第319話 社長のくせにケチじゃの
「いらっしゃいませ。ひさしぶりですねエルリナさん」
「ワコちゃんひさしぶり」
「開店からなんて珍しいですね」
「今日から大将が厨房に立つって聞いたんでな。5人だけどカウンター席で頼むよ」
「分かりましたー。こちらへどうぞ」
わざわざ開店前から待っていたのは、何処でも空いてる開店時なら5人でも厨房前のカウンター席に座れるからだ。
「久しぶりだべな。エルリナ、ウィピ、シアン、元気そうでなによりだべ」
「おう、大将もな」
「お久しぶりです、ヨコヅナ殿」
「おひさなのー」
ナインドで別れてからそれほど経ってもいないが冒険者は危険と隣り合わせ、怪我をしている様子もない三人を見て笑顔のヨコヅナに三人も笑顔で返す。
席に座りながらエルリナは常連客の通例になりつつある、
「大将、とりあえずちゃんこ」
注文を聞かれる前にとりあえずちゃんこを頼む。
「みんなもそれでいいか?」
「はい」
「ウィピもー」
「…私はそのトマトちゃんこにするわ」
クレアが店内貼られた『期間限定新メニュー!トマトちゃんこ!!』のポスターを指して注文する。ヨコヅナが厨房に立つのに合わせて今日から発売なのだ。
「我もトマトちゃんこ、炙りチーズも頼むのじゃ」
ヨルダック達と色々試行錯誤して、トッピングで炙りチーズをのせれるようになっている。
「分かっただ」
ヨコヅナは作りながら、
「アルはどうしただ?」
「ウザいから置いてきたわ」
「酷いだな!?」
「一応出る時に声はかけたけど、足が痛いから行かないって言ったのよ」
クレアはちゃんこ鍋屋に食べに行くことはアルに伝えている。
「アルなら多少足痛くても来そうじゃがな……、ヨコは今朝アルと話はしなかったのか?」
「今日はあんまり話しなかっただな、アルはメガロ達と話してたべから。ナインドでも思っただが、アルは年上と仲良くなるの上手いんだべかな」
アルがナインドでザンゲフ達年上の冒険者と仲良くなっていたことや、スモウ稽古に参加しているメガロたち年上の軍人とも直ぐに打ち解けているのを見てそう思うヨコヅナ。
だが、
「男とは、の」、ね」、な」、ですね」、なのー」
女性陣の見解は少し違う。
「アルは丁度良い強さの後輩感があるのじゃよ」
冒険者も軍人も戦闘の強さがモノを言う。だから一般人以下の強さだと相手にされない。だが、ヨコヅナのように強過ぎれば嫉妬心を抱かれる。
アルの強さは丁度良いのだ、先輩の冒険者や軍人としては。
「嘗められてるとも言えるけどね」
「ああ、「こいつには負けない」と思われてるってことだからな」
「自尊心を高めれる相手ってことです」
「引き立て役なのー」
「……アルが聞いたら泣きそうな評価だべな」
絶対泣くだろう。
「アルの話はもういいわ。ちょっと気になったんだけど、あの接客員初めて見るけど新入り?」
「ヤズッチだべか」
クレアが視線を向けているのはヤズミ。クレアは何度かちゃんこ鍋屋に食べに来ているがヤズミを見た事は無かった。
「前からいるだよ。最近は経営面の仕事もしてもらってるから、接客することは少なくなってるだ」
「……かなりデキそうだけど、ヨコヅナの弟子?」
「お、クレアもそう思うか。ヤズッチ只者じゃねぇよな」
エルリナも以前からヤズミの接客しながらでも隙の無い動作を見て、かなりの実力者だと思っていた。
「弟子じゃないだよ、時々手合わせはするべがな。ヤズッチは姫さんとこからの派遣従業員だべ」
「姫さん?……ああ、ヨコヅナはこの国のお姫様に支援してもらってるんだったわね。王族から派遣されるなら実力者でも不思議じゃないかしら」
そうクレアは納得する。
が、違う意味で、
「え!?ヨコヅナ殿はコフィーリア王女を「姫さん」と呼んでいるのですか?」
「そうだべ」
「ご本人に対しても?」
「そうだべ」
あっさり言うヨコヅナに対してシアンは声も出ない程驚いている。エルリナやウィピも少なからず驚いている。
「何をそんなに驚いてるの?ヨコヅナがお姫様と仲良いってだけでしょ。……あ、人族としては王族と平民が仲良しってだけで驚くことだったわね」
エルフ族は身分の差はあれど血縁を重要視しない。エルフ族の王の息子が次の王かと言うとそんなことは決まっていない。エルフ族では王になれるのは常に有能な者だ。なので、人族ではまずあり得ないことだが、王族と有能な平民との婚姻などもエルフ族では普通にあり得るのだ。
「それもそうなんだが、コフィーリア王女が呼ばれ方に厳しいのは私ら冒険者でも知ってるぐらい常識なんだ」
「親戚でも許可なく呼び捨てにしたら殴るって噂があるぐらいなのー」
「それは噂ではなく事実です。なので平民が「姫さん」などと呼べば不敬罪になり得ます」
貴族であるシアンは噂ではなく真実だと知っているからこそ、コフィーリアをヨコヅナが「姫さん」というあだ名に近い呼び方していることに声が出いほど驚いたのだ。
「メガロにも咎められたことがあっただな。でも姫さんに許可はもらってるだよ」
「ヨコヅナ殿とコフィーリア王女の関係は…」
「直属の部下ってことなってるだよ」
「ペットでもあるらしいがの」
「ペット!?……それは、ひょっとして…あの、その……」
言い淀むシアンを見て、ヨコヅナは首を傾げカルレインは何を言いたのかを察する。
「わはは、シアンが想像してる夜伽の相手をするような間柄はないぞ」
「…おいおい、昼間っから何想像してんだよシアン」
「シアちゃんはムッツリなのー」
「ムッツリ令嬢ね」
「違います!」
意地の悪い笑み浮かべる4人に、顔を赤くして否定するシアン。
「では何を想像したのじゃ?」
「え、いや、その……」
「やっぱりムッツリじゃな」だな」なのー」ね」
「違いますっ!!」
「あはは、仲良いだべな」
ヨコヅナの言う通り仲が良い五人。以前も冒険者として新入りで種族も違うクレアをいじることはあったが、今は貴族であるシアンがいじられている。種族も地位も超えた仲良し五人組だ。
「エルリナさん達は一緒に冒険に行ったんですよね」
「そうだぜ、ワコちゃん。私達の冒険譚聞いてくれよ」
「聞きたいですけど、今はちゃんこ以外のご注文も聞いていいですか?」
「おっとそうだな…」
常連のエルリナを切り口に五人の会話に自然に入りつつ、注文を聞くワコ。
「焼豚に、具入りオムレツ。あと酒はこれを頼む」
「お昼から飲むんですか?」
「冒険者の特権さ」
「冒険者がゴロツキ呼ばわりされる原因でも有りますがね。私は切身魚のパン粉焼きとライス。あとポテトサラダをお願いします」
「ウィピはミートスパゲティ頼むのー」
「ふふ、お二人もナインドでヨコさんが作った料理を気に入られたのですね」
「「も?」」
「私は厚切りローストビーフとライス大盛」
「クレアさんも話で聞いた料理をいつも注文されるんですよ」
「我は肉料理をメニューの上から順に頼むのじゃ」
「おぉ!カルさん男前な注文ですね」
「代金はヨコの給料から引いといてくれなのじゃ」
「え、いいんですかヨコさん?」
「カルの給料から引いとくから、注文は通していいだよ」
「はーい。ご注文承りました」
他の注文を通したところで、
「よし、ちゃんこ出来ただよ」
ヨコヅナが五人の前にちゃんこを置く。
「きたきた。最近は定期的にちゃんこ食べないの落ち着かなくなってきたぜ」
「中毒者みたいですね。でも、私もまた食べたいと思っていました」
「ウィピもなのー」
三人はいつものちゃんこを食し、
「「「ふぅ~、美味しい」」」
しみじみと味わう。
いつもと違うちゃんこを頼んだクレアは、
「っ!このトマトちゃんこ、ナインドで食べた時より美味しいわ」
「そう言って貰えて嬉しいだよ」
「カルの頼んだチーズのせも美味しそうね」
「うむ!このチーズとトマトの相性が抜群なのじゃ」
「チーズをのせる分こってりするから好みがあるべがな」
トマトちゃんこは、暑い時期にトマトの爽やかな酸味を売りにしたちゃんこ。トマトとチーズと相性は抜群なのだがのせるとこってりするので選べるトッピングにしたのだ。
「さっきカルの給料って言ってたけど、どんな仕事してるの?冒険者みたいに好きな時しか働かないとか聞いたわよ」
「
「え、何その文字通り美味しい仕事!?私も
「それなら私も
「ウィピも
「意地汚いですよ、と言いたいところですが私も
『人気料理店の新作料理の試食』そんな依頼を出せばきっと応募が殺到するだろう。が、
「そんな
文字通りのそんな美味い仕事はない。
確かにカルレインは新作料理の試食時必ず呼ぶようにしているがそれだけが仕事ではない。カルレインの仕事は相談役と言うのが一番適切だ。
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