるとヨコヅナ殿の相手は実力が高かったことがよく分かりますね」

「動きが遅いのー」


 俺から見てもレベルが下がったのが分かる、Aランクと言ってもピンキリなんだな。

 因みに実況席のメンバーも全員変わってる。頑張って実況してるけど盛り上がらなくて辛そうだ。


「残り三試合全部こんなショボい試合だったりしないわよね?」

「Aランクでは基本最初と最後に目玉の試合を持ってきます。あと観る価値あるのは四戦目ですね、武九王の試合ですから」

「賭けの倍率表にも書いてんな武九王って」

「文字的に裏闘のトップ選手九人の総称ですか?」

「ええ、その実力は将軍級と言われています」


 あ、メガロ様が言ってたやつだ。武九王かぁ、総称とかってカッコいいよな。


「だからと言って盛り上がる試合になるかは別ですが」


 ん、盛り上がりそうだから最後なんじゃないのかな?まぁ、盛り上がらなくても裏闘でトップ選手の実力が分かるわけだから確かに観る価値があるな。


「『不倒』様ご注文の料理をお持ちしました」

「ありがとうだべ」


 ヨコヅナ君が頼んだ料理がテーブルに置かれる。

 野菜スープ

 オムレツ

 果物のミックスジュース


 え、何でそんな朝食みたいなメニュー頼んだの?もっと高い料理頼めばいいのに。


「何じゃヨコ、噛めんぐらい顎痛いのか?」

「噛めないほどでもないだが、痛みながら食べたくはないべからな」


 あ、顎痛いからそんなに噛まなくていい柔らかい料理を頼んだのか。


「本気で戦わないから悪いのよ。こっちは有り金全部賭けて内心ヒヤヒヤだったんだから」


 やっぱ内心ヒヤヒヤだっただなクレアのやつ。てかヨコヅナ君本気じゃなかったの?


「それなりに本気だったべ。あと賭けは自己責任だから文句言われても困るだな」

「どこがよ、ナインドであの…トップのバカと手合わせした時はヨコヅナもっと動きが良かったわ」


 トップのバカ?…あ、ヤクトさんの事か。名前覚えてなかったのかよクレア。


「それは私も思ったな。籠手が無いにしても攻撃喰らい過ぎじゃね?って」

「私も同意見です。序盤は誘いでしたが中盤以降も相手の攻撃を待っていたように見えました」

「そもそも倒れた相手を攻撃しない時点で本気じゃないのー」


 みんなからはそう見えたんだ…。確かにヤクトさんとの手合わせではヨコヅナ君怪我しなかったな。ヤクトさんが今日の相手より劣ってるとは俺も思わない。


「…トップのバカって誰のこと?」


 オリアさんは分かってないのか、俺が教えてあげよう!


「ヤクトさんといって、ナインドトップと言われる冒険者チーム『蒼天の四星』のリーダーです」

「あぁ~、ナインドで『蒼天の四星』のリーダーと手合わせしたって話は聞いたわね。…でも、バカなの?」

「バカと言うか、体格が劣るのにヨコヅナ君にアームレスリングを挑んであっさり負けたからみんなそういう認識になっただけで、ちょっと自信過剰って言う方が正しいと思います」

「社長相手に勝てる気でアームレスリングを挑んだんだったらバカと言われても仕方ないね。でも手合わせで社長が本気を出す程の実力者だったんだね」


 ヤクトさんとの手合わせでヨコヅナ君が手加減していたとはさすがに思えない。


「あの時は真剣を持ってるつもりで手合わせしてたべからな」

「何よりヤクトはイケメンじゃからの」

「「それなら本気になるわね」なるねェ」


 ヨコヅナ君がイケメンに厳しいはオリアさんとデルファさんにとって納得の理由なんだ!?


「ヤクトとの手合わせと違って、攻撃を待っていたのはそうだべな。コクエン流との違いを知りたかっただよ」

「それじゃあの猛攻もワザと喰らってたってこと?」

「喰らう気はなかっただが、後ろに下がらされたのが予想外でその後の攻撃も防げなかっただよ」


 そういやちょっとふっ飛ばされてたな。それも自分より小柄な相手にだからヨコヅナ君も驚いたわけか。

 

「でも盛り上がってたからよしだべかな」

「…ヨコヅナ君観客とか意識しながら戦ってるの?」

「Aランクの試合は会社の宣伝にもなるだよ、観客の印象に残る試合をした方がより会社の利益になるだ」


 ヨコヅナ君が社長っぽいこと言ってる、二割増しの計算も出来ないのに。


「利益を語るなら予想収益ぐらい計算出来るようになりなさい」

「痛いだよ」


 またオリアさんに抓られてる、お決まりのやり取りなんだな。お説教と言ってたけど、ちゃんと愛情が見て取れる…。


「いいな~、俺も抓られたい」

「なによアル、抓って欲しいの」


 誰にも聞かれないぐらい小声で呟いたつもりだったのにクレアには聞こえていたようで…、


「痛い痛い痛いっ!!」


 強く抓り過ぎだろ!?てか、暴力まな板エルフに抓られたいわけじゃないんだよ!!


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